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炎陽の退魔師~炎の刃を振う少年は白面金毛九尾の少女と共に妖怪を狩る~  作者: 河原 机宏
第ニ章 東京樹海

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甦る記憶

 この多勢に無勢の状況を打破するには金鬼と銀鬼を足止めしつつ他の妖を潰していく必要がある。


「熊童子、俺が金鬼と銀鬼を抑える。その間に他の雑魚の数を減らして退路を確保してくれないか」


 俺の提案に対し熊童子は一瞬驚いたように目を大きくする。


『どうしてあなたが危険な役割を? あの二人なら私が――』


「適材適所ってやつだよ。お前の方が雑魚散らしを早く出来そうだし、タイマン勝負は俺の得意分野だしね。まあ、相手は二人だけど何とか抑えてみるさ」


『分かりました。あの二人は物理攻撃に高い耐性を持っています。魂式による技でなければダメージを与えられないでしょう』


「分かった」


 俺と熊童子は二手に分かれ各々の敵を迎え撃つ。

 俺の前方には金鬼と銀鬼の二体が下卑た笑い顔をしながら立っていた。


「何がおかしい?」


『お前……死んだぜ。俺等を同時に相手して生き残ったヤツなんて、今まで一人もいなかったんだからよぉ!』


『愚かだな。熊童子と一緒にかかって来ても勝てる見込みはないというのに。まさか一人で向かってくるとは』


「そう簡単に行くと思うなよ。参ノ型改――焔烈火えんれっか!」


 緋ノ兼光に炎を纏わせて接近戦を仕掛ける。ただの斬撃が効かないとしても炎が通ればいけるはず。


「これでっ!」


 銀鬼に焔烈火を食らわせるとヤツは斬られた腹を押さえて苦しむ様子を見せる。


『ぐっうおおおおおおおお! いってぇぇぇぇぇぇぇ!!』


「やったか!?」


『な~んてな』


「なっ!?」


 さっきまで苦しんでいた様子を見せていた銀鬼は馬鹿にしたように笑ってみせる。金鬼も同様に笑っていた。


『あの程度の攻撃でやられるわけねーだろうがよ。攻撃ってのはこうするんだよ!』


 銀鬼につけた刀傷はすぐに再生され元の状態に戻ってしまう。するとその巨体から予想出来ないスピードで接近しこん棒で殴りかかってきた。

 焔烈火で強化した刀でこん棒を受け止める。物凄い力だがそれでも何とかなるレベルだ。

 こん棒を切り払って斬撃を浴びせるが銀鬼は全くダメージを負っていない。さっきとは違って傷すらついていなかった。


「何で……あっ!」


 何故かと思い刀を見ると焔烈火がいつの間にか消失していた。俺の反応に満足したように銀鬼が攻撃しながら種明かしをしてくる。


『俺たち兄弟が持っているこん棒は魂式を砕く力を持っているんだよ。これはさすがに熊童子も知らなかったはずだ。てめえの炎なんぞ俺等の前じゃ風前の灯火みたいなもんなんだよ!』


 再び焔烈火を纏わせるが、銀鬼のこん棒を受け止めた瞬間に炎が四散してしまう。


「くっ……」


『これで分かったろ。俺たち兄弟には刀は効かないし魂式もこん棒でぶっ壊せる。もうお前には勝ち目はこれっぽっちもありゃあしないんだよ! 諦めてとっとと死ねや!!』


 迫って来る銀鬼から距離を取るため縮地で後方に高速移動し着地した瞬間身体に衝撃が走った。

 

「がはぁっ!」


 先回りをしていた金鬼がこん棒で俺を背部から殴りつけたのだ。


「いつの間に後ろに……」


『俺たち兄弟は妖力や気配を抑えて活動するのが得意でな。敵の視界から外れればこうして奇襲をかけるのも容易い。――銀鬼、いつまでも遊んでいないで熊童子をやれ。このガキは既に虫の息だ。俺だけで問題は無い』


『分かったぜ、兄者』


 銀鬼が熊童子の方に向かって行く。俺が銀鬼を追いかけようとすると再び金鬼が攻撃をしてきて俺を妨害してくる。


『いい加減くたばりな……小僧!!』


「邪魔をするなぁぁぁぁぁぁ!!」


 魂式を練り上げて金鬼に炎刀流の技を放とうとした時異変が起きた。体内の魂式が弱まりすぎて練り上げることが出来なかったのだ。

 こんな事は初めてだ。確かに連戦で魂式は弱まっていたが、まだ技を繰り出せる力は残っていたはずなのに。


「魂式が練り上げられない。どうなってんだ?」


 困惑する俺を見て金鬼は笑っている。


『さっき銀鬼が言っていただろう。俺たちの武器は攻撃した相手の魂式を無力化すると。その効果範囲は武器に込められたものだけじゃない。てめえらの身体に流れているものも例外じゃないんだよ。さっき俺のこん棒でぶん殴られて、てめえの魂式はがっつり弱まったのさ!』


 そう言いながら金鬼の攻撃が再び俺を襲う。今度は腹にこん棒が叩き付けられ、その反動で俺は地面を勢いよく転がっていき建物の壁にぶつかって止まった。


「ぐっ……げほ……くそ……」


 霞む視界の向こうで熊童子が銀鬼のこん棒を食らって血しぶきを上げている。力なく倒れる彼を救おうと藻香が割って入り狐火を放つが銀鬼には全く効かない。

 銀鬼は藻香の左腕を掴んで持ち上げ宙づりにすると顔を近づけにたにたと笑っていた。


「このっ……放しなさいよ!」


『放せと言われて放すバカがいるかぁ? 九尾……おめえはあの方の所に連れて行く。でも、その前に少し味見でもさせてもらおうかなぁ? こんな上玉、そうそうお目にかかれねえからなぁぁぁぁぁぁ!』


 まずい……このままじゃ藻香がヤバい。

 身体を起こそうとすると金鬼が近づき俺をこん棒で滅多打ちにする。一撃一撃が重く意識が飛びそうになるが俺は必死で意識を繋ぎ留め続けた。

 いつの間にか刀が弾き飛ばされ無防備になった俺の首を金鬼が締め上げ宙づりにする。

 呼吸ができず意識が混濁する中で俺の名前を呼び続ける声が聞こえた。

 これは……藻香の声だ。必死に俺の名前を叫んでいる。


「燈火ァァァァァ!! 放して! このままじゃ燈火が……!!」


『なんだぁぁぁぁぁ、あいつはお前の男かぁ? だったらあいつの目の前で楽しもうとするかなぁぁぁぁぁぁ!! ぎゃはははははははははは!!』


 藻香の悲痛な声と銀鬼の下劣な笑い声がおぼろげな意識の中に聞こえてくる。

 身体の感覚が麻痺し痛みや呼吸苦も感じなくなってきた。そんな状態の中、今までの記憶が思い出されては消えていった。

 あ……これはまずいな。これって死ぬ直前に見る走馬灯ってやつだろ。俺……死ぬのか?

 

 脳裏に師匠や春水、美琴姐さん、げんさん、六波羅の仲間たちの姿が現れては消えていく。

 その次に思い出されたのは子供の頃に惨殺された家族たちの姿だった。黒くて大きな妖の手にかかって皆死んでいく様子が思い出される。

 そして次に出てきたのは俺の知らない光景だった。

 そこにいたのは藻香……いや、これは玉藻前か。その他にも以前に夢で見た茨木童子、それに熊童子が一緒にいて楽しそうに笑っている。

 その他にもやたらと古いデザインの破魔装束を着ている連中が出て来た。

 これはもしかして千年前に生きていた人たちなのだろうか。どうしてそんな時代の記憶が俺の中にあるのだろう。

 いや……違う……俺は……知ってる……この光景を……彼らを……そうだ……そうだった……俺は……俺は……思い……出した……。

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