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炎陽の退魔師~炎の刃を振う少年は白面金毛九尾の少女と共に妖怪を狩る~  作者: 河原 机宏
第ニ章 東京樹海

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共闘

「これで決まったな。羅刹は俺が必ずこの手で始末する」


 決意を新たに俺が拳を握りしめていると熊童子が驚きの真相を話し始めた。


『玉藻前さま、千年前の『百鬼夜行』との決戦前に行った儀式を覚えていますか?』


「え? ええ、覚えているわ。戦いの神による祝福がなんたらとかいう内容だったはずだけど、どうしたの突然?」


『実はあれは内容が全く異なる儀式だったのです。あれは儀式を受けた者が死した後、その魂を輪廻転生させるためのものだったのですよ』


「ええっ!?」


 藻香が目玉が飛び出んばかりに驚いている。口をパクパクさせて言葉が言葉にならない様子だ。

 そんな彼女を他所に熊童子が語っていく。


『あの輪廻転生の術式は安倍晴明が編み出したもので、当時はかなり効果が不安定なものでした。それでも同じタイミングで術式を刻まれた者は、死した際ほぼ同時期に生まれ変わる効果があります。私はあなた方がこの世を去り、晩年の安倍晴明からその話を聞いたのです。――つまり玉藻前さまが生まれ変わっているという事は、現在どこかに酒呑童子さまと茨木童子さまの生まれ変わりも存在しているという事になるのです』


 藻香は茫然とした様子で立ちすくんでいる。そしてその目から涙がこぼれだした。両手で口元を覆い、涙がとめどなく溢れ頬を伝って地面に落ちていく。


「うそ……酒呑童子が……どこかに……?」


 それは喜びの感情以外のなにものでもないということは明らかだ。俺はその涙を見て胸がチクリと痛むような感じがした。

 たぶん俺は――嫉妬しているのかもしれない。藻香が生まれ変わる前に、かつて心を通わせ合った人物に嫉妬しているのだろう。

 彼女が喜んでいるのにそう思ってしまう自分がとても醜い存在のように感じてしまう。


 その時、俺たちを取り囲むようにかなりの数の妖力が集まって来るのが分かった。 

 藻香と熊童子と目が合い、ここから離れようとすると退路の先に二体の鬼がいることに気が付く。

 こんなに近くにいるのに妖力どころか気配すら感じなかった。それだけでこの二体がかなりの手練れであることが分かる。


『探したぜぇ、熊童子。こそこそと一人で動いているかと思ったら、まさか九尾や退魔師とつるんでいるとはな。この事をあの方が知ったらどう思うかな?』


『それと、てめえが用意したこの植物共だが全然役に立ってねえじゃねーかよ。てめえの話じゃ、完全に都市機能が麻痺して人間どもが食い放題になるはずだったのに、結構な数の建物じゃ電気も水道も無事で人間どもが籠城ろうじょうしているじゃねえか。しかも色んな場所に妖避けの護符が貼ってあって中に入れねえときたもんだ。皆言ってるぜぇ……お前が裏切ったとよ。半殺しにしてあの方の御前に連れて行ってやる。うまい言い訳でも考えとくんだなぁぁぁぁぁぁ!!』


 二体の鬼は熊童子に対して殺気を隠そうともせずに近づいてくる。熊童子はそんな二人を睨み付けて言う。


金鬼きんき銀鬼ぎんきか……相変わらず知能の低そうな連中だ。見ているだけで苛ついてくる。丁度いい、今この瞬間を持って私は『百鬼夜行』を抜ける。戻って羅刹にそう伝えろ!』


 熊童子が羅刹と言った瞬間、金鬼と銀鬼は表情をこわばらせる。恐らく人前でその名を口にするのはタブーなのだろう。

 それにしても金と銀という名前の割には身体の色が黄土色と灰色なのだが、これはどうなのだろうか。完全に名前負けした体色だな。


『てめ……敵の目の前でその名を口にして無事で済むと思ってんのか? それに『百鬼夜行』を抜けてどうするつもりだ。まさか『陰陽退魔塾』に鞍替えでもする気か? てめえみたいな鬼を人間が受け入れるわけがねえだろうが。ぐははははははははは!!』


『私は別に人間の味方をするつもりはない。それに私が忠義を尽くすのは昔も今も酒呑童子さま、玉藻前さま、茨木童子さま……この三名だけだ。羅刹のような卑劣な鬼に忠義を感じたことなど、この千年の間で一秒たりともない! 故に私が敬愛する方の一人である玉藻前さまが復活された以上、貴様等の所に留まる理由は無い』


 熊童子は『百鬼夜行』との決別を宣言した。それを聞いた金鬼と銀鬼は額に青筋を立てながら血走った目で俺たちを睨んでくる。

 バカそうに見えるがこいつらが発する妖力はかなり強力だ。熊童子一人ではこいつらを同時に相手取るのはかなり厳しいだろう。

 俺は立ち上がって鞘から緋ノ兼光を引き抜き構える。

 それを横目で見ていた熊童子が俺に話しかけてくる。


『どういうつもりです? この鬼たちが用があるのは私だけです。あなたには関係ないはずですが』


「俺は退魔師だからな。目の前に現れた危険な妖を討滅するのが俺の仕事だ。共闘するのなら十分な理由だと思わないか?」


 一瞬だけ熊童子が口角を上げて笑ったように見えたが、俺が顔を向けた時にはポーカーフェイスに戻っていた。

 

「よーし、それなら私も――」


 藻香が立ち上がろうとした時、彼女は膝を折りその場で座り込んでしまう。同時に玉藻前の姿から元の人間の姿へと戻った。

 熊童子は敵を正面に見据えたまま藻香に下がっているように言うのだった。


『玉藻前さま、申し訳ありません。私の放ったキマイラのせいです。傷は治っても魂式の消耗や出血などで戦える状態ではないはず。ここは私に任せて隠れていてください』


「そういうこと。こいつらは俺が倒すから少し待っててくれ」


「……分かった。二人共気を付けて」


 藻香は戦いの邪魔にならないように建物の陰に身をひそめて待機する。

 それを見届けた俺と熊童子は、魂式と妖力をそれぞれ高めていく。前方にいる金鬼と銀鬼はそんな俺たちに対しニヤニヤと下卑た笑みを見せていた。


『女の前でいいカッコしたいのは分かるが、相手が悪かったなぁ。お前らの敵は俺たちだけじゃねえんだよ!』


 周囲にはざっと数えただけでも百体以上の妖が集まっていた。完全に囲まれた状態で逃げ場はない。

 生き延びるためにはこいつらを倒すしかない。

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