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炎陽の退魔師~炎の刃を振う少年は白面金毛九尾の少女と共に妖怪を狩る~  作者: 河原 机宏
第ニ章 東京樹海

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千年目の真実

 熊童子が出現させた妖樹に囚われ身動きが取れなくなった俺にヤツは真実を語り始めた。


『『六波羅陰陽退魔塾』は我々『百鬼夜行』にとって最も因縁深く危険な存在ですから、当然そこに所属する退魔師や陰陽師、それに彼等が使用する技や符術に関しては調べ上げています。――ですが、六波羅炎刀流に関しては特に調査はしていませんでした』


 言っている意味が分からない。どうして調べもしていない六波羅炎刀流のことをこいつは詳しく知っているんだ。


『やはり不思議に思いますよね。それなら教えてあげますよ、真実をね』


「熊童子ッ!!」


 キマイラと戦っている藻香が大声を出して熊童子を睨み付けている。

 その時、彼女の正面からキマイラが猛スピードで襲い掛かろうとしていた。


「藻香、敵が――!」


 凄惨な状況になるかと思った矢先、藻香の眼前に出現した九尾が尻尾でキマイラを吹き飛ばし、そこから前足でライオン顔を踏みつけ地面に叩き付けた。

 そのパワーとスピードはさっきまでとは明らかに段違いで起き上がろうとするキマイラを完全に押さえ込んでいる。

 俺が藻香と九尾の変化に驚いていると、熊童子が満足そうな表情を浮かべながら続きを話し始めた。


『あなたは我々『百鬼夜行』の頭領を酒呑童子さまと思っているようですが――それはとんだ見当違いです』


「――え?」


『彼は確かに『百鬼夜行』を組織しましたが、それから間もなくしてこの世を去っています』


 こいつはいったい何を言っているんだ。酒呑童子が千年前に亡くなったって言ってるのか?

 そんなはずはない。だって俺たちはずっと『百鬼夜行』とその首魁である酒呑童子を倒すことを目的として戦ってきたんだ。

 つまり『陰陽退魔塾』はヤツを倒していないってことじゃないか。だとしたらいったい誰が酒呑童子を倒したって言うんだ。


「そ、そんなのでたらめだろ。適当なことを言うな!!」


『いいえ、真実ですよ。……一つ昔話をしましょう。元々、酒呑童子さまが『百鬼夜行』を作り上げた目的は鬼やその他の妖たちが人間を襲わないようにするためだったんです。自分たちが監視者となり妖を人間から遠ざける。その一方で『陰陽退魔塾』は人間を妖の脅威から守るという表向きの任務を持って組織されました。ですがその裏では人間が妖と接触しないように人間サイドに対して目を光らせる役割を担っていたんです』


「ちょっと待てよ……それじゃまるで『百鬼夜行』と『陰陽退魔塾』は両陣営の種族を監視する組織みたいになるじゃないか。そんな偶然があるわけ――」


『偶然ではありません。『陰陽退魔塾』の創設者である安倍晴明は酒呑童子さまと親交があったのです。そして妖と人間の戦いを終わらせるために彼等が作り上げたのが、その二つの組織だったのですよ。二人は苦難の末『百鬼夜行』と『陰陽退魔塾』を実現させ、しばらくは平穏な日々が実現しました。しかし、ある鬼の出現によりそれらは崩壊したのです』


 熊童子の顔はさっきまでの飄々《ひょうひょう》とした態度とは全く異なり真剣そのものだ。

 その頃、キマイラを押さえつけるためにその場に留まっている藻香は俯いていた。

 俺は自分が所属している組織に対する今まで耳にしたことの無いルーツを聞かされて困惑していた。

 それでも真実を確かめずにはいられない。その先に今まで知りもしなかった真実があるのだと本能が言っている気がした。


「それはいったい誰なんだ?」


『その鬼の名は〝羅刹らせつ〟。酒呑童子さまに成り代わり『百鬼夜行』の長として君臨し、現在にまで至る人間と妖の戦争を生み出した張本人です』


「羅刹……そいつが『百鬼夜行』の真の首魁なのか」


『その通りです。この話がでたらめでないことは玉藻前さまも良く知っておいでです。あの方は酒呑童子さまや茨木童子さまと親交が深かったですし、お二人が『百鬼夜行』を追放されてからは三人で夫婦の関係になっていましたから』


「えっ!?」


 俺は驚いて藻香の方に視線を向ける。藻香は遠い目で空を見上げながら口を開いた。


「――――真実よ。燈火、今まで黙っていてごめんなさい。でも……言えなかった。真実を言ってしまったら、色んなものが壊れてしまうんじゃないかって怖くて言えなかった。……本当に……ごめんなさい」


「藻香……」


 悲しそうな顔をする藻香になんて声を掛ければいいのか分からない。

 彼女がどれほどの悩みを抱え苦しんでいるのか、それを知らない俺は黙っている事しかできなかった。

 そんな俺の代わりに真実を知っているであろう熊童子が話を再開させる。


『玉藻前さまが真実を話せなかったのも当然です。燈火さん……でしたよね。あなたが使っている六波羅炎刀流の技――あれは本来、酒呑童子さまが使っていた技なのですよ』


「――は?」


『つまり六波羅炎刀流の技を伝えたのは酒呑童子さま本人ということです。あの方は羅刹から逃げのびた後、創設されたばかりの『六波羅陰陽退魔塾』の一員となり自らの技を伝えたのです。その際、ごく僅かの退魔師や陰陽師たちは真実を知っていたようです。ですが、その頃は『百鬼夜行』による虐殺が激しくなっていて、依然として首魁と目されていた酒呑童子さまに対する人間の憎しみは相当なものでした。そのため、酒呑童子さまは自らが憎しみの対象になったまま、人間を守るために戦ったのですよ』


 なんだよ……それ。俺の使っている技が今まで敵の親玉だと思っていた酒呑童子の技って……こんな皮肉な真実があるのか?

 それに熊童子の言っていることが本当だとしたら、酒呑童子は人間や妖の平和のために戦ったって事じゃないか。

 そんな重要な真実を知られずに千年以上も『百鬼夜行』の首魁として憎まれ続けて……救いが無さすぎるじゃないか。


「くっ……うぐ……」


『あなた……泣いているのですか?』


「え? あれ……俺……なんで?」


 熊童子が不思議そうな表情で俺を見ている。指摘されて俺自身、自分が泣いていることに気が付いた。

 不思議な感じだ。確かに酒呑童子の話は救いようがないことだけれど、ここまで感情移入するとは思わなかった。

 何だかまるで自分の……そう、昔の自分の話をされているような……当時の悲しくて苦しかった気持ちが湧き出てくるような、それらがないまぜになって涙として流れだしてくるような感じがする。

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