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天狗襲来

 美琴は目的地である帝都ホテルに向かって西側を迂回するルートを進んでいた。燈火たちと別れて早々に彼女は妖の集団と遭遇し戦闘状態に突入していた。


「まったく、次から次へと湧いてくる……この分やと樹海と化した『東京二十三区』は妖の巣窟になったと見て間違いないな」


 薙刀型の式武――風音かざね骨喰ほねばみを巧みに操り近づいてくる妖たちを斬り裂いていく。

 武器をくるくる回転させながら植物にがんじがらめにされた建物に下り立ち変わり果てた街並みを見て溜息を吐いた。


「次の任務に就く前に渋谷とか行ってショッピングや美味しい食べ物を仰山楽しもう思ってたのに、それが全部パァーや。ほんま苛つくわぁ~」


 イライラを募らせる美琴の頭上から鳥の姿をした妖の集団が降下してくる。それを睨み付けると彼女を覆うように風が巻き起こる。

 風音骨喰を回転させると風は回転を伴ったものに変化していき、あっという間に竜巻を形成した。


「あんたらはこれで吹っ飛びな。六波羅風刀流、参ノ型――谷風たにかぜ!」


 鳥型の妖たちは竜巻に飲み込まれると身体をバラバラに斬り刻まれて消滅した。

 それからふと気が付くとさっきまで周囲に溢れかえっていた妖たちの気配が無くなっていることに気が付く。


「なんや……さっきまで仰山いた雑魚の気配がのうなってる。――っ!?」


 美琴の前方にある建物。その頂から彼女を見下ろす者がいた。背中には鳥のような翼が生えており、明らかに人間ではないことが分かる。

 そしてその者の顔もまた鳥のような猛禽類を思わせるものであった。その姿を目の当たりにして普段はちょっとやそっとでは動じない美琴に動揺が表れる。


「あれは……間違いないからす天狗てんぐや。けど、いったいどうして?」


 美琴が困惑していると烏天狗の男が彼女の目の前まで飛んできた。猛禽類の琥珀色の瞳がジッと見つめてくる。


「レディの前に突然現れてだんまりなんて、随分と失礼な天狗やな。あんたこんな所で何をしてるんや?」


 天狗は妖の中でも知能が高く強力な妖力を持っている種であるが鬼とは異なり争いを好まない。

 普段は人里離れた山間部でひっそりと暮らしており人間と妖の争いにも基本的には関わらないスタンスを通している。

 それは大天狗おおてんぐからす天狗てんぐ女天狗めてんぐといった天狗の全種族に共通して言えることであった。

 そのため大勢の人間が存在し、かつ妖が大量発生している現在の『東京』の環境は天狗にしてみれば最も忌み嫌うもののはずなのだ。

 そんな謎の行動をする烏天狗が美琴の問いに答えた。


『それは失礼したな。俺は烏天狗の鷹丸たかまると言う。俺はお前のような強者が現れるのを待っていたんだ。――そう、『陰陽退魔塾』の猛者をな』


「――っ!?」


 鷹丸から膨れ上がる殺気と妖力を感じ取った美琴は後ろに跳んで距離を取る。薙刀を握る手に自然と力が入る。


「一応うちも名乗っとくわ。うちは『六波羅陰陽退魔塾』所属、一級退魔師の風花美琴や。ところであんたは『百鬼夜行』の一員か? 争いを好まない天狗にしては珍しいなぁ」


『そうだろうな。俺自身、自分が天狗の中でも異端だということは自覚しているよ。――だが、人間だって皆が皆同じ考えを持っているわけではあるまい。天狗とて同じよ。中には俺のように時が止まったような生活にうんざりし、闘争本能の赴くままに戦いたいと思う者も現れるのさ』


「確かにあんたの言うことも一理あるわね。誰かと戦いたいちゅう気持ちは分かったけど、せやったら妖と戦うてほしいものやわ」


 鷹丸は両腕を組んでくつくつと笑った。同時に彼の妖力と殺意が更に膨れ上がるのを美琴は感じ取っていた。


『天狗は荒魂あらみたまより生まれし存在、妖の一種だぞ。どうして人間に加勢する必要がある? そんな事よりいい加減俺と戦ってもらおうか。お前の風は力強く美しい。さっきの技も本気ではあるまい。――お前の力を俺に示せ、風花美琴ッ!!』


 鷹丸はヤツデの葉を模した剣を取り出し風の斬撃を美琴に放つ。身体に風を纏った美琴は空中に飛んで攻撃を回避した。

 標的を逃した鷹丸の風は建物を真っ二つに斬り裂き、切断面がズルリと滑って地面に落下していった。


「挨拶がてらにしては中々に危ないのを見舞ってくれたみたいやな。このままあんたを放置しておけば後々面倒そうやし、ここで叩きのめしてやるわ!」


 薙刀の切っ先を敵に向け宙を蹴り一気に加速する。途中で何度も宙を蹴り変則的な動きで美琴は鷹丸に接近していった。


『空中歩法術の無天か。お前たち人間にとって難易度の高い技術のはずだが、それを連続して繰り出すとは――面白いっ!』


 空中で美琴と鷹丸がぶつかる。薙刀とヤツデの葉剣の刃の接触面から火花が散り、二人の周囲に強風が吹き乱れる。


「さすが天狗といったところやな、風の扱いはお手の物のようやな!」


『そう言うお前こそ大したものだ。元来空を飛ぶ力のない人間がここまで風を操れるとはな。――だがまだ!』

 

 鷹丸は薙刀を切り払い美琴を吹き飛ばす。そこに追撃するように風の斬撃波を連続で放った。


「――ちっ!」


 風の刃が直撃する寸前で体勢を立て直して回避すると美琴は地面に滑り込むようにして着地した。

 その一部始終を満足そうに眺めながら鷹丸もゆっくりと地面に着地する。


「うちが空中戦で遅れを取るなんてちょっとショックやわ」


『むしろ誇りに思うべきだ。空は我々天狗にとって実力を発揮できるテリトリー。そこでの競り合いで傷一つ受けずに済んだのだからな』


「随分と上から目線やな。そうやってイキってると足元をすくわれるで」


 二人は互いに不敵な笑みを見せると再び得物をぶつけ合う。周囲の瓦礫が二人が巻き起こす風で吹き飛んでいく。

 何度も鍔迫り合いをしていると二人を中心として周囲に風の渦が形成されていった。それに気が付いた鷹丸は歓喜の表情を見せるのであった。


『これは――! 一流の風の使い手同士が互角に渡り合う時に発生するという風壁か。俺も見るのは初めてだが、まさか人間との戦いでこの現象が発生するとは。予想以上に面白い女だ、美琴!』


「馴れ馴れしくファーストネームで呼ぶの止めてくれる? それにこの現象は二人分の風の魂式と妖力が周囲に蓄積して発生したもんやろ。一々喜ぶことやないで」


 テンションを高める妖の男と冷静な人間の女。この戦場に置いて対照的な姿勢を見せる二人であったが、お互いに魂式と妖力を高めていくのであった。

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