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炎陽の退魔師~炎の刃を振う少年は白面金毛九尾の少女と共に妖怪を狩る~  作者: 河原 机宏
第ニ章 東京樹海

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樹海となった東京二十三区

 俺たちは帝都ホテルに滞在中の『六波羅陰陽退魔塾』局長の総一郎のじっちゃんや師匠たちと合流すべく、異変が起きた『東京』に向かった。

 地震の影響で公共交通機関は麻痺していたため楪さんの自動車で現地へと赴いたのだが、『東京』に近づくほど地震の影響が強く倒壊した建物も多くみられるようになった。

 途中で道路が封鎖されていたが、『陰陽退魔塾』は国の統括下にある組織であるため正式な手続きを取って俺たち先に進んだ。

 

「これ以上は自動車では行けそうにありませんね」


「そうだね。ここからは歩いて行くしかないな」


 自動車から降りた俺たちの前方には、コンクリートを破り地中から出て来た木の根で滅茶苦茶になった道路と大量の植物によって覆われた街の姿があった。

 朝に地震があってから僅か数時間で都心部は別世界になってしまった。


「これが本当のコンクリートジャングルってやつか」

 

「ちょっと燈火……不謹慎でしょ。都市がこれだけ大規模に変わってしまったのよ。市民に相当の被害が出たはずよ」


「ご、ごめんなさい」


 藻香がジト目で怒っている。確かに配慮が足りなかった。しかし意外だったのは藻香だ。

 俺も今まで様々な状況下で任務に当たっては来たが、これだけ特殊な環境は初めてだ。多少戸惑いはある。

 一方で『陰陽退魔塾』の本格的な任務に初参加の藻香は至って冷静に見える。俺がそう思っていると当の本人と目が合ってしまった。

 その時、俺の疑問が伝わったのかそれに答えてくれる。


「これでも一応前世では結構修羅場を潜り抜けて来たからね。今回の植物の異常発達は地下を流れる龍脈が関係していると思う。これだけ大規模な呪術的現象……少なくとも数年、いえ数十年以上前から仕込みがあったと考えられるわ。こんな手間の掛かることをやるなんて間違いなく『百鬼夜行』の仕業ね」


「ということは、ただ単に都市を植物に飲み込ませただけでは終わらないだろうな。遠くから妖力をいくつも感じる。――ここはもう既に妖の巣と化しているようだ。急いで師匠たちのもとへ向かうぞ」


 俺たちは別世界になった都市を駆け始めた。『東京二十三区』の中心部から離れた場所は住民の避難が進んでいて、この辺りには人の気配がない。

 だが、奥に進めば進むほど周囲から感じる妖力の数や力が強まっていく。とてもじゃないが、一般市民でどうにかなる状況じゃない。

 妖に襲われれば抵抗も出来ずにやられるだけだろう。


「姉弟子、他の『陰陽退魔塾』の応援ってどうなってるんだ?」


「関東地方は元より日本全国から随時応援が向かっとる。樹海と化した『東京』に既に入っている部隊もおる。それにここは関東で最大規模を持つ『浅草陰陽退魔塾』のおひざ元や。そこにはあの〝鈴鹿すずか御前ごぜん〟もおることやしな。市民の救助は始まっているはずや。但し、帝都ホテルにおる近藤局長や師匠たちへの救援は後回しにされているやろな」


「どうして? 近藤局長って『陰陽退魔塾』のトップなんでしょ。住民も大切だけど、その人の安全を第一に考えるのが普通じゃないの?」


「あー、藻香がそう思うのは当然なんだけどね。既に局長の周りには一級退魔師が二名と特一級退魔師が一名いるという普通じゃない戦力が揃ってるからね。その人員なら並の『陰陽退魔塾』を軽くひねりつぶせる。皆それが分かっているから救援の必要はないと見てるんだ。それよりも一般市民の救助が急務だと判断しているはずだ。現に俺もそう思ってる。――皆聞いてくれ、俺はこれから周囲にいる妖を狩って回ろうと思う。外から救援が来るにしても妖がいたらそれもままならないからな」


 俺はこの部隊の隊長である美琴姉さんに提案するが、本人は少々呆れた顔をしていた。


「――却下や」


「何でだよ。一級退魔師が三人もいて固まって行動する必要はないだろ」


「燈火、あんたの悪い癖や。作戦立てるにしてもプランがいい加減すぎる。あんた一人が妖退治に出張ったとして何時いつうちらに合流するのか、その他諸々ちゃんと考えておらんやろ?」


「うぐっ」


「けどあんたの言う通りや。一級退魔師が三人固まって動く必要はない。――そういうわけで作戦を立てたわ。これからうちらは、三つのチームに分かれて帝都ホテルを目指す。燈火と藻香は東側に大きく迂回するルート、うちは西側から迂回して行く。春水と楪はこのまま真っすぐ最短ルートで目的地を目指す。合流時間の目安としては暗くなる前に必ず帝都ホテルに到着するように行動すること。それが出来んかったら敵にやられたものと考えてホテルから救援を送ることはしない。これでええな」


 俺に異論はない。藻香と楪さんも同意したが春水は納得していないようだ。


「それなら僕が姉弟子と代わります。姉弟子は楪さんと一緒に――」


「それも却下や。春水……あんたは普段は超冷静でそれが最大の強みやが、師匠が絡むとはっきり言って思考がポンコツになる。今も冷静を装ってはいるようやけど、早く師匠と合流して自分が矢面に立とうと考えているんちゃうか?」


「――はい。そう……ですね。その通りです。いくら師匠が強いと言っても戦いが長引くような展開になればどうなるか……」


 それは俺と姉弟子、それに楪さんも考えていたことだった。事情を知らない藻香だけが首を傾げている。


「ちょっと待って。皆の師匠の黄龍斎って最強の退魔師なんでしょ? それならどんな敵が来ても心配はないんじゃないの?」


「確かに師匠の強さは同じ人間とは思えないほど化け物じみてる。けど、その強さ故に身体への負担がでかくて長時間戦うことが出来ないんだ。全力で戦えるのは五分が目安だって言われてる。もしもそれ以上長く戦ったら身が持たない」


「――っ!? そういう事情があったのね。それなら確かに心配よね」


「でも、帝都ホテルには他にもはじめさんや局長秘書の土方さんもいるんですよね。それなら戦力的には十分じゃないですか?」


「楪さんの言うように、十分な顔ぶれが揃ってはいる。でも、土方さんは局長の護衛のために傍を離れないはずだ。それに師匠はいざという時のために戦闘に加わらない形になっていると思う。――つまり実質的な戦力は、兄弟子の土御門元だけだ。他の『陰陽退魔塾』の連中は師匠の身体の事情は知らないから、帝都ホテルの戦力は十分だと思ってる。それに局長たちが『東京』に滞在している時にこんな事態になったんだ。これは偶然じゃないと思う」


「それじゃ、帝都ホテルに敵が集中する可能性があるってことじゃないの!? 急がないと」


「その通りや。それと同時に街に溢れかえった妖も討滅していく必要がある。そのためのチーム分けや。各々自分がやることは分かったな。敵を倒しつつ、日が暮れる前に帝都ホテルで合流や。――散開ッ!」


 こうして俺たちは三つのチームに分かれて敵を倒しつつ帝都ホテルを目指すことになった。

 

「春水ッ、楪さんを困らせるなよ。楪さん、春水をお願いします。姉弟子は……まあ大丈夫か」


「はいっ、任されました。燈火君と藻香ちゃんも気を付けて。美琴ちゃんも無茶は禁物ですよ」


「皆帝都ホテルで会いましょう。楪、燈火は私がちゃんと援護するから心配いらないわよ」


「皆いい気迫やな。ホテルに着いたら春水から師匠への告白イベントがあるから皆ちゃんと来るんやで!」


「勝手に変なイベントを開催するな! ――とにかく僕たちは先に帝都ホテルに向かう。皆も必ず合流しろ」


 お互いに再会を誓いあいながら、俺たちはそれぞれ任された方向に向けて走っていった。

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