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炎陽の退魔師~炎の刃を振う少年は白面金毛九尾の少女と共に妖怪を狩る~  作者: 河原 机宏
第一章 出逢い

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燈火の本当の実力


 身体の奥底から力が湧き上がって来る感じがする。――それだけじゃない。本来の力が戻り全ての感覚が正常になっていく。

 封印術式が施された後は、まるで鉛をたくさんぶら下げたみたいに身体が重くなるし、戦いの際には水中にいるかのように動きが鈍くなっていて、何というかストレス極まりない感じだった。

 そんな違和感だらけの感覚が解消されて気分がすっきりしている。魂式も元通りに扱えるし、これならこんなダメージ屁でもない。


「すぅぅぅぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ……はぁっ!!」


 身体中を循環する魂式を刀で斬られた箇所に集中させて傷口を強制的に閉じる。

 この傷を作った村正の切れ味が鋭く細胞への損傷が少なかったからか、思ったよりも傷が簡単にくっついた。

 試しに身体を動かしてみるとマジで身体が軽い。まるで界○星の十倍の重力から解放されたかのような感じだ。

 もっとも十倍の重力なんて体験したことがないから、実際はどんなものなのかは分から無いけどな。

 勢いよく動きまくる俺の姿を見て明海が目を丸くしていることに気が付く。


「そんな……村正で何度も斬ったのにどうして動けるの?」


「え……傷口を閉じたからだけど」


「…………」


 理解が追いつかず閉口するデンジャラスウーマン。さっきまで笑いながら俺の身体を斬り刻んでいたヤツがきょとんとしているのはちょっと面白い。


「ようやく元通りになったようだな。それなら僕の役目は終わりだ。――あとは自分で始末をつけろ、燈火」


 春水が地面から刀を抜いて鞘に収めた。それによって敵周辺に巡らせていた技が消失する。

 その気配に二体の鬼が気が付くと互いに顔を見合わせて逃亡を図った。聖晶橋から飛び降りようとしたので、俺は先回りをして行く手を阻む。


「ここまで好き勝手に暴れておいて逃がすと思ってんのか?」


『はっ! あのキザ野郎に比べればテメーなんぞクソ雑魚よ。一瞬でミンチにしてやりゃぁぁぁぁぁぁ!!』


 二体の鬼は爪に妖力を集中させて俺に殴りかかってくる。俺はそんな二体の攻撃を躱しすれ違うのであった。


『え……あれ?』


『躱された……のか?』


 何が起きたのか理解できず二体の鬼はマヌケ面を見合わせる。

 ただし、それ以外の面々――藻香、楪さん、明海の三名は驚いており、春水と美琴姉さんは涼しい顔をしていた。

 自分たちの身に何が起きたのか理解できていない鬼共は怒りながら俺の方に振り向く。


『俺等を逃がさねぇとか言っていたくせに自分が逃げやがったぜこいつ。恥ずかしいなぁ~、退魔師さんよ~!』


「…………」


『なにシカトしてんだよ。すかしてんじゃねーぞ、このクソガキャァァァァァァァァ!!』


 再び連中が俺に襲い掛かろうとした時、異変が起こった。

 一体は身体の真ん中で左右に身体がずれ始め、もう一体は上半身と下半身の境目で身体がずれ始めた。

 リアルタイムにずれていく身体を手で必死に抑えている。そんな姿を俺は特等席で眺めていた。


「滑稽だな。自分たちが斬られたことにも気付かず、メンチ切った挙句にそんな無様な姿を晒すなんて。――言っておくけど、もうお前ら終わってるから」


『なに言ってやが……あ……ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


『もっ、燃え……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 斬られた境目から発火し二体の鬼はあっという間に炎に包まれ、断末魔の叫びが橋に轟く。


「塵も残さず燃え尽きろ。お前たち妖は俺がことごとく火葬してやる!」


 冷たく言い放つ頃には連中は跡形もなく消え去った。その二体がいた場所に黒い焦げ跡が残っているだけだ。

 そして、俺は残った敵に振り向き殺気を送る。標的である明海は顔を引きつらせながら無理矢理笑みを作っていた。


「大した抜刀速度ね。それがあなたの本当の実力といったところかしら?」


「こんなのウォーミングアップにもならないよ。悪いことは言わない……投降しろ。お前じゃ俺には勝てない」


「あら、随分と自信家なのね。そんなのやって見なきゃ分からないじゃ――」


 明海が言い終わらない内に俺は刀を抜いて接近し、その喉元に切っ先を接触させた。軽く触れた所から一筋の血が流れていく。


「理解できたか? さっきまでの俺とあんたの実力差よりも、今の俺とあんたの実力差の方が大きいんだよ。不意を突かれたとはいえ、身動き一つとれなかった自分に勝機があると思うのか?」


 俺は一旦後ろに跳んで距離を取った。明海は喉元を触りながら悔しそうな表情を俺に向ける。

 そのやり取りを近くで見ていた姉弟子はきびすを返し、藻香たちの方に歩き始めた。


「――さて、うちの仕事は終わりやな。あとはあんたに任せるわ」


「ありがとう、美琴姉さん」


「そう思うんなら、コンビニスイーツ仰山かってな。楽しみにしてるわ」


 俺の肩に手を置いてそんな事を言った姉弟子はニコニコ笑いながら行ってしまった。こりゃ、一店舗分買い占めるレベルで上納しないと満足しないやつだ。

 俺の給料が姉弟子の胃袋に消えていく日々がまた始まるのか……。

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