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炎陽の退魔師~炎の刃を振う少年は白面金毛九尾の少女と共に妖怪を狩る~  作者: 河原 机宏
第一章 出逢い

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妖刀村正

「般若面の可能性が高い人物が用意したものなんて食べられるわけないだろ。それに飲み物に何か入れていたみたいだったしな」


「ああ、あれね。毒とか危険なものではないのよ。ただの――さ・い・い・ん・ざ・い・よ」


「催淫剤!? そんなものを燈火君に飲まそうとしたんですか!? どうして――」


 智恵の悪戯な笑い声が周囲に広がっていく。正体が露見しても特に気にしている様子は見られない。


「武藤先生、本気で言っているの? そんなものを使うとなればやることは一つでしょ。処女のあなたには分からないかしら。スプーン一杯分で一晩中元気になりっぱなしの素敵な効果があったのに残念だったわぁ。昨日はせっかく勝負下着を身に付けて来たのに」


「どうして私が、しょ……だなんて知ってるんですか!?」


「そういう種類の危険な状況下にいたのか、俺は……」


「ちょっと二人とも向こうのペースに乗せられているわよ。しっかりして!」


 藻香の叱咤により我に返った二人は武器を構えて攻撃に備える。


「そんなの見ていれば分かるわよ、武藤先生。――さてと、そろそろ始めましょうか。三人ともいらっしゃい。私が面倒を見てあげるわ」


 般若面もとい智恵が黒いマントを投げ捨てると、その中に着こんでいたのは胸元が大胆に開かれたパーティードレスのような破魔装束であった。

 ロングスカートの左右は大胆にスリットが入っており大腿部がほとんど丸見えになっている。

 彼女の見事なボディラインがはっきりと分かる衣装と同様に異彩を放つものがあった。

 それは彼女が腰にさしている一振りの刀である。その刀から発せられる醜悪な気配を感じ取った燈火は単独で戦う意を二人に告げた。


「明海とは俺が一人で戦う。二人は離れた所で待機していてくれ」


「明海先生はかなりの強敵ですよ。一人で戦うのは危険です。三人で戦えば勝機が見いだせるはずです」


「楪さん、あの女はそんな甘い敵じゃないよ。俺の見立てでは一級退魔師に近しい実力を持っているはず。それに加えてあの刀から感じる殺気は非常に危険だ。そして、今までのあいつの注意深さを考えれば、付近に手駒を待機させている可能性が高い。二人にはそっちを対応してもらいたい」


「確かに紅義山での一件を考えれば、仲間がいてもおかしくはなさそうね。――分かったわ。明海先生は燈火に任せる。楪さんと私はバックアップに回るわ」


「頼んだよ」


 そして燈火は智恵との一対一に臨むのであった。




 明海智恵から感じる魂式は正直言って俺の予想を遥かに上回っている。力が封印されている今の俺で対抗できるか分からないがやってみるしかない。


「それじゃあ、そろそろ始めましょうか。ふふふ、嬉しいわ。あなたとこうして戦えるとは思っていなかったから……ね」


 明海は上気した表情で刀を抜く。妖しく光る刀身が鞘から放たれた瞬間、凄まじい殺気が俺に向けられるのを感じた。

 これは明海のものじゃない。あの刀自体が俺を殺そうとしているんだ。


「この刀の異常さに気が付いたようね。これはね曰く付きの刀でね、名を〝村正〟というの。聞いたことあるかしら?」


「聞いたことあるも何も有名な刀じゃないか。持ち主に災いや呪いをかける妖刀。――本物を見たのは初めてだよ」


「それなら話が早いわね。この村正は血を欲しているの。それも強い力を持った人間の血をね。――だから、式守君の血を頂戴!」


 言うや否やその場から掻き消えたように高速移動する明海。俺との間合いを一気に詰めると村正を袈裟懸けに振う。


「ちぃぃぃぃぃっ!」


 キィィィィィィィィィィン!


 咄嗟に緋ノ兼光で敵の斬撃を受けると、甲高い金属音が響き渡る。明海は刃を擦り合わせてきて接触面から火花が散った。


「ふふふっ、いいわぁ式守君。今の初撃を受けきるなんて、さすが私が目を付けただけのことはある。――実を言うとね、玉白神社であなたと刃を重ねた時から、あなたのこといいなぁって思っていたのよ。そして、こうして私たちは再び刃を重ねている。興奮しちゃうわぁ」


「くっ!」


 俺は村正を斬り払って一旦距離を取ろうとするが、明海はすぐさま接近し刀を振るってくる。

 俺から離れようとせず、常に接近戦に持ち込んで来る。非常に厄介な相手だ。

 終わらない剣戟が続き、次第に息が上がって来る。指先が段々としびれて柄を握る力が弱くなっていく。

 ――このままではまずい。流れを変えないと。


「六波羅炎刀流、参ノ型――ほむらァァァ!」


 緋ノ兼光の刀身に炎を纏わせ斬撃を浴びせる。――はずだった。

 焔を放つと同時に繰り出された村正の刃によって炎が消失した。刀身同士がぶつかった瞬間に炎が散らされたのだ。


「なっ、焔が!?」


「ふふっ、焦っちゃって可愛い」


 技を潰されたことに一瞬驚いた隙に明海が接近して来るのが視界に入った。


「やばっ!」


 彼女は十メートル程俺を通り過ぎた位置で止まった。そして血液の付いた刀身を眺めて頬を赤く染める。

 その直後、俺の左肩から血しぶきが上がった。

 一瞬気を取られたとはいえ、その僅かな間で的確な攻撃を仕掛けてきた。やはりこいつは――強い!

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