表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎陽の退魔師~炎の刃を振う少年は白面金毛九尾の少女と共に妖怪を狩る~  作者: 河原 机宏
第一章 出逢い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/76

癒しの炎

「このまま二枚におろしてやる。食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 鬼火斬おにびぎりで大蛇の大きく開いた口を斬り裂こうとするが、ヤツの鋭い牙が豪炎の刃を受け止めた。


「なっ!?」


『キシャアアアアアアアアアアア!!』


 大蛇の身の毛もよだつ咆哮が紅義山の頂に響き渡る。攻撃してきた俺に牙を立てようとして進行方向が変わった。

 攻撃目標が逸れたのはラッキーだが、肝心の俺の技は大蛇の牙を破壊できず終わりを迎え、刀身に宿っていた炎が拡散してしまう。

 その瞬間を待っていたかのように敵は突進の勢いを増していき、その巨大な身体が湖からどんどんい出て来る。

 尻尾の部分はまだ湖の中にあるが、目視で確認できただけでも百メートル以上の長さはある。

 今まで戦ってきた妖の中でも最大級のサイズだ。まさかこんな化け物が紅義山の山頂に潜伏していたなんて。


「くそっ、何てパワーだ。一旦離れ――」


 攻撃態勢を立て直すために離れようとした瞬間、大蛇が先に顔を引っ込めた。それから間髪入れず、ヤツの非常識に長い身体が鞭のようにしなりながら俺に向かって来る。

 言葉を発する暇も無く、凄まじい衝撃が俺の身体を襲う。


「がはっ」


 魂式を通した破魔装束を着ていてなお、体中が軋むような感覚を覚えながら水面に叩き付けられた。

 まずい、意識が朦朧とする。力が入らず湖の中を沈んでいく俺の視界に赤い二つ目が映った。

 ダメージで動きが鈍った俺を水中で襲うつもりだ。

 鈍重になっている頭の回転を速めながら、身体を必死で動かす。しかし、一時的に麻痺している上に水中と言うこともあり、上手く身体が動かない。

 

 もがいている間に赤い二つ目はどんどん俺に近づいてくる。接近するにつれて暗い湖の中でも巨大な蛇の顔が見えるようになってきた。

 口を大きく開き鋭い牙で俺に噛みつこうとしている。あれに噛まれて湖の底に引きずり込まれたら、まず助からない。

 ここまで近づかれたら逃げるのは難しい。こうなったら刺し違えて痛手を負わせてやる。

 目の焦点が定まらない中、刀を構え接触のタイミングを計る。

 ヤツの赤い目と睨み合い刀を突き入れようとした瞬間、何かが後ろから俺を引っ張り急速に浮上を開始した。


「ぶはっ、げほっ、ごほっ」


「危なかった。間一髪だったわね」


 湖から脱出したと思ったら空中に浮いていた。驚きながら後ろを見ると藻香が大きく安堵の息をついていた。

 彼女の水に濡れた金色の髪が月光を反射し輝いている。彼女は自らの分身体である〝火狐〟改め〝九尾〟に乗っていた。

 九尾の尻尾で俺をくるんで引っ張り上げてくれたようだ。


「すまない、助かった。……つっ!」


「さっきの攻撃で怪我をしたのね。ちょっと待って、今治療するから」


 その時、湖から大蛇が勢いよく飛び出してきた。俺たちを見つけると両目を血走らせながら追って来る。

 目の前で獲物をかすめ取られて頭にきているのだろう。九尾は空中を駆けて逃げるが、敵は少しずつ距離を詰めて来る。


「くそっ、このままだと追いつかれる。藻香、俺を降ろせ。あいつに一撃お見舞いしてやる」


「そんなこと出来る訳ないでしょ! それにこっちには仲間がいるんだから大丈夫よ」


『ダアアアアアアアアアアアアアアン!!!』


 耳をつんざくような轟音が響くと、俺たちのすぐ後ろまで迫っていた大蛇に巨大な雷の弾が直撃し、その圧倒的な体躯を吹き飛ばした。

 大蛇は湖のほとりに頭を打ちつけ、長い胴体が水しぶきを上げて湖に落ちていく。 

 雷撃の射線元を辿っていくと、そこには楪さんが銃身の長い大きな銃を携えているのが目に入った。

 九尾は楪さんがいる場所に下り立ち合流する。


「無事で良かったです。藻香ちゃんのファインプレイでしたね」


「これくらい当然よ。楪さんもナイスショット。それにしても凄い銃ね」


 楪さんは微笑みながら、大きなライフルを抱きしめる。その銃は一般的に対物ライフルと言われるごつい物だった。

 メイド姿の女性と大型ライフルの組み合わせは中々にシュールだが、不思議な魅力を感じてしまう。


「これは〝闇払い参式〟という銃型の式武なんです。大型の妖用に造られたものなんですよ」


 黒くて長くてごつい銃身を恍惚とした表情で撫でる楪さんは、何かエロかった。

 俺が楪さんに見惚れていると、藻香がむすっとした顔で九尾に指示を出し尻尾から炎が発生して俺を包み込む。


「うわわ、燃えだした!」


「この炎は大丈夫よ。参尾さんび――癒火いやしび


 俺を包み込んだ炎は熱くなく、程よい温かさを感じるものだった。それと同時にダメージを受けた傷や痛みが消えていき、疲労や消耗した魂式が少しずつ回復していくのを感じた。


「これは治癒の術か。陰陽師でも使える人間はほとんどいないのに、これ程のものを使えるなんて凄いな」


「一応昔は最強の妖と呼ばれる存在だったからね。当時の力が無くても、これくらいはお茶の子さいさいよ」


 藻香が得意そうに両手を腰に当てて胸を張ると、『だぷん』と音を立てるように二つの富士山が大きく揺れる。


「――富士山で大地震が起きてる」


「燈火君。こんな時に不謹慎ですよ」


 最初はキョトンとしていた藻香だったが、楪さんが俺をジト目で見ていることに気が付きどういう意味だったのか察したようだ。

 両腕で胸を隠して更に背中を向けて見えないようにする。顔だけは俺の方を向いて楪さん同様にジト目をしている。


「こんな時までエッチなんだから、もう!」


「すんません。俺、健全な男子高校生なんです。本当にすみません」


 自分でもコントロールしきれない健全さが恨めしい。こんなコントじみたことをしていると大蛇が再び活動を開始した。

 頭を何回か振うと湖からゆっくり身体を出してくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ