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任務

「ちょっと話が逸れていたけど、本題に移るわね。――燈火とうか、あなたも薄々感づいていると思うけど新しい任務が入ったわ」


 そう言いながら師匠が事務仕事で使っている木製の机の上に一枚の写真を置いた。

 そこには一人の少女が写っている。腰まで届く金色の髪に白磁の肌、金色の瞳を収めた大きな目からは気の強さが窺える。

 そんでもってスタイルが凄い。

 露出の少ない制服を着てはいるが、それでも分かるくらい出るところはかなりしっかり出ていて引き締まっているところはキュッと引き締まっている。

 俺がまじまじと写真の少女を眺めていると、師匠が問いかけてきた


「燈火、あなたはこの写真からどう判断する?」


 俺はすかさず答えた。


「恐らくFかGカップはあるかと。師匠や姉弟子も中々ですが、この子はさらに上を行っていますな」


 直後、俺の後頭部に「スパァン」と小気味よい音とともに衝撃が走る。どうやら師匠に頭を引っぱたかれたらしい。


「誰が胸の大きさを判断しろと言ったのよ!? 彼女の着ている制服とか色々あるでしょう?」


 親切ご丁寧に師匠は答えを教えてくれた。というか、そう言うことだったら俺も最初に気が付いていましたよ。


「この金髪コギャルが着ているのは『陰陽退魔塾』付属高校の制服ですよね。つまり彼女は、退魔師か陰陽師の卵ってところですか?」


 俺が至極真っ当に答えられたので師匠は安堵していた。


「その通りよ。彼女は群馬県中崎市にある『中崎陰陽退魔塾』の付属高校に通う二年生で名前を玉白たましろ藻香もかさんというわ。彼女を護衛するのが、燈火――あなたの新しい任務よ」


 任務内容はとてもシンプルで分かり易かった。だが色々疑問が残る。


「彼女を守ることが任務なのは分かりました。――でも、具体的には何から守るんですか? 俺たち退魔師が任務に就くからには、あやかし関連なんでしょうけど。それに、彼女は何者なんですか? ただの退魔師や陰陽師の卵であればそんな事にはならないはずですよね?」


「――ごめんなさい、詳細は明かせないの。私が言えるのは、この護衛任務は私の弟子の誰かが行くように上から指示を受けたという事だけよ」


 師匠は申し訳なさそうに俺を見ていた。自身は最強の退魔師で怖いもの知らずなのだが、弟子関連についてはかなりの心配性だ。

 俺たちを任務に送り出す際はいつもこういう表情をする。


「分かりました。それだけ聞ければ十分です」


 現在活動している退魔師の中で最強と謳われる黄龍斎こうりゅうさいの弟子は全員が一級退魔師だ。

 退魔師や陰陽師は、上から特一級、一級、二級、三級、四級、五級という階位が設けられている。

 師匠である黄龍斎の階位は特一級で、これは国内にわずか数人しかいない。そして、その弟子である俺たちは、国内に十数名のみの一級退魔師に属する。

 そんな上級の階位にいる俺たちに直接下った命令であれば、その任務の重要性はかなり高いと見て間違いない。

 

 俺の納得した顔を見て師匠がホッとしていた。


「よろしく頼むわね、燈火。出発は明日になるからすぐに準備を始めましょう」


「明日っすか!? 随分と急ですね」


 退魔師の任務は緊急性のあるものが多いが、護衛任務でこんなに急がなければならないという事は、玉白藻香という護衛対象が相当危険な状況なのだろうか。


「彼女の通っている『中崎陰陽退魔塾付属高校』は明後日から新学期なのよ。明後日から高校二年生になるわけ。燈火、あなたは彼女と同じクラスに転校して彼女を護衛するのよ」


 ハンマーで頭をいきなり殴られたような衝撃だった。俺が高校に通う……だと?


「師匠、お言葉ですが俺は既に退魔師として働いています。つまり社会人です。今さら高校に通う必要なんてないと思いますが」


 すると、師匠は大量の用紙の束を机に置いた。それは俺が『六波羅』の付属校に通っていた時のテストの答案用紙であった。

 師匠はその答案用紙の束を冷たい目で見下ろしている。


「燈火、これを覚えているでしょう? あなたのテスト結果はいつも赤点スレスレ。丁度いい機会だから、勉強し直してきなさい」


 普段のゆるふわな温和な声とは異なる絶対零度の声が俺に向けられる。


「い、いやだ! どうして俺が! ――そうだ、春水が行けばいいじゃん! それで万事解決!!」


「駄目よ! 今回の任務に燈火を選んだのは、高校に通って勉強してほしいと思ったからなのよ。春水は今も自主的に勉強しているから大丈夫」


「なぬっ!? お前、そんなことしてたのか!?」


「僕はお前のような遊び人とは違う。観念して護衛をしながら勉学に勤しんで来い」


 俺は夜遅くまで必死に抵抗したが、結局押し切られてしまい翌日の群馬行きが決定したのであった。

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