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少年と少女が出逢った日②

「退魔師……だと? 随分と面白い事を言うじゃないですか。――たかが高校生風情が!」


 燈火は眉をひそめると般若面の男から巨大な妖の方に視線を移動させる。


(あの妖から感じる気配は――まさか!?)


 燈火は妖から何かを感じ取り、藻香を抱きしめる手に思わず力を込めてしまう。


「んっ! 式守君――」


「あっ! ごめん、痛かったか?」


 苦しそうな藻香の訴えを聞いて燈火は慌てて力を緩めると、彼女はホッとした表情を見せる。


「ありがとう、私は大丈夫。それよりもあの妖なんだけど――」


「ああ、分かってる。――玉白、少し口を閉じてて」


 藻香が口をつぐんだ次の瞬間、般若面の視界から二人の姿が掻き消える。

 その直後に二人の姿を捉えたのは、最初にいた位置から数十メートル以上離れた玉白家の近くだった。

 その状況を目の当たりにして、般若面の男は破魔装束を纏った少年がただの高校生ではないと理解し、警戒を強める。


(――速い! あの距離を一瞬で移動した。高速移動術の〝縮地〟を使ったのだろうが、予備動作なしにあの動き。――ただ者ではない。ヤツは危険だ!)


 燈火が藻香を優しく地面に下ろしていると、家の方から吉乃が走って来る。


「藻香! 良かった、無事だったのね」


「お婆ちゃん! ええ、式守君が助けてくれたの」


 吉乃は藻香を抱きしめて安堵し、藻香もまた祖母を抱きしめていた。そんな二人の姿を燈火は優しい目で見つめた後、すぐに敵の方に顔を向ける。

 敵に向けた目はつい先ほど二人に向けたものとは全く違う、敵意に満ちた鋭いものだった。

 

「玉白、吉乃さんと一緒に家の方に下がってろ。可能なら結界を張って防御に徹してくれ」


 燈火が般若面の男から目を離さずに言うと、藻香が慌てて立ち上がり加勢の意思を示した。


「式守君、私も戦うわ! 符術ならある程度使えるし、いざとなったら――」


「俺一人で大丈夫だ。それよりもお前は吉乃さんを守ってくれ。その方が俺も戦いに集中できる」


 護符を取り出した藻香を燈火は手で制し、敵に向かって歩みを進める。


「分かったわ。式守君、気を付けて!」


「ああ、行って来る!」


 燈火は再び縮地を使って二人の前から消えると、今度は般若面たちの前方に姿を現した。

 目の前に立つ少年を静かに見つめながら般若面の男は口を開く。


「縮地をそこまで使いこなすとは、中々の手練れのようですね。私の見立てが間違っていなければ、かなり実戦経験豊富な猛者と見受けますがどうですか?」


「それは、これから実際に戦って自分の目と身体で判断した方がいいだろ?」


 そう言いながら、燈火は周囲に何枚もの護符を投げた。境内にある建物や地面といった、いたる所に護符が貼り付き青白い光が玉白神社を包み込む。


「結界――ですか。こんなもので我々を閉じ込められると思ったのですか? だとしたら、随分と舐められたものですね」


「勘違いするな。この結界はお前らをここに止めるためのものじゃない。――これから起きる戦いを外から見えなくするためのものだ」


「そう言えば、退魔師や陰陽師が使う結界にはそういう側面もありましたね。結界内部を外界と遮断する事で、一般人には結界内の出来事は認知されなくなる。それによって妖との戦いを秘匿する事が可能となる。――でしたよね?」


「説明する手間が省けたな。この結界を手っ取り早く壊したければ術を展開した術者。つまり俺を殺せばいい。――もっとも、お前らに殺られるつもりは毛頭ないけどな」


 燈火は空手のように左腕を前に出し、右手を後ろに引いた構えを取った。その姿を見て、般若面は気に入らないと言った様子だ。


「丸腰とは正気ですか? 本来退魔師の戦闘スタイルは〝式武〟を用いたもののはず。それを使用しないとは甘く見られたものですね。――ならば、死んでから後悔しろ!!」


 これまでの丁寧な言葉遣いとは異なる激しい怒号が般若面の男から発せられ、それに呼応するように妖が燈火に襲い掛かった。

 その巨大な腕をフルスイングで燈火に叩き付け、打撃により境内の地面は大きく抉れた。

 だが、肝心の標的は攻撃が当たる直前に空高くジャンプし難を逃れていた。

 妖の頭に貼り付いている無数の顔が空にいる燈火を見つめると、その巨躯は彼を正面に据えるように体勢を整える。

 

「すぐ上に跳んで回避するのはガキのすること。空中では身動きは取れないでしょうに。――さあ、そいつを引き裂けぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 般若面の指示を受け、妖は空中から落下してくる燈火目がけて爪を突き立てようとするが、またしてもその攻撃は空を切った。

 燈火はなんの踏み場もない空中で見えない壁を蹴ったかのように移動したのである。

 それも一度や二度ではなく妖が攻撃を仕掛ける度に空を蹴って回避を続けた。

 その様子を般若面は怒りで身体を震わせながら見つめていた。


「あれは、空を蹴って移動する空中移動術の〝無天むてん〟か! 縮地だけでなく、無天まで使いこなすとは何者なんだ!」


 燈火は無天を使用して空中で体勢を変えながら敵の懐に飛び込む。そして、黒い巨躯の腹に拳を突き込み殴り飛ばした。


『オオオオオオオッ!』


 妖は数メートル後退した後に片膝をつき、頭部にある無数の顔たちが何かを訴えるように燈火を見つめ続けている。

 燈火もまたその顔たちに視線を向けていた。握りしめた拳に更に力が込められていき、怒気を含んだ声で般若面に訊ねるのであった。


「そこの般若面。お前、この妖をどこから連れてきた?」


「おや、興味がおありですか? まあ、いいでしょう。教えてあげますよ。この妖は負の霊魂を集めて私が作り上げたんです。この神社の近くに古いアパートがあったでしょ? 地元では怪現象が起きるとかで有名だったそうですが。――確か多悪霊荘たおれそうという名前でしたね。あそこにはたくさんの悪霊がいたので、妖の材料としては申し分なかったのですよ。私が赴いた時に強く抵抗されたのは意外でしたがね。それに誰かの帰りを待っているかのような様子でしたが。ふははっ! おかしいですよね、悪霊が家でお留守番だなんて! もっとも、建物を焼いたら抵抗も弱くなって、今ではこうして立派な妖になりました。どうです、この憎悪の気配は? 中々おどろおどろしいでしょう?」


 般若面の男は語っている間テンションが高くなり、口調も饒舌じょうぜつになっていった。

 今までの冷静な振る舞いをしていた人物とは思えない狂気的な雰囲気に、藻香たちはこれがこの者の本性なのだと悟った。

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