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第3話 エンドレス・サンマ・ナイト(前編)

ちじこめ、またアホたれな事しでかしやがるわ。


若いからってゆーても限度っちゅーもんがやなぁ。


ヴァーリャやまーきあまで巻き込んで。譁紗祢に心配かけたら、


俺が承知しねぇからな!!

ここはいつもの天三商店街…天神橋筋3丁目商店街ではない。


ガタンガタンと高架上を電車が走り抜ける音がする。大阪環状線のようだ。


その環状線の高架下を3人の男性が北に向かって歩いていた。


「ちじこ、まだか?腹減ったぞ…」


「全くだぜ、まだ着かないのか?ほんとに行き倒れそうだ…」


ちじこに悪態を吐くヴァーリャと弘法天外(こうぼうてんがい)


弘法天外(こうぼうてんがい)は春花秋月のメンバーの一人であり他のメンバー同様、


件の事件に関わった人物であちこちで活躍していたという。


しかし、環状線の高架下…鶴橋から玉造に向かう道を歩く3人だが、


外見からはそんな謎めいた事件に関わっていたとは思えない、


至って平凡な青年たちである。


「もう少しだからさ、歩け歩け!!」


調子よく音頭を取るちじこだが、


ヴァーリャの一言でその機嫌の良さも吹っ飛ぶとは思ってもみなかった。


「おい、ちじこよ。かさねとはどうだ?同棲は順調か?」


ヴァーリャの何気ない一言にピタっと歩みを止めるちじこ。


そして冷や汗が急に流れ始めた。


「なんだなんだ、ちじこ。譁紗祢の話になるとそうなるのかよ?


ヴァーリャからは聞いてはいたが…変な汗でまくってるぞ…」


天外もちじこの変化に気づいてニヤニヤし始める。


「天外、そりゃそうだろ。


ちじこは譁紗祢とさ…あーんなことやこーんなことまでやっちゃったんだからな」


妖しげな笑みを浮かべるヴァーリャが、


わざと聞こえるように天外に話しかける。


「あぁ、あれか…俺にはこんな公道の真ん中でちょっと言えないな、


うん…だってなぁ…にひひ」


天外もヴァーリャに呼応するが如く、


ニヤニヤしながらぶつぶつ言い始める。


「お、おまえら…あ、あれはやな。譁紗祢を、譁紗祢を助けるために…


為にやな…どないしても…。ああでもせんと、譁紗祢が…譁紗祢が…お、


お前らぁ!!!!」


気恥ずかしさと自分をからかう怒りから顔が赤くなったり青くなったり、


そして冷や汗でびっしょりになるちじこ。


「ちじこって初心(うぶ)やわぁ…きゃわいいやんけぇ!!」


「ちじこ、分かってるって。そうでもしなきゃ、譁紗祢が…。


だから落ち着け、落ち着け」


ヴァーリャと天外、


からかいの度が過ぎたと感じて、


慌ててちじこを落ち着かせようと懸命になり始める。


「ちじこ、大丈夫だ。おまえと譁紗祢は、


おいらと天外がしっかり守ってやるぜ!」


「全くだ!俺達はステデイだもんな!!


俺らがバックに居たらびくともしないぜ!!ハハッ!!」


ヴァーリャと天外はそう言い切ると突然、


肩を組んで呵々大笑を始める。


ようやく落ち着きを取り戻したちじこ、二人の得意そうな笑顔を見ながら、


「こいつら、本当にステディの意味知ってるんやろか?」


冷静さを取り戻しつつも、


こみ上げてくる笑いを抑えるために、


懸命に困惑した表情を作る事に腐心するちじこ。


「こいつらも、大概やな…アホたれどもが。ほんまに…」


しかし我慢も限界が来て、遂に悪態を吐きながら笑ってしまうちじこ。


「よしよし、落ち着いたな。冷やかしもたまにはええやろ?どや?」


「悔しかったらな、兄貴や天外も譁紗祢以上の彼女作る事やで。ほんま」


散々言われっぱなしだったせいか、


二人の一番痛い所をここぞとばかりに抉るちじこ。


彼女持ちの強みをここぞとばかりに見せつけられた2人は形勢逆転、


彼らの周囲に陰の風が吹き滅の雨が降り始める。


人はそれを【陰陰滅滅】という…。


「あ、あの…そろそろ洋食屋着くんやからなぁ、


落ち込むのはやめへんか?俺の奢りなんやし!」


その言葉を聞いて、ヴァーリャと天外は再び笑顔に戻る。


「せやった、せやった。今日の夕飯はちじこのゴチやったんやわ。


すっかり忘れてた…」


「なんか裏があるかもしれないが、


ともかく美味い飯屋らしいから期待できそうだぜ」


お腹もすいていた事もあって、


落ち込んだ事など気にする事もなく目前の食事に目を輝かせる二人。


「やれやれ、現金な2人やけど…これも俺に付き合わせる為の方策や。


何とかして来させんとな」


話題がすっかり逸れて、


本題に入れそうな雰囲気にホッとしている様のちじこは、


目的地の洋食屋の戸を開けた。


「いらっしゃい~」


中年夫婦が3人を迎える。


「おやじさん、今日は連れも連れてきたんや。美味いあれ、頼むで」


店主はにっこり笑って厨房に入っていくと、


店主の妻と思われる女性が注文を取りに来る。


「あ、俺はいつものオムライスミックスフライセットで」


ちじこはメニューも見ずに注文をする。


それを見たヴァーリャと天外は慌ててメニューとにらめっこを始める。


「お、おいらはチキングリル定食で!」


「俺はミックスフライ定食で!!」


2~3分の熟考の末、2人はオーダーを決めた。


「はいー、しばらくお待ちくださいね」


女性は注文を受けると厨房へ入っていった。


「ちじこ、そろそろおいら達への頼みって奴聞かせろよ…」


店内が3人になったのを見計らったように、


ヴァーリャがちじこを急かすように尋ねた…。




「ところで、マヨさんの方の商売はどないなんや?」


「まぁ、ぼちぼちだね。この前は北新地のクラブに絵が売れたし、


足は出ていない。トントンより少し上向き、ってところかな」


場面は変わって天神橋筋3丁目軽食喫茶【きゃすたりあ】。


夕方の喧騒はどこへやら、店内は静かなものだった。


小桜まことは本業の洋菓子店に仕事へ行っており、


店主の天河鎮実と…


大阪市都島区で画廊を経営しているマヨーテが世間話をしていた。


マヨーテと鎮実の実家が同郷で、


大阪に移り住んでからも交流がある古い友人である。


鎮実が今日のコーヒーとして選んだのはエメラルドマウンテンの中深煎り。


これをペーパードリップで淹れたものだ。


「シゲ、相変わらず美味いな」


「これを商売にしているんやから、多少はな」


「減らず口も相変わらずだ」


そういって笑いあう二人。


「ところで、俺らがちじこ達の年頃の頃覚えてるか?」


「うん?ノバさんとも知り合って血気盛んだったな」


「せやせや、モーリーと3人でよく梅田地下街の立ち飲み屋で


飲んだり色々しとったやろ」


前話にも登場したモーリー…ノバさんことモリノバは2人の悪友である。


北海道出身のモリノバは就職で大阪に住んでおり、


大阪・梅田の立ち飲み屋で偶然知り合い、意気投合した飲み仲間である。


当時ちじこやヴァーリャ達同様20歳前後の彼らも、


遊ぶこと飲むことに全力投球の日々を過ごしていたらしい。


「しかし、和歌山まで自転車で走破したのは…


シゲ、お前も無茶なこと言いやがったもんだ」


コーヒーを一口啜ると、マヨーテは苦笑しながら腕組みをする。


「だって金なかったやん。車もないし、


電車賃やってごっつかかるやんwあと阪和線ホームにある天王寺駅のうどん屋!!


あの出汁のにおい嗅いだら喰いたくなるやんw


だから安物のカセットウォークマンを3人揃えて、


音楽聞きながら突っ走ったあの頃!!」


鎮実が少し興奮気味にカップを念入りに拭きながら語りだす。


「仕事が終わってそのまま突っ走ったよな…よくやったもんだぜ。


100キロ近く距離のある大阪を夜に出て明け方に和歌山に着けたんだからの」


「そりゃそうだ、あの時は和歌山にガールフレンドいたしな!」


「ハハ、そうだな…」


二人してあの頃を思い出すように懐かしそうにしているのを、


互いが気づいて苦笑しあう。


「ところで、シゲの所の若い子達が徹夜で神戸行くんだってな?」


「マヨさん、それだ。


俺らはその日は和歌山のユースホステルに泊って


翌朝に和歌山出たんやが…そいつらときたら、


一睡もしないで神戸でお気に入りのタレントの出待ちして、


取って返す刀で尼崎で声優アイドルのミニコンサートに行くとか…


正気の沙汰じゃないわな」


カウンターを布巾で拭きあげながら、あり得ないといった表情の鎮実。


「しかし、シゲ。俺達も昔は相当無茶やったしな…。


若いってのは、無鉄砲に行動するのが当たり前なのかもしれん」


「まぁ、言われてみればそうやけど・・・」


そうこう言っていると店内に誰かが入ってきたようだ。


「いらっしゃ…お、まことちゃんか」


「お疲れさまです!あら、マヨさんご無沙汰しております」


小桜まことが仕事帰りに手土産持参で店に立ち寄ったのだ。


手にした紙袋からいい匂いがする。


「お疲れさん、まことさん。パティシエ修業はどうだい?」


「ぼちぼちでんな~って言うんですよね、こういう時って」


まことが茶目っ気たっぷりに言うと、3人がどっと笑う。


「ところでまこちゃん、そん紙袋からええ匂いするんやけど、


どないしたん?」


鎮実がさっきから視線を紙袋に穴が開きそうな勢いで


注視している事に気が付いたまこと、


鎮実とマヨーテの前にその紙袋を差し出した。


「これですか?今日開店したばかりの回転焼き屋さんですよ」


中には焼き立ての回転焼きが入っている。がしかし、


鎮実は中身より紙袋を注視というより、凝視している。


「シゲ、どうしたんだ?」


微かに震えている鎮実にマヨーテが声を掛ける。


「マヨさん、この店【づぼら焼】や!!マジかよ!!」


「えっ、えっ!?」


突然の鎮実の絶叫にまことが動揺し始める。


「ほぉ、和歌山県海南市…シゲの故郷のあの回転焼き屋が大阪進出か。


それも天三に!」


マヨーテが興味深そうな顔をしながら顎に手をやる。


「どういう事なんですか、マヨさん?」


状況が呑み込めていないまことが、


鎮実の豹変ぶりにおっかなびっくりしながらマヨーテに尋ねる。


「はは、無理もないね。


【づぼら焼】は鎮実の祖父母が住んでいた和歌山・海南にある回転焼き屋なんだ。


小さい頃から両親に連れられて和歌山に帰省したら、


必ずお土産に買って帰っていたんだよ。私もシゲから和歌山から帰るたびに、


お裾分けでちょくちょく貰っていたね。


シゲはそこの先代の店長さんに顔を覚えてもらってて、


可愛がってもらっていたんだ。今の店長は先代の息子さんで同じ世代でね、


帰省したら近所のお寺で一緒に遊んでいたと聞いたことがあるよ。


そんな思い入れのあるお店が、シゲの店の近くに出来たんだから…


感情が爆発してるんだろうな、シゲの事だから」


「そうだったんですか…」


プルプル体を震わせている鎮実だったが、


紙袋に書いてある天三商店街の住所を一瞥してで確認すると、


「まこちゃんすまん、あいつ俺に一言も連絡せんとここに店出しよったから、


ちょっとどやしつけてくる!!南森町の方やな…


ええとこ店出しやがって!!


あ、ずぼら焼のカスタードなかったら説教やな!!


おやっさん(先代の店長)に変わってあいつをとっちめてやる!!」


言葉は乱暴だが、顔がすっかりにやけている鎮実は禁煙パイポを銜えると、


勢いよく店を飛び出していった。


「シゲさん、嬉しそうでしたね?」


「ああ、言葉とは裏腹に滅茶苦茶喜んでいるな」


まこととマヨーテは互いの顔を見つめながら苦笑しあうのであった。




『えっ、ちじこ。それ本気で言ってるの?』


夕飯づくりに追われる譁紗祢、


呆れ顔でちじこの顔をまじまじと眺めている。


『せや!兄貴や天外も一緒やねん。


そんな心配せんでも行けるって!!』


台所から譁紗祢の得意料理・肉じゃがのいい匂いがダイニングに漂う。


しかしそんな匂いとは裏腹にちじこの言葉に対し、


譁紗祢は浮かない表情を浮かべる。


『ちょっと無謀過ぎない?』


レタスの葉をちぎって振り洗いをしてボウルに盛り、


トマトを櫛切りにしていく。譁紗祢の手慣れた包丁さばきを横目に、


ちじこはめげる事無く言葉を続ける。


『譁紗祢、兄貴の言葉借りるけど…


【漢ってのは、負けると分かってもやらなきゃいけない戦いもあるんだ】やで』


譁紗祢は出汁と豆腐と若布が入った鍋が沸騰したのを見計らい、


火を止めて味噌を溶き、グリルで焼いている鯖の切り身の焼き具合を確認すると、


『ちじこ、お皿出して。そろそろ夕飯出来るよ』


ちじこの問いには答えず食卓の準備をちじこに促す。


『へーい』


譁紗祢の表情が読めないちじこ、


もどかしさを隠しつつ食器の準備をしながら、


食卓を台拭きできれいに拭いていく。


一方譁紗祢は野菜サラダを仕上げて、


焼きあがった鯖の切り身をちじこが用意した更に盛り付け、


大根おろしをすり下ろし始める。


『あ、それ俺がするよ』


【ここで得点稼ぎをば!!】とばかりにちじこ、


率先して大根おろし器で大根おろしをすり下ろし始める。


『へぇ、いつもテレビかゲームばかりのちじこがねぇ…珍しい事もあるものね』


『い、いつもやってるやん』


『うふふ』


譁紗祢はちじこの様子が面白おかしいらしく、


ニコニコしながら鍋の肉じゃがを大きめの器によそい、


次いで味噌汁を椀によそう。


『ちじこ、ご飯よろしくね』


『ほいほい』


譁紗祢がおかず類と味噌汁を食卓に並べ、


ちじこが箸をセッティングして炊き立てのご飯を茶碗によそう。


鯖の塩焼きに譁紗祢お得意の肉じゃが、味噌汁そして野菜サラダ。


二人の夕食としては今日は少し豪華に見えるな、


ちじこは内心喜びながらも平静を装って食卓に着く。


『で、どうなんや?ええやろ?』


ちじこ、痺れをきらして譁紗祢に答えを求める。


『お腹すいちゃったから、まず食べようよ』


『せやな…ほな、いただきます』


譁紗祢に急かされる形で夕食が始まった。


肉じゃがのほくほくしたジャガイモを口に運びながら、


上目遣いで譁紗祢の顔を伺うちじこ。


『ねぇ、一睡もしないで本気で行けると思う訳?』


『俺ら若いから!!』


『若いと言っても、自転車でさ…大阪から神戸の西の須磨まで行ってよ、


この寒い中深夜まで出待ちしてさ、


Anzaとお話してそこから寝ないで、


尼崎で今久留主秋穂のミニコンサートに行くってさぁ…』


鯖の塩焼きを一口、投げ込んでから譁紗祢は呆れた顔でちじこに言い放つ。


Anzaとは関西ローカルの芸能人で、テレビ番組やラジオ番組のDJなど、


関西では名の知れた有名人である。褐色肌の美人と評判であり、


東京にも進出するのでは?と噂が持ち切りのタレントでもある。


またAnzaはラジオでアニメを特集する番組の司会も務めており、


アニメファンからも人気は高い。


ちじこもご多分に漏れずすっかりAnzaにお熱を上げており、


出待ちして自らのお手製お好み焼きを差し入れしたい!!


というのが、ヴァーリャと天外を巻き込んだ理由だったのだ。


その帰りに、アニメ声優の今久留主秋穂が尼崎でミニコンサートをする


、という情報を聞きつけ夜通し自転車を走らせてミニコンサートを鑑賞、


そして帰宅するというものであった。


今久留主秋穂は関西を拠点としている様々なアニメの声優としても、


またアニメソングも歌っており、


これまた関西地区では人気のある女性声優アイドルである。


当然、アニヲタのちじこはこれを逃すことはなく、


競争率の高いミニコンサートの入場チケットを悪運の強さでゲット。


これにもヴァーリャと天外を巻き込んで連れ込もうと目論んでいたのだ。


『譁紗祢、俺の目を見てくれ…』


『やれやれだぜ』


ちじこの揺るぎない決意に、


思わずジョジョの奇妙な冒険第3部主人公・空条承太郎の決め台詞を呟く譁紗祢。


『私がどういっても、ちじこは行くつもりなんでしょ?』


『へっ、バレバレやな』


トマトを口に放り込みながら照れ笑いするちじこ。


『お兄ちゃんもお兄ちゃんよね…なんで止めてくれなかったのかしら』


『それはやな、兄貴と天外には俺がちゃんと手回しをやねぇ』


『はぁ~。あれだけ色んな事あったのに、


一件落着しちゃったらこれだもん。でも…』


今度は譁紗祢が味噌汁を啜りながら、ちじこの顔をまじまじと眺める。


『ど、どないしたんや?なんか恥ずかしいやん』


改まった表情で譁紗祢から見つめられるちじこ、顔を真っ赤にする。


『んー、なんでもないよ』


色々な事が走馬灯のように蘇る譁紗祢。


ちじこが居なければ私はどうなっていたか…、


そう思うと譁紗祢も顔を少し紅潮させる。


二人で照れあう食卓をつかの間の静寂が包む。


『まぁ、そこまで行く気満々なら私も止めないけどさ。


冬の須磨海岸でキムチ鍋って、正直よくやるよね…』


『譁紗祢、それこそ浪漫やで。糞寒い中で熱々の鍋つついて、


モチベーションアップや。漢やから出来る事なんやで!!』


ご飯を勢いよくかきこみながら、自信に満ち溢れた表情を見せるちじこ。


『止めても無駄なようね…。でも、気を付けて行かないとダメだよ。


お兄ちゃんや天外もいるんだからね』


『大丈夫、兄貴がいるからさ。兄貴、


この前お金なかったから自転車で京都往復したって、


ドヤ顔で自慢していたからさ』


いや、そういう問題じゃないだろ…と言いたげな表情の譁紗祢。


その後、食事も済んでちじこが進んで洗い物を受け持ってくれた。


やっぱり譁紗祢に気を遣っているようである。


そんなちじこの気配りに嬉しくなる譁紗祢だったが、やはり気になる。


大丈夫かしら…万が一ちじこやお兄ちゃん、天外に何かあったら…。


譁紗祢は無意識のうちにスマホを手に取っていた。


『もしもし…』


譁紗祢の心配とは裏腹にすっかりご機嫌のちじこは、


洗い物に一意専心していたのであった。




「おーい、ちじこ!!何寝とんねん!!はよ起きんかい!!まだ芦屋やろが!!」


ヴァーリャに頭を(はた)かれたちじこ、寝ぼけた表情で辺りを見渡す。


「休憩すると言ってガチ寝したのかwいい根性しているな、ちじこはw」


天外がニヤニヤしながら寝ぼけ顔のちじこを見やる。


「また譁紗祢の夢でも見てたんやろ。ほんまに、ええ根性しとるわ。


おいら達が次の休憩場所決めてたゆーんに、ちじこと来たら…」


「えっ、夢やったんか」


「何ゆーてんねん。ここは国道43号線やぞ、もうすぐ神戸市東灘区やで。


ここのコンビニで休憩してたら、いつの間にかちじこだねグースカ寝やがって。


まだまだ先は長いんやぞ、須磨やぞ須磨!!ほれ、ブラック飲んで目ぇ覚ませ」


ヴァーリャがブラックコーヒーの缶をちじこに投げつける。


「ありがとう、兄さん」


「シャキッとせんかシャキッと!!


ちじこが行くゆーから、おいらと天外が付き合ってるんや」


「せやったな」


「まぁまぁ、ヴァーリャもその辺で止めておきなよ。


ちじこ、早く行かないと暗くなるし食材買う店も閉まってしまうぜ」


ヴァーリャの叱咤を天外がやんわりと宥める。


「せやな…ほな、それ飲んだら出発や!」


3人はそれぞれの荷物を背負いながら、


国道43号線を自転車で西へ西へひた走って行く…。

やれやれ、先が思いやられるぜ…。この後どうなるか気になるだろ?


まーた色々やらかしたんだぜ、あいつら。


アホやけど憎めん奴らやわな、ほんま…。


あ、【づぼら焼】の話な。天三にはないんやけど和歌山県海南市には


ほんまにあるお店なんや。筆者もめちゃ好物らしいで。


ちなみに筆者のヤローは【づぼら焼】を含めた回転焼きは一度、


トースターで両面カリカリにして食べるのがマイジャスティス


とか抜かしてたな。でも、焼き立てが一番やっての。


分かんねぇ奴やな…。


さて、中編のちじこ達がどないなるんか。コーヒー


淹れたからそれ飲んで待っててや。

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