第2話:ひと時の会話
シャワーを浴び、スーツに着替える。
半同居人はタブレット端末でニュースを確認しながら、フレンチトーストを頬張っている。
3年ほど前から変わらない朝の光景だ。
俺も朝ごはんを食べようと食卓に着くと彼女が声をかけてきた。
「毎回思うのだが、なぜお前はいつもスーツなんだ?別に強制されているわけでもないのに。私服の方が楽だろうに」
「あれだ、あれ。気分の切り替えってやつだ。スーツ着ている間は仕事に集中。私服の時は仕事のことは考えないってやつだ」
「寝落ちしながら論文読んでたやつがよく言うよ」
「見られてたか、まあ、そういう日もあるさ」
「そういうもんか」
「そういうもんさ」
一通り会話を終えるとお互い自分のことに集中する。
彼女はニュースを読み終え、自分の研究に関する論文を読み始め、俺は朝食を食べ終え、食器を洗い始めた。
「しかし、いつもきれいに食べてくれるよな」
「なんだ、残して欲しかったのか」
「いや、そうじゃない。ふとそう思ってさ」
「どうした、今日はいやに感傷的じゃないか。恋人にでも振られたか?」
「俺に彼女がいないことを知っててよくいうよ」
「まあな、寮とラボの行き帰りしかしない男には出会いの場はないからいなくて当然だ」
「それはお前もそうだろう」
「私はいいさ、今は特に必要性を感じないし。欲しくなったらお前と既成事実でも作ってみるさ」
「俺の意思は存在しないのな」
「あるさ、例えばそうだな。夜のプレイの趣向とかなら合わせてやるぞ、目隠し、蝋燭、縄までなら可だ」
「俺をさらっと変態扱いするのはやめてくれ」
「変態扱いはしてないさ、私はこの世に変態はいないと思ってる。いるのは趣味が違う人間、ただそれだけだ。何事も受け入れる姿勢が大切だよ、時政君」
「確かにな」
朝の一幕でなぜか人間論を説かれてしまった。
彼女からは何の嫌味も感じない。ただ本当に思ったこと。正しいと思っていることを口にしているだけだ。俺はそんな彼女の性格は好きだ。
一緒にいて気兼ねしない。良いバディだと思っている。
そう思っているうちに彼女の用事が済んだらしい。
「ほら、いくぞ。時政」
「ああ」
俺は彼女を追いかけながら部屋を出る。