少女の記憶 ~ハイリンダの青春録~
まず最初に感じたのは途方も無い程に長く感じる月日の流れだった。
時間の感覚が狂ったかの様に、目が覚めては夜中、昼寝しては夜明けと、体内時計と体の感覚がとち狂ったかの様に壊れていた。
次に感じたのが、体から発せられる謎の射出感だった。
毛穴から空気が漏れる様な、針が飛び出すかの様な、はたまた蟲が這い出るかの様な……まるで自分の体を乗っ取られる感覚に、蹲り固く抗うしか出来る事は無かった。
足の先から髪の毛の先まで他人と感覚を共有しつつも支配される様な恐怖に、彼女は恐れ時に怒りを露わにした。
三日が経ち、一週間が経ち、そして一カ月が過ぎた頃、そこにはケラケラと笑う彼女が居た。感覚のズレは次第に収まり今では普通の……いや、普通では無い日常を送っている。
彼女を彼女たらしめているのは無知故の享受そのものであり、自分を支配しようと忍び寄る邪の物ですら自らの物として楽しみだしたのだ。
食わねば空腹が彼女を襲い続け、死ぬことは出来ず死ぬ直前の微かな意識だけが彼女を繋ぎ止め続ける。
同じく首を刎ねられても死ぬことは無く、死の激痛と寒気が彼女を襲い続ける。
だから無闇矢鱈に騒ぎ立てること無く、静かに暮らそう。
彼女はそう決めたのだ。