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第6話 この激突は負けられない〈意地とプライド〉

 光は、仄かに赤く染まっていた。温かみなんてものはなく、ただただ冷たくラフィルの身体を突き抜けていく。

 強く睨みつけるレオンを、ラフィルは同じように睨み返す。手にしていたレイピアを振り下ろし、足に力を込めるように前のめりとなった。


『ふふ、遊んであげるわ。お嬢さん』


 何かが笑った。直後にラフィルは、地面が抉り取られるほど力いっぱいに蹴る。

 ただまっすぐに。

 ただ愚直に。

 目で捉えることができないスピードで、レオンへ迫る。

 だが、レオンを斬り飛ばそうとした瞬間に光が弾けた。


「――――」


 ラフィルは目を大きくする。

 感触は確かにあった。しかし大きな違和感が襲ってくる。

 斬り飛ばされたレオンは、小さな笑みを浮かべた。

 直後、その身体は真っ赤な光となって爆発した。


「くっ」


 強烈な光がラフィルに襲いかかる。

 反射的にまぶたを閉じるが、遅かった。

 ラフィルは目頭を抑えながら見開こうとする。

 しかし、光に目をやられてしまったせいか痛みが走った。


「やってくれましたね」


 ラフィルは目を閉じたまま立ち上がる。

 その姿に野次馬はどよめいた。

 トップランカーとも呼べる相手に、駆け出しが一撃を与えた。

 しかも戦況を一気に逆転させるような一撃だ。

 野次馬は思わず息を呑む。

 あり得ないと思われていた結末が、今まさに起きようとしていた。


「目を封じたか」


 だが、ベイスは違った。

 レオンに感心している様子だが、慌てている素振りはない。


「気づいたのか、それとも気づいていたのか。どちらにしても面白いことになったな」


 ベイスの言葉に、ティナはつい顔を強張らせた。

 もしベイスの見解通りならば、レオンが勝つ可能性が出てきたことになる。

 だが、あくまでも可能性だ。

 ラフィルはラフィルでトップに立つしっかりとした理由がある。


『レオン、一つ教えてあげる。あの子はね、未来が見えるのよ。でもその目は封じた。だけど時間は限られている。だからその間に、殺しちゃえ』


 囁かれる言葉。

 レオンはそれを拒絶することなく、駆けた。

 光の中から飛び出し、後ろからラフィルへと斬りかかる。

 しかし、おかしなことにラフィルは振り返った。



――キィイィィン――



 甲高い音が響き渡る。

 ぶつかりあった剣と剣。

 レオンが振り下ろしたタクティクスを、ラフィルはしっかりと受け止めていた。

 思わず目を大きくするレオン。

 ラフィルはそんなレオンを振り払うかのようにレイピアを振り切った。


「くそっ」


 地面に着地し、すぐに追撃しようとする。

 だがラフィルは、レオンが体勢を立て直す前に、地面を蹴った。

 目は閉じられている。

 しかしラフィルは、しっかりとレオンの位置を把握してレイピアを振った。

 レオンは後ろへと飛ぶ。

 ラフィルはすぐに追いかけ、さらに攻撃を繰り出した。


「くぅっ」


 レオンは思わず斬撃を受け止める。

 直後にラフィルは力を抜き、レオンのバランスを崩した。

 僅かな時間に起きる激しい攻防。

 目を封じたはずなのに、ラフィルはまるで見ているかのようにレオンを圧倒する。


「おい、マジかよ」

「見えてない、よな?」

「あいつ、本当に目をやられたんだよな?」


 野次馬達は言葉を失っていた。

 レオンを蹴り飛ばすラフィルの姿は力強く、とてもじゃないが目をやられたとは思えない。

 誰もがラフィルのすごさに驚く中、レオンはどうにか踏ん張り切る。


『ふぅん、なるほど。今度は気配で位置を把握か。ホント、面倒ね』


 なら、と声は次の手を打つ。

 途端にレオンの周りに二つの魔法陣が出現する。

 光が溢れる中、レオンを模った何かが現れた。

 どれもが白い髪をしており、その手には形を留めていない剣があった。


『レオン、マリオネットを用意してあげたわ。これであいつは、混乱するはずよ』


 マリオネット達はラフィルへと突撃する。

 だがその顔には戸惑いがなく、冷静に振り切られた剣を躱していた。


 前から後ろから。

 右から左から。

 四方八方に。

 縦横無尽に。

 どの角度からも。

 どんな攻撃をしても。

 ラフィルは声が用意したマリオネット達の攻撃を回避する。


「ダンスは飽きましたよ」


 ラフィルの目が微かに開く。

 直後、流れるようにレイピアを振った。

 倒れていくマリオネット達。

 淡い光となって空間へ溶けていく中、ラフィルは目を擦った。

 まだ若干、目は痛い。しかし景色を見ることはできるようになった。

 これなら、すぐに決着がつけられる。

 そう思った矢先だった。



――これで終わりだ――



 一つの光景が浮かんだ。

 それは真横からレオンが突撃してくる姿だった。

 ラフィルはすぐさま左に視線を向け、真後ろへステップを踏もうとした。

 だが、そこにはレオンの姿はなかった。


「いない?」


 思わず声が溢れる。

 なぜ、とつい考えてしまった。しかしすぐに、ラフィルは反対方向に顔を向けた。

 そこには体勢を低くして突撃してくるレオンの姿があった。


「これで終わりだ!」


 やられた。

 ラフィルは思わず心の中で叫んだ。

 レオンがしたこと。それは未来視に幻想を紛れ込ませるというもの。

 偽物の未来を見せられたラフィルは、僅かに反応が遅れる。


 迫るタクティクス。

 咄嗟にレイピアを盾にして、攻撃を防ごうとした。

 しかしレオンは躊躇うことなく、力いっぱいにタクティクスを振る。

 金属がぶつかり合う大きな音が弾け飛ぶと、途端にレイピアが勢いよく飛んでいった。

 回転し、最後には地面へ刃が突き刺さる。


 勝負は決した。

 だがレオンは、止まらない。


『叩き込んじゃえ』


 大きな声を放ちながら。

 ただ怒りのままに。

 左手に持っていた幻想的な光の剣で、ラフィルを斬り倒そうとした。


「そこまでだ」


 攻撃しようとした瞬間、勇ましい声が耳に入ってきた。

 メタリックに輝く腕でそれは光の剣を受け止めると、若干だが顔を歪めていた。


「もう勝負はついた」


 ベイスはレオンを見下ろしていた。

 その後ろにいるラフィルは、とても驚いた顔をしていた。


「何を言っているんですか! まだ勝負は――」

「本気ではないとはいえ、油断しすぎだ。あのままでは死んでいたぞ?」


 ラフィルはベイスの指摘に顔を歪めていた。

 とても不服そうにしながら、仕方なく引き下がる。


「あ、あの――」

「悪いが先に魔法を解除してくれ。腕が痛い」

「あ、は、はいっ」


 レオンはベイスに言われた通りに魔法を解く。

 するとレオンを煽っていた声が『つまんないの』と呟いて消えた。


「あの勝負はついたって言ってましたが……」

「そちらの勝ちということだ」

「えっ?」

「ラフィルの代わりに謝罪をしよう。すまなかった」


 レオンはベイスの思いもしない言葉に戸惑った。

 ラフィルもまた驚いたのか、思わず「ベイスっ」と名前を叫んだ。


「勝負の結果だ。嫌か?」

「嫌です! なぜ頭を下げなければ――」

「それが礼儀だ」


 ベイスの言葉にラフィルはギリギリと歯軋りをした。

 あまりにも納得できないのか、「ふん」と鼻を鳴らす始末だ。

 しかしベイスはそんなラフィルの頭を掴み、無理矢理下げさせた。


「ちょ、ちょっと」

「悪かった。これでも精一杯の誠意だ。許してもらえたら嬉しい」

「この、離しなさい!」


 もはやどちらが上なのかわからない状態に、レオンは困惑した。

 ひとまず「もういいですよ」と返事をすると、ベイスは頭を上げてくれた。


「ふん。私は認めませんからね」


 だが、ラフィルは違った。

 とても納得していないのか、レオンに顔を向けようとしない。

 そんなラフィルにベイスはため息を吐く。

 レオンはそんな姿を見て、ベイスの気苦労が何となく伝わった。


「行くぞ、ラフィル」

「命令するな。ったく」


 どこかへと去っていくラフィルとベイス。

 だが突然ラフィルは立ち止まり、レオンに振り返った。

 強く睨みつけながら、ラフィルは負け惜しみを口にした。


「次はないと思いなさい」


 レオンは顔を険しくさせる。そんなレオンに、戦いを見守っていた野次馬が一斉に歓声を上げた。


「よくやったぞ、坊主!」

「まさかラフィルに勝つなんてな。どんな手を使ったんだ?」

「祝いだ。祝杯だぁぁ!」


 それぞれがそれぞれ、レオンを祝杯してくれる。レオンはそれに顔を綻ばせ、つい嬉しそうに微笑んだ。

 そんな中、ズンズンとレオンに迫る少女がいた。


「このバカ!」


 ティナは、一度レオンの頬を思いっきりビンタした後に叫んだ。

 思いもしないことに打たれた頬を抑えてしまうレオン。しかし涙を溢すティナを見て、自分がした浅はかさがどんなものだったのかを知る。


「心配したぞ! いくらなんでも無茶しすぎだ!」

「ご、ごめんなさい」

「ラフィルに勝ったからいいものの、万が一に死んだらどうする! もっと考えろ!」


 思いっきり怒られるレオンは、つい身体を縮こまってしまう。

 だがティナはそんなレオンを優しく抱きしめた。

 照れながらも、だけど嬉しそうな顔をしてレオンへと微笑みかけた。


「ありがとう、レオン君。だけど、もう無茶はしないでくれ」


 どんな想いが込められているのか。

 それがわかったからこそ、レオンは素直に「はい」と頷いた。


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