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第3話 初めてのクエスト〈ファランのおつかい〉

 晴れて冒険者となったレオン。自分の力で勝ち取ったという事実と、手に入れた冒険者ライセンスがその顔を緩めさせていた。

 これでダンジョンに入ることができる。さっそくダンジョンへ行こう。

 そう思っていると、ティナが釘を刺すように言葉を言い放った。


「さて、まずは買い出しに行こうか」

「えっ?」

「えっ、とはなんだ? 冒険者は基本チーム行動。ダンジョンに潜るならなおのことだ。必要最低限とはいえ、万が一には備えないといけないぞ」


「そ、そうなんですか。でも、早くダンジョンに――」

「魔法が使えるようになった。しかもなかなかに強い魔法を。だが、君はそれだけだ。ここで準備を怠れば命を落とすぞ?」


 そもそもレオンは冒険者になっただけで、ダンジョンで起きるトラブルやその対処法を知らない。いくらティナが一緒に行動するとはいえ、カバーできる範囲は限られている。

 だからこそティナは、厳しい口調でレオンに冒険者の心得を叩き込む。


「いいかい、レオン君。もし君が死ねば私達にとって大きな損失なんだ。もちろん私が死んでもだが、その時は本当に一人でダンジョンに向かわないといけない。そんな状態にならないためにも、しっかりと備えないとダメだ」


 その顔は、とても厳しいものだった。

 同時にどこか暗い影もある。レオンはそれが何なのかわからないまま、渋々と「はい」と返事をして頷いた。


「それでよろしい」


 納得してくれたレオンに、ティナは優しい笑顔を向けた。レオンはちょっと不満げな顔をする。それを見たティナはちょっと困りつつも、笑いながらその手を掴んだ。


「そう拗ねるな。何事も備えあれば憂いなしだ」

「そうですけど」

「仕方ないな。冒険者になったついでだ。お祝いに私がアイテムを買ってあげよう」


「本当ですか!」

「嘘はつかないさ」


 ティナに腕を引っ張られ、レオンは大通りへ足を踏み入れていく。

 行き交う人々は多種多様だ。エルフもいればドワーフもいる。ティナのような妖精もいれば獣耳を立て尻尾を揺らすビーストもいた。

 当然、人間もその中を歩いており、みなそれぞれのスピードで歩いている。ふと、看板を掲げたヒューマノイドが目に入った。何やらギルドの勧誘をしているらしいが、今のレオンにとっては不要なものだった。


「賑やかだろ?」

「はいっ。思えばここっていろんな人達がいるんですね」


「君のように冒険者になろうとやってくる者が多いからな。

 夢を持って訪れる者。

 野望を叶えるためにやってくる者。

 人には言えない事情を隠し持っている者。

 みんなそれぞれ事情を持っていて、それをどうにかするために冒険者になる。ギルドはその受け皿となり、〈夢幻のダンジョン〉へ入る権利を与えるんだ」


 人はみな、それぞれの理由を持っている。それがどんなものであれ、ギルドは有益だと認めればダンジョンに入るための権利を与えるのだ。

 だが冒険者の損失はギルドの損失。特に〈銀翼の旅鴉〉のような新設で小さなギルドは、その損失は計り知れない。


「権利とは、責任だ。責任が問われるからこそ権利が与えられる。レオン君、君はダンジョンに入る権利を得た。目的はどうであれ、その責任を全うする義務があるんだ」


 言葉が重い。だが不思議と逃げ出す気にはならなかった。

 むしろ、ティナの言葉を聞いて『やってやろう』というやる気が出た。


「ティナさん、ありがとうございます。俺、ちょっと考えなしでしたよ」

「ハハハッ、冒険者になったばかりなんだ。わからなくて当然さ。それに君を導くのが私の役目だ。君が一人前になるまで、私が面倒を見ることを約束しよう」

「ありがとうございます! 俺、絶対に一人前になりますよ。ティナさんにちゃんと恩返しができるように、立派な冒険者になります!」


 その言葉に、ティナはつい息を飲んだ。しかしすぐに、嬉しそうに笑って「楽しみにしているよ」と口にした。


「さて、と」


 歩くこと数分。ティナはとある店で足を止めた。

 レオンは店に掲げられている看板に目を向ける。そこには〈雑貨屋セレスティア〉という文字が彫られていた。


「ここは案外安いんだ。だから私はひいきにさせてもらっている」

「へぇー。結構年季が入っているように見えますけど」

「昔からある老舗みたいなものさ」


 ティナに腕を引かれ、レオンは雑貨屋へと足を踏み入れた。中に入ると共に目に入ってきたのは、オシャレながらも落ち着いた空間だった。木造を活かした温かみのある商品棚。ポーション、携帯食料、緊急時に必要となる万能薬など見やすいように並べられており、事細かな気遣いがされていることもわかった。


「わぁー」


 思わず感嘆な声を上げてしまう。ティナはそんなレオンを見て、つい優しい笑顔を浮かべてしまった。


「あら、いらっしゃい」


 誰かが声をかけてきた。振り返るとそこには、妙齢の女性がカウンターに立っていた。

 濃い青いシャツに、チェック柄が入った紺色のスカート。首には星を模ったネックレスを下げており、その右手には煙を立ち上らせているタバコがあった。


「やぁ、ファラン。今日は買い物に来たよ」

「そんなの見ればわかるわよ。それよりその子はどうしたの? もしかしてボーイフレンドかしら?」

「違う違う。私がスカウトした冒険者だよ。といっても、まだ駆け出しだがな」


 ファランは「へぇー」と声を溢しながらレオンを見つめた。マジマジと見られて、なぜか気恥ずかしさを覚える。

 するとファランは目を細め、クスリと微笑んだ。


「似ているもんだね」


 その言葉にはどんな意味があるのか。レオンは思わず訪ねそうになると、ティナが遮るように声をかけた。


「さて、レオン君。これから何を買えばいいか教えよう。といっても基本的なことだ。所持しているアイテムを考えて、これからは買うんだぞ」

「は、はいっ」


 流されるままレオンは店の奥へと向かう。ファランはそれを見て、ついため息を吐いた。

 だが同時に、微笑ましく顔を緩める。それはどこか嬉しそうだった。


「いいかい? ポーチの中に入れられるアイテムは限られている。あまり持ちすぎると、ダンジョンで手に入れたアイテムを入れることができなくなるからな。だからこそ持っていくのは必要最低限。ダンジョンの難易度と、自分の実力を鑑みて買うように」


「はいっ」

「まあ、しばらくポーションは必要だろう。あとできれば万能薬を数点あれば心強い。長期戦になるなら携帯食料も欲しいところだが、今はいいだろう」


 レオンはポーションを三つ、万能薬を一つ手に取る。ティナに促されるままカウンターへ向かおうとした。

 だがその瞬間、とあるものが目に入ってきた。


「これは――」


 棚の奥に、隠されているように置かれた剣。だがその形はどこか不思議で、その鍔となる部分には一つの魔法石が埋め込まれていた。

 なんでこんな所に。そう思ってつい不思議そうに見つめてしまう。


「どうした、レオン君?」

「あそこに武器が」

「武器?」


 ティナも覗き込み、その姿を確認する。同じように不思議そうな顔をすると、ティナはファランに声をかけた。


「ファラン、ちょっといいか?」

「何? もしかして商品を壊したの?」

「ここに武器があるんだが、これはなんだ?」


 ファランは一瞬だけ眉を潜めた。だがすぐに飛び上がるように立ち上がり、レオン達の元へと向かう。

 その棚の奥へ目を向ける。そして〈それ〉を確認した。


「タクティクス」


 その顔は驚きに満ちていた。だが同時に、懐かしむような優しい目でもあった。どこか嬉しそうであり、だけど悲しそうにも見える顔でもあった。

 不思議な表情を浮かべるファラン。レオンとティナは思わず互いの顔を見合わせると、ファランが口を開いた。


「死んだ夫の武器よ。まさかこんな所にあったなんて」


 それ以上の言葉が出てこない様子だった。しかし次第にその顔は、力強いものへと変わっていく。


「ねぇ、これは誰が見つけたの?」

「俺ですけど」


「あなた、名前は?」

「レオンです。レオン・ブレイスフォード」

「レオン、か。全く、運命って嫌ね」


 ファランは棚の奥にある剣を掴む。そしてそれを丁寧に取り出し、レオンへ差し出した。


「これ、あなたにあげるわ」

「え?」

「見つけてくれたお礼よ。といっても、ちゃんと対価はもらうけどね」


「でも――」

「見たところ、武器はないんでしょ? だったら遠慮はしちゃダメよ。それに、あなたにあげたほうが夫は喜ぶわ」


 そこまで言われて、レオンは受け取らざるを得なかった。

 しっかりとその剣を握り、持つ。その重みは想像よりも遥かに重たい。もしかしたらあまりの重たさに潰れてしまうかもしれないと思った。

 だが、それでも期待に答えたい。だからレオンは、力強い顔でファランを見上げた。


「ありがとうございます。俺、頑張りますよ」


 その言葉を聞いたファランは、嬉しそうに笑った。


「どういたしまして。さて、これから働いてもらおうかしらね」

「え?」

「言ったでしょ? 対価はもらうって」


 ティナはついつい苦笑いをした。だがファランは気にすることなく、言葉を放つ。


「そうね、あなた達のギルドにクエストを出すわ」

「クエストですか?」

「そっ。ダンジョンに行くんでしょ? だからそのついでにね」

「はぁ」


 ファランはティナに顔を向ける。するとティナはやれやれと頭を振り、どこに行こうとしているのか告げた。


「行こうとしているのは〈セフィロト〉だ」

「駆け出しにはもってこいのダンジョンね。じゃあ、これを頼もうかな」


 ファランは羊皮紙にペンを入れ始める。

 スラスラと流れるように書き終えると、それをティナに手渡した。

 目を通すティナ。その内容を見て、つい顔をしかめてしまった。


「おい、ファラン。いきなりこれは厳しいだろ」

「あら、あなたがいればどうにかなるんじゃない?」

「どうにかするが――」

「報酬は弾むわ。だからお願い」


 ティナは頭を抱える。そんなティナを見て、レオンはつい依頼書に目を落としてしまった。

 そこには『世界樹の果実の採取依頼』と文字が記されていた。



これにてプロローグは終わりです。

本日もブクマをありがとうございます。


これからも精一杯頑張ります!

お読みいただきありがとうございます!

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