第29話 闇が動き出す時〈異端なる審判〉
滴り落ちる水滴。
ほのかな光が広がる中、一つの足音が響いていた。
道化師の仮面を被ったその男は、静かに扉の前に立つ。
そのまま開くと、一気に光が溢れた。
「ようこそ」
白い空間の中、王冠を被った一人の男が声をかけてきた。
道化師の仮面は軽く会釈すると、王冠は「座れ」と命令する。
いつの間にか用意されていた椅子へ腰を下ろす。すると王冠は、一つの問いをし始めた。
「なぜ、君がここに来たかわかるか?」
「欠番が出たから。それ以外に何があります?」
王冠は、十分に理解していることを確認する。そのうえで一つの任務を言い渡した。
「その通りだ。君は本来、〈十二番〉として活動してもらう。だからこそ、汚い仕事を任せるんだ」
「早速、仕事ということですか」
「話が早くて助かる。君にやってもらう仕事は、具体的に言えば二つ。だが実質一つとなる仕事だ」
道化師の仮面は耳を傾ける。
そして与えられた仕事に、耳を疑った。
「黒き魔法の回収、および白き魔法の奪還だ」
その二つは、本来ならば一緒になることがない。だが同時に言い渡されたということは、それは非常事態を意味している。
「俺一人でやれと?」
「サポートは選ばせる。だがメインは君がやれ」
「なぜ?」
「君は〈零番〉の血を引いているからだ」
道化師の仮面は言葉が詰まった。
決定的と考えればいいだろうか。それとも、面倒な仕事だと思えばいいだろうか。
どちらにしても、道化師の仮面は見たこともない存在を恨んだ。
「わかりました。さっさと終わらせて、休暇を取らせていただきますよ」
「その意気で頼む。任せたぞ、ピエール」
その名前に妙な虫唾が走った。だが道化師の仮面は、何も言い返すことなく立ち上がる。
しかし、去ろうとした瞬間に王冠は道化師の仮面を呼び止めた。
「すまない、急な仕事ができた」
王冠は珍しいことに、頭を抱えていた。一体何事かと思い、見つめるととんでもないことが告げられる。
「〈十三番〉、いや裏切り者のジョーカーが現れた」
道化師の仮面は、思わず息を詰まらせた。すぐに現場へ向かおうとしたが、それを王冠に止められてしまう。
「なぜ止めるのですか?」
「今のお前では勝てない。それどころか殺される」
「危険な任務に行かせようとしているのに?」
「話を聞け。ジョーカーは、〈管理個体〉の一つを持ち出した」
「ますます止める意味がわからないですが?」
「話を聞けと言っているだろう。ジョーカーが持ち出した個体の名は、ブラットローズ。我々が保有する中で三指に入る強さの個体だ。
あいつはどうやら、それと〈魔力同調〉に成功した」
耳を疑う言葉だった。そもそも〈管理個体〉と〈魔力同調〉できた話は、聞いたことがない。
だからだろうか、道化師の仮面の中で何かが疼いた。
「〈一番〉、ワガママを言ってもいいか?」
「聞くだけは聞いてやる」
「与えられた任務はしっかりとこなす。だから、俺に〈ジョーカー〉を追わせてくれ」
「なぜこだわる?」
「殺したいんだ。嫉妬しちゃうほど、羨ましくて堪らなくて、苦しいんだ。
だから――殺したい」
その笑顔は、何と表現すればいいだろうか。
あまりにも歪に緩む口元を見て、王冠はため息をついた。その笑みは、死んだ誰かを彷彿させる。
「遊びすぎるなよ?」
厄介なものを持つ〈十二番〉。だからこそ〈一番〉は、ジョーカーを追わせることにした。
お読みいただきありがとうございます。
このエピソードにて第1章は終了でございます。
この日より、誤字脱字や表現等の直し、構想プロット作りなどに励みたいと思います。
第2章はできるだけ早く執筆更新できるように作ります。
少しお待ちいただけたら幸いです。




