表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/32

第28話 冒険は始まったばかり〈また一緒に〉

『ガァッ!』


 緋王〈桜花〉は、いやレオンとティナは、漆黒に染まった胸を貫いた。

 砕けていく鎧。それがバラバラと飛び散っていく中、黒き少女は姿を現した。


『おのれ、よくも――』


 黒き少女は緋色に染まったタクティクスをへし折ろうと掴む。だが、触れた途端にその手から煙が上がった。

 目を見開き、歯が食い縛れられる。だが、そうしている間にも手は光へと変わり、だんだんと消えていった。


『く、ふふふっ』


 抵抗する余地もない。しかしそれでも、黒き少女は諦めなかった。


『勝った気でいるな。私は〈オマエ〉がいる限り死なない。例え〈オマエ〉に食われたとしても、死ぬことはない。

 いつか必ず、オマエを食ってやる! 例えオマエの中で眠ることになっても、必ずな!』


 誰に向けて吐き出されている言葉なのか、レオン達にはわからなかった。

 だが、それでも黒き少女は刻みつけるように吐き捨てる。


『せいぜい楽しい時間を過ごすんだな! もう一人のワタシよ!』


 黒き少女は笑う。

 その目から涙を流しながら、笑う。

 消えていく身体は、黒い光となって飛び散っていく。

 どんどんと四肢はなくなり、残った身体は弾けるようにして少女は消えた。

 戦いが終わる。そう感じた瞬間、緋王〈桜花〉は姿を消した。


「…………」


 タクティクスを握るレオンは、奇妙な感覚を覚えていた。

 確かに黒き少女の胸を貫いた。しかし、その手応えは妙なもので、まるで粘土でも刺したかのような感覚だった。

 そして少女が消えた後、ドロドロとしたものが流れ込んできた気がした。これは一体何を意味しているのか、レオンにはわからなかった。


「レオン君、見ろ」


 ティナに声をかけられて、レオンは顔を上げる。

 上がり始めた太陽。まだ黄金に輝く空の彼方。

 広がる緑は、溢れんばかりの光を浴びて影を作る。

 どこまでも雄大で、どこまでも大きい光。

 目覚めたばかりの鳥達が舞い、朝だと知らせる。

 レオンはそんな景色を見て、言葉を失った。


「見たかったものだろ?」


 ティナが笑う。レオンはというと、あまりの感動で何をすればいいかわからなかった。

 広がる景色はまさに絶景。どこまでもどこまでも広がる朝日は、世界をさらに美しく彩っていた。

 苦労の末、必死に駆け抜けた末に、辿り着いた場所。

 それは冒険者になって、初めて覚えた感動としてレオンの心に焼き付いた。


「すごい。こんなもの、見られるなんて」


 手が震える。

 口が震えて、言葉が上手く出せない。

 だけど、それでもこの光景は美しい。

 美しくて、雄大で、どこまでもすごくて、忘れられない。


「俺、冒険者になってよかった」


 ただ夢中になってレオンは告げた。

 しかし、ティナはそんなレオンの隣に立つ。

 そして、とびきりの笑顔でレオンに微笑んだ。


「これからも一緒に、冒険するんだろ?」


 その笑顔は、忘れることができないものだった。

 この最高の景色の中で、レオンは最高の笑顔を焼き付ける。


「はいっ」


 まだまだ見たことがないものがある。

 それは最高ではないかもしれない。むしろ最悪なものの可能性だってある。

 それでもレオンは、ティナと一緒に冒険がしたいと思った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ