表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

第21話 狂い咲き誇る花〈支配された犠牲者〉

 ふんわりとした青い光を放つ〈ミズタマホタル〉が、漂うように飛んでいた。繁殖期ということもあり、それぞれが美しい光を放ってメスへアピールをする。

 しかし、そんな求愛の場を荒らす者達がいた。一匹のミズタマホタルが突然、何かの口の中へと消えてしまう。

 途端にミズタマホタルは赤い光を放つ。威嚇、警戒、危険、と仲間を守るために毒々しい光が放たれる中、それは楽しげに笑みを浮かべた。


「ウマイ」


 グチャリ、グチャリ、と嫌な音が響く。口の中にいたミズタマホタルは、もうすでに跡形もない。


「もっと喰イタイ!」


 しっかりと味わい、それは叫んだ。直後、危機感を感じたミズタマホタルは一気に飛び去っていく。


「逃げるな、ニゲルナ!」


 かつて冒険者だった者は叫んでいた。ただ本能に従い、空腹感を満たすためだけに。

 あまりにも愚かな姿に、頭に咲き誇った花が満面の笑みを浮かべて揺れていた。



◆◇◆◇◆◇◆



 セロト噴水広場。

 たくさんのミズタマホタルが漂うように舞う中、鈴と勘違いしてしまいそうな美しい虫の鳴き声が響き渡っていた。


 夜が深くなってきたこともあってか、スライムやゴブリンといったモンスター達がおとなしい。中にはすっかり眠っている存在もおり、下手に刺激しなければ襲ってこない雰囲気だ。

 そんな中を駆けるレオン達。一度モンスターが視線を向けるが、気にすることなくレオン達は突き抜けていった。


「妙に静かだな」


 ギッシュはこの静かさに妙な違和感を覚える。本来ならば、夜行性で凶暴なモンスターが闊歩していてもおかしくない。しかし妙なことに眠っているモンスターがいる。

 何気なくモンスターに目を向けてみる。するとその頭には、どこかで見覚えがある真っ赤な花が咲いていた。


「嫌な予感がするである」

「警戒は怠らないほうがいいな」


 ライドウとティナがモンスターを横目に流し見ながら進んだ。レオンもしっかりと前方を警戒しながら、目的地まで突き進んでいく。


「それにしても、奇妙だぜ」

「エンカウントしても襲ってこない。まるで入ってこいと言っているように感じる」

「レオン君、そろそろ戦う準備をしたほうがいいかもしれない」

「いえ、たぶん今すぐやらないとダメです」


 レオンは足を止めた。視線の先には、ボス〈マッドプラント〉がいる。

 ラフィルに斬り落とされた花。しかしそれは全て元通りとなっている。ギッシュとライドウはその姿に、思わず息を止めてしまった。

 だが、レオンは鋭い目つきのままタクティクスを握る。


「驚いている暇はありません。相手はボスです」


 ダンジョンの頂点に君臨する存在。だからこそ、他のモンスターにはない何かを持っている。

 ギッシュとライドウは改めてボスの恐ろしさを感じつつ、武器を手に取った。


「レオン、ティナの嬢ちゃん。言っておくが、真正面からぶつかろうとするな。さっきはお嬢がいたからどうにかできた。だけど今は逆だ。よくて全滅、下手すりゃベイスの旦那達にも手が及ぶ」

「左様。我々はここからショートカットすることが目的だ。断じてあやつを倒すことが目的ではない」

「わかっている。しかしどうする? おそらくあいつも、ショートカットのことを知っているぞ?」


 まともに真正面からぶつかれば、確実に全滅する。しかし、陽動するにしても状況がよろしくない。

 どうすればいいのか。頭を悩ませる一同に、レオンはあることを口にした。


「あいつの気を引けばいいんですよね?」

「まあな。だが、一人じゃあ確実に殺されるな。ましてや満身創痍な俺達じゃあ、束になっても厳しい」

「なら、みんなで気を引けばどうですか?」

「何を言っている、お主? 全員でやったら意味がない。それにいるということは何か罠を――」


 ライドウがレオンの言葉にツッコミを入れていると、割って入るように「そうか」とティナが言葉を放った。

 レオンの考える作戦。それはあまりにも無謀であり勝算がないものだ。しかし、まともに言っても勝算がないなら、やる価値はある。


「レオン君、一応言っておくが君の作戦は勝つか負けるかのどちらかだ。それはつまり、全員が生き残るか死ぬかというもの。それを理解しているな?」

「していなきゃ言いませんよ。それに、約束したんです。だから、絶対に勝ちますよ」


 ティナは呆れたように息を吐いた。一度だけやれやれと頭を振った後、ギッシュとライドウに振り返る。


「まだ理解していないだろうから、私が説明する。いいな?」


 レオンは頷く。

 ギッシュとライドウも、緊張した面持ちで頷いた。

 伝えられる作戦。それはあまりにも無謀で愚かで、だからこそ意表がつけるものだった。


「おいおい、マジかよ」

「だが、成功すればボスを出し抜くことができる」

「出し抜ければな。現状を考えれば、チャンスは一度きりだ」

「でも、要はショートカットを一人でもすれば俺達の勝ちなんです。だからこそ、これは有効的だと思います」


 ハイリスクであり、ハイリターン。迫る時間制限と、レオン達の現状。

 全てを鑑みて、ギッシュとライドウは腹を決める。


「しゃーねぇな。人肌脱いでやるよ」

「うむ、お前が一番適任だろう」

「あのな、俺の武器が壊れてんの。だから――」

「わかっている。背中は任せろ」


 ライドウは双剣を手に取る。ギッシュはそんなライドウに顔を綻ばせながらも、折れた大剣を掴んだ。

 覚悟はできた。

 あとは運と、踏み出す勇気だけだ。


「行きましょう。あいつを出し抜いて、先へ」


 それぞれが返事をする。

 直後、ティナは呼吸を整えた。

 作戦はすでに始まっている。だからこそ最初のファーストアタックが重要なのだ。


「〈清浄なる蒼き炎よ〉〈彷徨う魂を天へ〉〈穢れし身体を地へ〉〈あるべき理のために全てを導け〉」


 ティナの身体が蒼く輝き始めると同時に、ミズタマホタル達が一斉に赤く染まった。

 それに気づいてか、マッドプラントが顔を向ける。直後、ティナは持てる力を使い、最大火力を解き放った。


「レゾナンス・フレア!」


 一つの青い輝きが、マッドプラントへ向かっていく。マッドプラントは思わず回避しようとするが、火球は右へと逸れていった。

 ボッ、と小さな音が弾ける。

 直後、爆発的な噴火が起きたかのように蒼い火柱が立ち上った。


『うぉわぁあぁああぁぁぁぁぁっっ』


 熱気、爆風、圧倒的な迫力がマッドプラントに襲いかかる。

 思わずたじろいでしまうと、直後に嫌な殺気が身体を突き抜けた。

 反射的に視線を向けると、真っ先にレオンの姿が目に入ってきた。


 マッドプラントは反応が遅れつつも、レオンに注意を向ける。

 だが、その後ろに隠れていたギッシュが一気に懐へと入った。

 折れた大剣の刀身。その側面でマッドプラントの頭を思いっきり叩きつける。

 遅れてライドウがその面を力一杯に踏むと、マッドプラントは一瞬だけ意識が飛んだ。


「行け、お前ら!」

「我らは後から追いかける!」


 みんなで作った僅かなチャンス。レオンとティナはマッドプラントの横を通り抜け、後ろにある噴水へと近づく。

 中央に設置されていたクリスタルに触れると、途端に光がレオン達を包み込み、数秒後には弾け消えていった。


『うぅ、クソォ。よくもやったな!』


 正気に戻ったマッドプラントは、忌々しげにギッシュ達を睨んだ。

 ギッシュ、そしてライドウは勝ち誇った笑みを浮かべる。

 やることはやった。だが、まだやらなければならないことがある。


「時間稼ぎするぞ、ライドウ」

「うむ。ほどほどに稼ぎ、追いかけよう」


 レオン達を追わせないためにも。

 ベイス達の元へ行かせないためにも。

 ギッシュとライドウは、マッドプラントに挑む。

 だが、そんな無謀な戦いを挑む者達を見て、マッドプラントは嘲笑った。


『バカな奴らだなぁ。そんなことしても、もう無駄なんだよ!』


 マッドプラントが雄叫びを上げる。

 途端に、おとなしかったモンスター達が騒ぎ始めた。

 咲き誇った花が揺れる中、その目は真っ赤に染まる。

 ギッシュとライドウは息を呑む。

 その二人を取り囲んだ花咲かせたモンスター達は、不気味に笑っていた。


「おいおい、なんだよこりゃあ」

「あまり考えたくはないが、あやつの意思に従っているようだ」


 マッドプラントは勝ち誇ったように笑う。

 全ては万が一のために貯蔵していた食い溜め。まさかこんなタイミングで使うとは、思ってもいなかった。

 だが、それも全て神聖魔法を復活させないため。そのためだけに、ギッシュとライドウに牙を向けさせる。


『クヒヒッ。お前らは、ミンチにして食ってやるよ!』


 モンスター達が一斉に飛びかかる。

 ギッシュとライドウが、覚悟を決めて剣を振るった。


 仲間を守るために。

 それだけのためだけに、地を蹴り飛ばす。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ