第20話 冷たく喉を震わせる者〈時を越えた因縁〉
トクン、と音が跳ね上がった。途端にピエールは、胸を抑える。
強烈な痛みに顔を歪めつつも、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「いやはや、こんな機会が巡ってくるとは。運命とは面白いものですね」
あれからどのくらい年月が経っただろうか。
ピエールは胸に刻まれた傷を懐かしく眺めながら、ニィッと口元を上げた。
「あなたは、どんなことをしても〈私達〉から逃げられない。例え姿を変え、血を受け継ぎ、その魂が全く違ったとしても――」
浮かび上がる光景。その先にいる男の勇ましくも悲しそうな顔つき。どこか辛そうで、苦しそうなものだ。
だが、だからこそ嗤えてくる。
「〈一番〉よ。今度は私が、あなたを壊してあげましょう」
ピエールは楽しげに笑った。ただただ大きな声を上げて、笑った。
ダンジョン〈セフィロト〉フロア6。その最深部は、あまりにも不気味で不吉な冷笑に包まれていた。
◆◇◆◇◆◇◆
「レオン、ティナの嬢ちゃん。一ついい案がある」
ダンジョン〈セフィロト〉フロア4。神聖魔法が眠る遺跡を出て、まだ十数分。
メメルを助けるために頂上へ急ぐレオン達は、移動しているとギッシュが一つの提案をしてきた。
「まずダンジョンを普通に進んでちゃあ時間がかかる。下手すりゃ道半ばでタイムアップすらあり得るな。だからショートカットとアイテムを使う」
「ショートカットとアイテム、ですか?」
「ああ。まずショートカットだが、ここから東にある〈セロト噴水広場〉を目指す。あまり知られちゃいないが、そこはフロア6へ直行できる仕掛けがあるんだ」
「初めて聞いたな。そんなギミックがあったとは」
「しかし、そこはちょっとしたリスクつきでもあるな。フロア6へ直行できるが、モンスターが多い。エンカウント次第では、壊滅する可能性もある」
完全に運が左右する作戦。しかし、このまま普通に進んでは間に合わないだろう。
ならば、選択肢は一つしかない。
「ギッシュさん、勝算はあるんですよね?」
「ああ。なかったら提案はしてねぇ」
レオンはギッシュの言葉を信じることにする。だからこそ話を進めた。
「アイテムについて聞かせていただけますか?」
ギッシュは腰に備えていたポーチに手を突っ込んだ。取り出されたのは、青白く輝く綺麗な羽だった。
「これは〈メモリーフロム〉っていうんだ。パーティーを組んだ人間のすぐ近くにひとっ飛びしてくれる優れものさ」
「もしかして、それが作戦の鍵を握っているんですか?」
「その通り。誰か一人でもいい。少しでも前に進んでくれたら、俺はこのアイテムを使って全員移動させられる。そんで〈世界樹の果実〉が手に入ったら、ベイスの旦那の元へひとっ飛びだ」
つまり、問題となるのは〈世界樹の果実〉を手に入れるまでの時間。それさえクリアできれば、メメルを助けることができる。
ならば、これ以上の作戦会議は不要だ。
「なら、すぐに行きましょう」
レオンの決断に、ギッシュとライドウは目を大きくした。
だが、すぐ懐かしむような目をして「ああ」「うむ」と返事する。
レオンは走り出す。そんなレオンを見て、ティナが追いかける。
「慌てるな。今からそんなに走ったらバテてしまうぞ?」
「平気です。それに、時間がありません!」
離れていくレオンの背中。ギッシュとライドウはその背中を懐かしみながら見つめていた。
「似てたな、ヴァンさんに」
「そうであるな。お嬢様がイラつくのもわかるほど、似ていた」
「ハハッ。なら一緒に行かなきゃ損だ」
ギッシュは走り出す。ライドウもまたその隣を駆けた。
目指すべき場所に向かって、レオンを追いかけるようにしてギッシュとライドウは駆けていった。




