表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/32

第18話 闇を斬り裂く金色の剣〈最強たる一人〉

 大きな音と共に、地が揺れる。ウネウネとツタを暴れさせながら、ボス〈マッドプラント〉は荒れ狂っていた。


『捕まえた!』

『冒険者を捕まえたゾッ』

『どうする、ドウスル?』

『食べるにキマッテイル!』


 マッドプラントは口を大きく広げる。暴れ回るツタに捕まったケケルとメメルは、あまりの恐怖に「助けてぇぇ」と悲鳴を上げた。


「ティナさん、魔法をお願いします!」


 そんな中、レオンは駆ける。ティナが「待て!」と叫ぶものの、そのままタクティクスを振り上げて飛びかかった。

 まずはケケルを絡め取っているツタを断ち切る。するとマッドプラントはとても痛々しい悲鳴を放った。


『おのれ、ボウケンシャ!』


 どうにかケケルを助け出すレオン。しかし、すぐにマッドプラントの標的はレオンへと変わった。

 レオンを捉えようとツタが薙ぐ。咄嗟にタクティクスを盾にした瞬間、「バカ、回避っ」と誰かに叫ばれた。

 レオンはすぐにケケルを抱きしめ、倒れ込むように攻撃を避ける。風が裂ける音が響き渡る中、顔を上げるとすぐ近くに立っていた木が薙ぎ倒されていた。


『チィッ』


 攻撃を避けられたことに、マッドプラントはさらに興奮していた。

 レオンはというと、もしものことを考えていた。防御をしていたら、自分どころかケケルも一緒にぶっ飛ばされていた。下手すれば死んでいた可能性がある、と。

 顔が青ざめる中、隣にラフィルが立った。


「全く、どこまで似ているんですか」


 若干の呆れとイラつきが混ざる視線を受ける。

 レオンがどうしてそんな視線が向けられるのか理解できないでいた。それにラフィルはさらに苛立ったような表情を浮かべていた。


『おのれ、おのれ! ならばコいつダケでも!』

「や、ヤダァ! 助けて、ケケルゥゥ!」


 マッドプラントはメメルを口の中へ放り込もうとした。しかし、その瞬間に勇ましい声が放たれる。


「クリムゾン・ランス!」


 貫かれる頭部。途端に燃え上がり、マッドプラントは耳障りな叫び声を上げた。

 同時にメメルを絡め取っていたツタが緩む。そのままメメルはかわいらしい悲鳴を上げて落ちていき、腰を打ち付けていた。


「いったぁー」


 とても痛かったのか、メメルの顔が歪んでいた。

 何気なく燃えているマッドプラントへ目を向ける。するとマッドプラントはさらに興奮したのか、空間が張り裂けるような雄叫びを放った。

 途端に身体を包み込んでいた炎が消える。直後に黒い何かが溢れ出し、全身が覆われていった。


『この程度でシヌものかぁァァ!』


 ティナが放った魔法が、完全に掻き消された。その迫力に、思わずレオンは気圧された。

 しかしラフィルは違う。凛とした顔つきで、マッドプラントを常に睨みつけていた。


「ギッシュ、ライドウ。時間を稼ぎなさい」


 ラフィルとレオンの隣を、ギッシュ達が横切っていく。

 何かを言うこともなく、ただ真剣な目つきで飛びかかった。

 だがギッシュが持つ大剣、ライドウが手にする双剣のどちらも弾かれてしまう。


「なっ」

「堅い!」


 思いもしないことに体勢が崩れる二人。マッドプラントはその一瞬を狙い、ツタを振り落とした。

 咄嗟に防御態勢を取るギッシュと、回避行動を取るライドウ。だがそのどちらも間違った選択だった。


「ぐおっ」


 まともに攻撃を受けたギッシュ。防御に使っていた大剣が簡単にへし折られると、そのまま膝を突いた。


「うおっ」


 回避を選択したライドウは、すさまじい威力にやられてバランスを崩した。マッドプラントはそこに容赦なくツタを叩き込み、ライドウを黙らせる。


「っ、ライドウ!」


 ギッシュが思わず叫ぶ。それに反応したかのように、マッドプラントは咲いている花を黒く輝かせた。

 ギッシュの頭上で花咲くように展開される魔法陣。ギッシュが思わず視線を向けた瞬間、それは歪に輝きを放った。


『ブライン・トラッツァ』


 真っ黒な雷光が閃く。途端に音が裂け、周辺は砂埃で見えなくなってしまった。


「あ、あぁ……」


 間近で戦いを見ていたメメルは、身体を震わせていた。

 助けに来てくれたギッシュとライドウが、いとも簡単にやられてしまったのだ。このままでは殺される。もしかすると、みんな死ぬ。

 大きな絶望感に包まれていると、真っ黒になったマッドプラントがメメルに振り向いた。


『オマエか、ここを嗅ぎ回るボウケンシャは!』


 メメルは逃げようとした。だが腰が抜けてしまったのか、立ち上がることができない。

 必死にお尻を引きずりながら、マッドプラントから離れようとする。しかし、マッドプラントが見逃してくれるはずはなかった。


『殺す。食って、喰って、クッテコロス!』

「いやぁあぁあああぁぁぁぁぁ!」


 マッドプラントの頭に咲いていた一つの花が、メメルへと迫る。

 だらしなくよだれを垂れ流し、その身体を貪ろうとしていた。

 だが、メメルの左肩に一つの花が噛み付いた瞬間にそれは散った。


「やはり時間がかかりますね、この魔法は」


 メメルは左肩を抑えながら、その背中を見た。

 肩にかかるほどの金髪に、簡単にへし折られてしまいそうな身体。その手にあるレイピアは金色に染まっており、不思議なことに妙な温かさが広がっていた。


「魔力は温存したいものですが、まあ仕方ないでしょう」


 メメルの盾になるように立つラフィルは、マッドプラントを見上げた。

 マッドプラントはというと、頭の一つである花が切り落とされたことに戸惑っている様子だった。


『な、なんでだよ』

『なんで、闇の魔力を斬れるんだよ!』

『む、ムテキのはずなんだよっ』

『どうしてオマエなんかに――』


 ラフィルは小さく笑みを浮かべる。途端にマッドプラントは身震いをした。


『まさか、オマエ〈神聖魔法〉が使えるのか!?』

「ご明答。〈輝け〉――レ・エルディ」


 ラフィルは一瞬にして姿を消す。

 マッドプラントは咄嗟に姿を追うが、あまりのスピードに身体が反応できない。


『あっ』


 一つ、花が飛ぶ。


『うあっ』


 二つ目が散る。


『うわあぁぁぁっっ』


 最後の花びらが舞い上がる。


「といっても、まだ本調子ではありませんがね」


 メメル、いやその場にいる全員がその姿に見惚れていた。

 舞い上がるラフィルは、金色に閃く軌跡を描きながらマッドプラントの身体を斬りつけていく。


『痛い痛い! やめろバカ!』


 マッドプラントが咄嗟に回転して暴れた。

 しかし、ラフィルは迫る全てを斬り落とす。

 どんなことをしても捕らえられない。それどころか輝きはさらに増していき、踊るように剣を振っていく。


「すごい……」


 あまりのすさまじさに、レオンは言葉を溢した。

 なぜ、ラフィルが〈金色の剣姫〉と呼ばれているのか。それが理解できた瞬間でもあった。


『やめろって言っているだろ!』


 苦し紛れ。そうとしか呼べない魔法を、マッドプラントは発動させようとしていた。

 途端にラフィルは後ろへ下がる。それを見たマッドプラントは、ドスの利いた声で『くたばれっ』と叫んだ。

 だが魔法が発動する寸前、強力な衝撃が右側面から突き抜けていった。

 マッドプラントは何が起きたかわからず、視線を向ける。

 するとそこには、機械部分が剥き出しとなっている腕があった。


「全く、私のことも考えてくれ」


 徐々に姿が浮かび上がってくる。

 そこに現れたのはべイスだった。まだハッキリと姿が現れていない身体を見て、マッドプラントは叫んだ。


『オノレがぁぁ!』


 ラフィルは駆ける。トドメとなる一撃を与えるために。

 だが、ラフィルがもう一歩踏み込もうとした瞬間だった。



――それ以上行くと、死にますよ?――



 何かが未来視に入ってきた。咄嗟に大地を蹴り、後ろに下がる。

 するとすぐ目の前で真っ黒な火柱が立ち上った。


「これは……」


 ティナが扱うレゾナンス・フレアと似ている。しかし、魔力の質が根本的に違った。

 思わず振り返り、魔法を発動させた者を探す。だが、どんなに探してもその姿は確認することができなかった。


『うぅ、くそぉっ』


 マッドプラントはゆっくりと身体を起こす。

 忌々しくラフィルを睨みつけると、大きな怒声を放った。


『絶対に、殺してやる! 覚えてろぉぉ!』


 地へと潜り込むマッドプラント。ベイスが一度追いかけようとするが、それをラフィルが止めた。


「いいのか?」

「これ以上はこちらが不利です。それに、あれには仲間がいるみたいですしね」

「仲間だと? では先ほどの魔法は――」

「おそらくそいつのでしょう。どちらにしても、あちらもこれ以上の交戦は望んでいない。なら、こちらも手を引いたほうが賢明です」


 ラフィルは目を擦る。若干ふらつくと、その身体をベイスが支えた。


「今回はどのくらい解放できた?」

「行って三割ですね。なのに、このザマですよ」

「上出来だろう。ひとまず、死者はいない」


 意識が闇に飲み込まれていく。そんな中、「お嬢!」「お嬢様っ」という声が響いた。

 ゆっくりと視線を向ける。そこには血だらけのギッシュとライドウの姿があった。


「あら、生きて、いたの、ですか」

「俺達が死ぬ訳ねぇよ!」

「お嬢様、お身体はいかがなものか!?」

「平気です。ちょっと、眠い、だけ――」


 目が閉じられる。すぐに静かな寝息が立つと、ギッシュとライドウは胸を撫で下ろした。

 レオンはティナと共にラフィル達を見つめる。


「あれが、Sランク冒険者」


 とても嫌な奴だ。人を見下し、大切な相棒を見下す。

 それには理由があるが、それでも許せない。

 しかし、その実力は確かなものだ。だからこそレオンは、拳を強く握る。


「ティナさん。俺、あいつより強くなりたい」


 明確な目標だった。ティナもまた、力強く見つめるレオンに微笑んだ。


「なれるさ、君なら」


 とても大きな壁。それを意識したレオンは、ティナと共に泣いて抱き締め合っているギッシュ達の元へと駆けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ