表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

第9話 負けてたまるか〈燃え上がる少年〉

――ああ、なんてことだ。



 レオンは後悔していた。

 ティナの裸を見てしまったこと。

 その裸で興奮してしまい、情けない姿を見せてしまったこと。

 それだけならまだいい。しかし、レオンはティナに裸を見られてしまった。

 理由は当然、撃沈してしまったレオンを助け出すためである。


「うぅっ」


 まだまだ初心で思春期な少年。まさかこんな形で異性に裸を見られるとは、思ってもいなかった。

 ベッドの上で悶え、枕に顔を埋める。あんな哀れな姿を見られるとは、と顔を真っ赤にするレオンは、再び思い出して悶えた。


「おーい、レオン君。そろそろ出発したいんだが?」


 ドアがノックされ、ティナに催促される。レオンは声が聞こえた瞬間に「ふぁぁいっ」と情けない返事をしてしまった。


「大丈夫か?」

「だ、大丈夫です! ちょっと待っててください!」


 飛び上がり、ドタバタしながら準備を始める。立てかけていたタクティクスとテーブルに置いていたポーチを手に取り、腰に備えていく。

 上着を羽織り、そのままドアの鍵を解除して開く。途端にティナの顔が目に入り、レオンの顔が赤くなる。

 しかしティナはまっすぐと見つめ、少しだけ困ったように顔を綻ばせた。


「寝癖がついているぞ」


 レオンは「えっ」と声を上げて髪を整えようとする。ティナはそんなレオンをクスクスと笑いつつ、屈むように声をかけた。


「全く君は。手グシだが我慢してくれよ」


 優しく、撫でるようにティナはレオンの髪を整えていく。

 レオンは少しむず痒い感覚を覚える。屈んでいるせいか、ティナの仄かに膨らんだ胸がレオンの目に入ってしまう。レオンは思わず視線を逸らしていると、「できたぞ」と声をかけられ頭をポンッと叩かれた。


「すみません」

「こんなことで謝るな。むしろ『ありがとう』と言ってくれたほうが嬉しいよ」

「すみません」

「謝るなって。全く、手がかかるものだ」


 ティナは幸せそうな顔をして笑う。レオンもまたその笑顔につられて、ついつい笑い返してしまった。


「さて、そろそろダンジョンに行こうか」

「はいっ」


 和やかな雰囲気のまま、レオンはティナの後ろを追いかける。

 そこにはあまりの恥ずかしさに悶えていた少年の姿はなく、ただただまっすぐと夢へと突き進む背中があった。



◆◇◆◇◆◇◆



 青い空に、雄大にそびえ立つ大樹。

 晴天を迎えたセフィロトの麓。しかし、そのダンジョンの入り口で多くの冒険者が立ち往生していた。


「どうしたんですか?」


 唸り、困り顔を浮かべているダンディーな冒険者に声をかけてみる。するとその男は艶のある低い声で、訊ねてきたレオンに答えてくれた。


「あれのせいで入れないんだ」


 指し示された場所に目を向ける。するとダンジョンの入り口に、とても大きな蕾があった。まるで生きているかのように蠢く蕾は、どこか不思議であり不気味でもある。


「なんですか、あれ?」

「わからん。だが妙なものでな。固くて斬ることもできないうえに、不思議なことに燃えもしない。試しに魔法で攻撃してみたが――」


 会話の最中、違う冒険者が魔法を発動させて蕾を燃やそうとした。だが炎は周りで燃え盛っているだけで、蕾は燃えず全く意味がなかった。


「あんな感じに無傷なんだ。耐性でもあるのか、それとも違う要因があるのか。どちらにしてもお手上げで入れない」


 レオンはまじまじと見つめる。

 普通に攻撃しても、燃やそうとしても、魔法も効かない蕾。見れば見るだけ不思議に感じてしまう。


「あら、なんですかあれ?」

「蕾のようだな。なぜここにこんなものがあるんだ?」

「見ればわかりますよ。でもまあ、邪魔ではありますね」


 そんな中、耳障りな声が入ってきた。目を向けるとそこには、忌々しいラフィルと腕を組んでいるベイスの姿があった。

 途端に空気が重くなる中、ラフィルは気にすることなく大きな蕾の前に立った。

 まじまじと見つめること数秒。ラフィルは「ふぅーん」と声を漏らした。


「どうにかなりそうか?」

「私を誰だと心得ていますか? ベイス、少し下がっていなさい」


 腰に添えていたレイピアの柄を掴む。しばらく見つめ、息を一度だけ大きく深く吸う。そしてタイミングを図ったかのように息を止め、一閃した。


 ばふんっ。


 とても奇妙な音が響いた。途端にダンジョンの入り口を塞いでいた蕾は萎み、そのまま枯れて消えていく。

 ラフィルはそれを確認した後、ゆっくりとレイピアを収めた。


「さて、行きましょうか」


 誰もどうにもできなかった障害物。ラフィルはそれを一発で無効化した。

 冒険者達はただ呆然とその背中を見送る。レオンもまた呆けて見つめていると、一瞬だけラフィルと目があった。



――あら、こんなことぐらいできないのかしら?



 クスリ、と笑われる。途端にそんな心の声が聞こえてきた。

 レオンの顔が険しくなる。それにラフィルは勝ち誇ったかのように微笑み、ダンジョンの奥へと姿を消した。


「さすがSランクだ。俺達と次元が違うか」


 ダンディーな冒険者は感心しつつ、ダンジョンへと足を運ばせていく。他の冒険者達も見習ったかのように足を踏み出していく中、レオンは違った。


「どうしたレオン君?」

「あいつ、笑ってました」

「ああ、確かに笑っていたな。だけどそれが――」

「絶対に見返してやる!」


 大きな声と共に、大きな目標を抱く。一体何がレオンを奮い立たせたのかわからないが、その顔はやる気で満ち溢れていた。

 ティナはそんなレオンを見て嬉しそうに微笑む。肩を叩き、まずやるべきことを告げた。


「追いつくだけでも大変だぞ。何にしても、まずは鍛錬だ」


 ティナの言葉にレオンは力強く頷く。

 初めて踏み入れるダンジョン。そこでレオンは、様々なことを学んでいくことになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ