表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/32

第8話 妖精少女が胸に抱く大きな夢〈妖精王の剣〉

 まだ濃い湯気が立ち込める露天風呂。レオンは異様な汗をかきながら温泉に浸かっていた。すぐ後ろにいるティナはまだ怒っているのか、口を聞いてくれない。だがこのあり得ないシチュエーションに、レオンの鼓動は自然と大きくなっていた。

 そもそもなぜこんなことになったのか。レオンは何気なく考え始めると、口を閉ざしていたティナが声をかけた。


「傷はどうだ?」

「え? あ、はい、だっ、大丈夫です!」

「そうか、よかったよ。しかし、まさか君がいるとはな」

「俺はティナさんが入ってくるとは思っていませんでしたよ」


 レオンは苦々しい笑顔を浮かべながら答える。ティナはそんなレオンに「すまない」と告げると、身体をレオンへと預けた。

「ティ、ティナさんっ?」

「今日は疲れた。少しだけ、背中を貸してくれ」

 異様な緊張のためか、さらにとんでもない汗を掻くレオン。どこか幸せでもあるが、体温が急激に上昇しているのかのぼせそうだった。


「と、ところで、どうしてこんなことになったんですかっ?」

「確かここは混浴だったな。おそらくそのせいだろう」

「そっ、そうなんですか!」


「しかし、君と出会ってからは暇をしないな。おかげでいつもより疲れる」

「ご、ごめんなさいっ」

「本当だ。でも、楽しいぞ」


 いつまでも続いて欲しい。だけど早くしないと熱さで気絶する。

 レオンの意識が混濁し始める。それと同時に、その身体に手を回された。

 思いもしないことに、レオンは目を大きくする。まさかと思い振り返ろうとすると、ティナから「前を向いていろ」と怒鳴られた。


「あ、あのっ」

「今日はすまなかった。だけど、ありがとう」


 この行為は何を現しているのか。

 ティナなりの感謝だと気づいたレオンは、ドキドキとしながら言葉を受け入れた。

 落ち着きを取り戻し始める。それと同時にレオンは、空を見た。

 赤づいた空はとても綺麗で、その中を漂う雲が微笑んでいるかのように見えた。


「ティナさん、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

「なんだい?」

「ティナさんはどうして、冒険者になったんですか?」


 その問いかけにティナは気恥ずかしそうに笑う。まるで照れ隠しでもしているかのような笑顔でもあった。

 しかし、ティナは臆することなく語ってくれた。


「〈妖精王の剣〉は知っているか?」

「確か、おとぎ話に出てくる伝説の剣ですよね?」

「ああ、そうだ。正確な名前は〈オベロンの王剣〉という。私はそれを、手に入れたいと思って冒険者になった」

「伝説の剣を、ですか?」

「見てみたいんだ。どんな剣なのかを。どれほどすごいもので、どんなに綺麗な剣なのかを」


 ティナの言葉から本気が伝わってくる。

 明確な理由、動機はないかもしれない。あるとしても単なる憧れかもしれなかった。

 だけどレオンは知っている。人を動かすのは論理的な理由じゃない。力強く踏み出す感情だと言うことを。

 だからレオンは、決意した。


「俺も見てみたいです」

「えっ?」

「ティナさんが追いかける剣を、見てみたいです。だから一緒に、手に入れましょう」


 レオンはティナに顔を向ける。

 ただただ力強く笑った。

 その顔はティナにとってどう映っただろうか。

 少なくとも、懐かしむような顔はしていたようだった。


「ありがとう、レオン君」


 ティナは溢れてきた涙を拭う。レオンはその顔を見て、優しく微笑んだ。

 レオンもティナもまだ互いのことをよく知らない。だがそれでも、このひとときで互いの弱さを確認することができた。

 それは確かな歩みであり、大きな成長でもあった。


「さて、そろそろ上がるか。先に行っているよ」


 ティナは機嫌よさそうにしながら立ち上がる。タオルで隠された身体。しかし水分を吸ったタオルは、ティナの身体にピッタリと貼りついていた。

 浮かび上がる身体のラインと、仄かに膨らんだ胸。蒸気でよく見えないものの、瑞々しい白い肌に濡れた雪のような髪が、レオンの目に入ってきた。

 その姿はあまりにも美しい。そしてレオンの男心をこれでもか、とくすぐってきた。

 そしてレオンは、その刺激に負ける。


――ぶばっ。


 興奮のためか、それとも違う要因があったのか。

 何にしてもレオンはティナの姿を見て、大量の鼻血を噴き出した。


「レオン君!?」


 さらによろしくないことに、長湯していた弊害が出る。レオンはそのまま温泉の中へと沈んでいく。


「しっかりしろ。おい、レオン君っ」


 慌てるティナ。しかしその声はレオンに届くことはない。

 ただただ幸せそうな顔をして、レオンは撃沈した。


このエピソードで第1章の第1幕は終了です。


お読みいただきありがとうございます。

ブクマしてくださった方々もありがとうございます!


大変励みになっております。これからも誠心誠意、楽しみながら執筆と改善を繰り返して更新していきます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ