第0話前編 大好きなおじいちゃんとの約束〈大いなる夢〉
『ったく、またイジメられたのかレオン?』
とある村にレオンという幼い少年がいた。この国では珍しいことに、真っ赤に染まった髪をレオンは持っていた。
身体も小さいこともあり、同い年ぐらいの子供達からは格好の標的となっていた。
そんなレオンをいつも励ましてくれていたのが、実の祖父であった。
『だって、だって――』
『しょうがない奴だのぉ。ほれ、また面白い話をしてやろう』
イジメられたレオンを、祖父は慰めるように語り始める。それは若かりし頃に経験した不思議な冒険の物語だ。
『いいか、レオン。この世界には大小関係なくたくさんのダンジョンが存在する。そのダンジョンには、金銀財宝よりも貴重なお宝があるんだ』
『貴重なお宝?』
『ああ。ワシの場合は――』
祖父は何かを言いかけてやめる。何か躊躇ったかのように言葉を飲み込むと、代わりに違う話を始めた。
『レオン、それぞれのダンジョンには必ず〈絶景〉というものがあるんだ。それは忘れることができない美しいものだったり、忘れたいと願ってしまう醜くひどいものだったりもする。だからこそ、ワシはずっと忘れられないものがある』
『どんなの!?』
『この地方には珍しい〈サクラ〉が並んでいるところだったな。花びらが光り輝く中、舞い踊る光景はまさに幻想的で神秘的な美しさだった。おかげでギックリ腰も直ったし、婆さんと出会うこともできたんじゃよ』
レオンはずっと祖父の顔を見つめる。
懐かしむように語るその顔は、いつも以上に優しく楽しそうだった。普段からは考えられない穏やかな顔に、レオンはつい目を輝かせる。
『ねぇ、お爺ちゃん! どうすればお爺ちゃんが見た〈絶景〉を見られるっ?』
『うん? そうだのぉ、まずは〈冒険者〉になることかの』
『冒険者? 冒険者になれば〈絶景〉を見られるんだね!』
『ああ。だが冒険者は大変だぞ? モンスターと戦わなければならんし、それに人に疎まれることだってある。今のままだと、モンスターに食べられるぞ?』
『じゃあ、強くなる! お爺ちゃんのように、強くて優しい冒険者になる!』
その言葉は、祖父にとってどんな意味をするのか。少なくとも驚いてしまうほどの衝撃的なものであった。
『ハッハッハッ、そりゃ楽しみだ。頑張って強くなれよ!』
ポンポンと頭を叩かれる。レオンはそれに、ただ嬉しそうに笑った。