第2話 椎名サイド1 運命的な出会いを少女は待ち望んでいた
少女はふと思った、どうしてこんなにも人に気を使った生活を送って生活をしなければならないのだろうかと。
一年前の春、少女は女子高に入学した、偏差値はそれほど高くないが進学率は他に比べても良い女子高だった。この女子高で新たな人間関係を築いていきたいと思ったのだが現実は酷なものだと少女は痛感した瞬間だった。
入学して一週間もしないうちにある女子グループのパシりにされていた、そのグループは少女の人付き合いができないのを知っており救いの手をとるふりをして少女を都合のいい道具として扱っていたのだ。
ある時はパシり、またある時は財布に、どれも友達とは程遠いものだった。
けれど少女はその関係を保ちたいと思っていたのだ、この関係を無くしてしまうと少女には何も残らないからだ、残ったとしてもちっぽけな自分の惨めさだけだと思っていたのだ。
学内で初の定期テストの日が来た、少女は中学と同じようにテストを受け、中学と同じように高得点を叩き出していた、それもそのテストでの結果は学内一位だった。
みんなはそれを不快に思っている所があったらしくグループ内でのパシり以外にも色々といじめが増えていった。
食事中にわざとらしく少女の弁当を落としたり、放課後にクラスにいる女子からトイレへ連れていかれては便器の中に首を突っ込まれたりと、日に日に過激になっていく一方だった。
少女の心はもう折れかけていた、この学校を選んだのは間違いだったのだと、いや違う、他に行っても同じことが続くだけだと少女は思い、一年後には不登校になっていた。
この女子高には幸運にも不登校者のうちテストにて高得点を取ったものは進級ができるという方針があった。彼女はそれにより進級を果たし2年になっていた。
テストはこなしていたがそれ以外での彼女は自分の殻の中に閉じ籠ってただただ恐怖に怯えながらの生活を送っていたのだ。
そんな時に一通の手紙が届いてきた、学校からの招待状だった。
椎名美優様
この度、あなたに課外授業への参加をしてもらいたく、この手紙を送らせてもらいました。
授業の内容は簡単なものです、その腐れ切った根性を叩き直してやるからこの課外授業へこいや雑魚野郎!ということです。
良い返事を待っています。
それと人付き合いが苦手だからって逃げてんじゃねぇ、と申しておきます。
親愛なる臨時教師 鳴瀬 雛より
その招待状は普通のとは違っていて汚い言葉も平然と使うような招待状だった、それを見た少女は何を思ったのか行くことを決意したのだ、こんなにも汚い招待状なのにどうして行こうと決意したのだろうかと少女自信も謎に感じていた。
招待状に書いてあった日時に学校の特別実習室へと訪れた、そこの扉には華やかな感じに装飾された。
ようこそ!くそ野郎
の文字だった、こんなにも上から目線な歓迎を少女は知らない、いや、誰も知らないだろう。
そして少女はその扉を開く、中にはどんな人がいるのだろうという期待と不安でいっぱいだった、ガラガラと扉を開けたそこには熊がいた。
「く、熊?」
少女は驚きを隠せなかった、そりゃあそうだ、着ぐるみの熊がそこには立っていたのだから。
「ガォ~、食べちゃうぞぉー、なんつって」
男性はそう言った、とても力の籠ったものとは違ってゆるーい感じのガォー!だった。男性は言い終わると熊の頭をすぽっと外して教卓に戻っていった。
「こんにちは椎名さん、私は鳴瀬 雛です、あなたのおもりを任せられた臨時教師です。」
彼の目は死んでいた、人の悪い所を一心に見つめすぎたものではないかと少女は思っていたのだ。
「さて、さっそくですがあなたには学校にて普通の生活を送ってもらいたいです。」
「嫌です、無理です、ごめんなさい」
人に言われたくない3つの言葉を続けて言ったのだ。
「いやぁ~、ほんと、お前腐ってんな」
彼は急に声のトーンを一つ下げて言った。
「お前は学校が好きか、いや、好きじゃねーよな、だっていじめられてるもんな、ほんと笑えるぜ、どんだけお前がパシりに使われようが俺には関係ない、だがそれを逃げにして死ぬ事だけはやめろ、それは最低すぎるからな」
彼は少女の事なんて本当に考えていなかった、ただ自分が不快に思うものを取り除きたいだけなのだ。
「関係のない事だったら私に近づかないでくださいよ」
「そりぁ、無理な話だ、校長自ら俺に頼みに来た依頼だからな、しっかりと解決しねーといけないんだよ」
彼の言葉に偽りなどなかったように思えていた、偽りを言ったところでしょうがないとでも思っているのだろう。
「あの、それでこの招待状って何ですか?」
「その招待状ね、何となく書いてみただけで時間と場所以外には意味はないから」
「あんなに人を不快にできる招待状を私は見たことありませんよ」
「そうか、それで?」
「それでって?」
「その言葉に意味はあるのか、どうせそんな言葉もいじめっ子には関係ないさ、ただいじめたいからいじめるだけだからな」
「そ、それわ...」
「いいから俺についてこい、その腐れ切った根性を叩き直してやるからさ」
彼の目は死んでいた、だがどこか人を思う気持ちだけは忘れなかった、とその時の少女は思ったのだった。