3年前に好きでした
中学一年の終わりに、父の仕事の関係で神戸に引っ越した。
インフルエンザで寝込んでいた私は、終業式に出れず、クラスメイトに直接最後の挨拶が出来なかった。
当時、好きだった男子に終業式で告れなかったのも、今では淡い想い出。
当時人見知りの激しかった私は、男子生徒とほとんど話せなかった。
隣の席になった彼が生◯痛でお腹が痛かった私に「顔色が悪いけど、大丈夫?」と心配そうに声をかけてくれて、とても嬉しかった。
それから彼と少しずつ話すようになった。
得意な科目とか友達の話とか好きな食べ物とか兄弟の話とかよく聴く音楽とか、明日は彼に何と話しかけようか、そればかり考えていて、頭が冴えて眠れなくなったりした。
最後に彼に好きだったと告げて、返事を聞く前に走って逃げようと思っていたのに…。
三年後、東京に戻り希望の高校に転入出来た。
早く馴染めるといいけれど、友達が出来るか凄く不安。
転校して一週間は瞬く間に過ぎた。
一応話せるクラスメイトも出来たし、部活も決めた。
放課後、図書室に行こうと歩いていたら体育館が何やら騒がしい。
軽い気持ちで覗いてみると、男子バスケ部の練習を見学している女子生徒がてんこ盛り状態。
イケメン揃いの男子バスケ部(チャラ男集団)の噂は聞いていたけれど、そんなにイケメンがいっぱいいるのかしら?
好奇心で後ろから覗こうとしても全く見えない。
別に明日でもいいかと思って群れから離れたら、私の方にボールが飛んできた。
球技が苦手だから、焦ってボールを避けたら、足を軽く捻って倒れ込んでしまった。
日頃の運動不足を後悔しても、もう遅い。
お姉ちゃんと一緒の就寝前のストレッチさぼるんじゃなかった、イタタ…。
「ごめん、大丈夫?」
慌ててボールを追いかけてきた男子に声をかけられる。
「大…丈夫…じゃない…」
顔を歪めて答える。
「保健室に行こう!」
「ひゃっ」
男子バスケ部の長身イケメン君は、私を躊躇いもなく軽々とお姫様抱っこした。
恥ずかしくて思わずジタバタと暴れる。
長身イケメン君が私を見て驚いた顔をしている。
「な、夏木…梨沙に似ている。まさか、深瀬?深瀬花純?」
何故、私の名前を…?
至近距離で改めて直視すると、アレ何処で見たような?
記憶を探る。もしかして…?
呼び捨てにされる程、親しくはなかったはず?
思わず、眉間に皺を寄せてしまう。
私の知っていた中学一年の頃の彼は私とほとんど身長は変わらなかった。
可愛い顔立ちの小柄なジャ◯ーズ系の美少年だったのに、おそらく身長は20cm以上伸びている。
小顔で足が長い。
私が終業式で告れなかった柏原君なの?
「もしかして中学一年の時同じクラスだった柏原君?」
「う、うん。夏木梨沙に似てる転校生はやっぱり深瀬さんだったんだ!」
アラサーの人気女優の夏木梨沙さんに似ていると小学生の頃から言われていた。
自分で言うのも烏滸がましいが、3歳上の大学生の姉は実年齢より大人びた色っぽい美人さんなので、実姉より似ている。
保健室に行くと保健の先生は帰り支度をしていた。
「どうしたの?」
「体育館で飛んできたボールを避けようとしたら、足を捻ってしまって…」
「少し腫れてきたわね。歩ける?」
「ちょっと痛いけど歩けます」
「ごめんなさいね。先生は急ぎの用事があるから、急いで帰らせて欲しいの。ここに湿布薬があるからお願いしてもいい?」
先生は湿布薬を取り出すと柏原君に渡した。
「様子を見て痛いようなら病院に行きなさい。保健室の鍵は先生の代わりに職員室に返して頂戴」
差し出された鍵を柏原君は受けっているが、そんなに簡単に生徒に鍵を渡していいの?
「後は自分でやるから、柏原君は部活に戻って」
「足痛くない?家はどこ?一人で帰れる?」
「ダメ元で姉に車で迎えに来て貰えないか、連絡してみる」
「とりあえず、俺着替えて来るから此処で待ってて」
私の返事を聞かず、柏原君は走って体育館に戻って行った。
お姉ちゃんにメールすると、直ぐに返信があって迎えに来てくれることになった。
「本当にすみません」
「柏原君は何も悪くないよ」
迎えに来たお姉ちゃんに柏原君は謝ってくれた。
お姉ちゃんが何だかニヤニヤしている。
「花純を心配してくれてありがとう。連れて帰りますから、もう大丈夫です」
柏原君に手を振って、車に乗り込む。
「深瀬さん、また明日!」
柏原君は校門のところで、私達を見送ってくれた。
「花純、もう彼氏出来たの?」
「中学の同級生だよ!」
やっぱり誤解してたのね。
「柏原君、カッコいいじゃない?」
「別人過ぎて、誰だかわからなかった」
「そんなに変わったの?」
「うん」
ペットボトルの水を飲む。
「柏原君はバスケ部か?懐かしい」
「アレ、お姉ちゃんの高校時代の彼氏、バスケ部だったかな?」
「サッカー部よ」
お姉ちゃんがふんわり微笑む。
「スーパーに寄って、頼まれた卵を買って帰るわよ」
「はーい。薬局に寄って湿布薬も買いたい。」
お姉ちゃんも一年間だけ、二宮高校に通っていた。
お姉ちゃんの制服を貰ったから、ジャケットが大きい。
スカートはウエスト部分を折り曲げている。
家に帰ってスマホをチェックすると、柏原君からメールが届いていた。
捻った足は内出血で紫に腫れたが、歩くのに支障はない。
しばらく体育の授業は見学させてもらおう。
翌日の昼休みにクラスの違う柏原君が私の捻挫を案じてやって来た。
何ていい人なんだろう?
「深瀬さん、捻挫大丈夫?」
私の足元にひざまづき、足を触ろうとする。
ちょっと待って!これだからイケメンは油断ならない!
「触らないで!柏原君はイケメンだから、女子の足に触り慣れてるかもしれないけど、私はそうじゃない!」
長身の柏原君が、捨てられた子犬のようにシュンとする。
垂れた耳と尻尾が見えるようだ。
「心配してくれるのは有難いけれど、私は元気だから!」
「今朝、教室に寄れなくてごめん。」
「人身事故で電車遅れたのよね?」
私は学校まで、午前は休講のお姉ちゃんに車で送って貰っていた。
「柏原君、お気遣いどうもありがとうございます」
座ったまま、頭を下げる。
「次の授業の教室移動とかないの?」
「じゃ、気になるけど一旦教室に戻る。放課後また来るよ」
「いえいえ、お気になさらずに」
一応、戻って行く柏原君にひらひらと手を振る。
「深瀬さんくらい可愛いと男子バスケ部のあの柏原君でも邪険にされるのね?アッ、嫌味じゃないのよ」
茶髪の彼女の名前は何だったかな?
「あの柏原君なら、邪険にされるでしょ?」
あの柏原君って何?
私はクラスメイト達の顔を見回した。
男子バスケ部の芳しくない噂は聞いていたが、柏原君はその中でも特に評判が悪かった。
女癖が悪く、二股や三股は当たり前だとか?年上のセフレがいっぱいいるらしい?
「深瀬さん、話聞いてる?」
そばかすのある童顔のクラスメイトは岩崎さん。
「いや〜、三年の月日の流れを感じてたの」
「はぁ?」
「柏原君とは中学が一緒で、一年の時同じクラスだったの」
「神戸から転校してきたよね?」
ちょっとぽっちゃりでショートカットのクラスメイトは沢田さん。
「その前はこっちにいたから、もっと小さい時は名古屋にもいたし…」
「そうなんだ。だから2人とも親しげだったのね」
ふわふわ癖毛のクラスメイトは小川さん。
「3年前の柏原君のイメージと上手く繋がらない」
カッコいいから、柏原君がモテるのはわかる。
試合中の真剣な表情を見てみたい。
「字が綺麗でノートをまとめるのが上手だったのに。私の知っている柏原君はどこに行ってしまったのかしら?」
「あれだけイケメンだったら、何もしなくてもわらわらと化粧の上手い胸の谷間を強調したビッチが寄ってくるでしょ?」
光沢のあるシャツをはだけた柏原君がビッチと楽しく戯れる姿を、頭の中で思わず想像する。
「来る者拒まず去る者追わず、抱いた女は数知れず」
柏原君も巨乳好きなのかな?長い髪が好きそう?
「3桁突破は目前だって?」
「えーっ?3桁?」
「深瀬さん、100を12で割ったら?」
いきなり何を?
「8.333…」
「土日に1人ずつでも、1ヵ月に8人。一年と2週間で達成出来る」
「オォーッ!アッ、しかも春休みと夏休みと冬休みが入ってない」
「モデル体型のイケメンが本気出したら、3桁なんて簡単」
数が多ければいいものでもないが、誰も何も言わない。
いつの間にか、クラスの大半の女子が集まっている。
「私女だけど、柏原君モテモテで羨ましい」
正直な意見も出る。
「男バスのイケメンズは私達の数十倍の濃密な高校時代を過ごしてるのよね、チッ!」
「あ〜むかつく」
人気があるのかないのか、どっち?
私と一緒に帰るようになった沙保里ちゃんは、あまり興味無さそうな顔をしている。
「ところで、中学時代の柏原君は美少年だった?」
そこ、聞いて欲しかった♡
「うん、可愛かったよ」
「写真ないの?」
気になる?気になるよね?
「転校しちゃったから卒アルないし、他にも学校に昔のクラスメイトがいれば、私も見せて貰いたい」
「探してみるわ、どこの中学?」
「向陽」
卒アル見れたら嬉しい!
「私の従兄弟が向陽だわ。でも学年が違う」
「残念!私、浅岡先輩の卒アルもみたい」
浅岡先輩?誰?
「浅岡先輩、モデル事務所に所属してるって本当?」
「身長186cmあるから、モデル出来るよね〜」
「浅岡先輩ってどんな人?」
「男子バスケ部の副部長で、浅黒くてサッカーのロナウド似のイケメンよ!知らない?」
「そんなイケメンがこの学校にいるの?」
岩崎さんから、隠し撮りした写メを見せて貰う。
バスケ部員なのに、何故日焼けしてるの?
男子バスケ部の一番人気は、ロナウド似のミステリアスな浅岡先輩だった。
その後も何度か柏原君からメールが届いた。
昔のクラスメイトの近況を教えて貰ったり、男子バスケ部の話を聞いたり。
柏原君とは電車の路線が同じなので、朝一緒に登校することもあった。
校内ですれ違い様に、知らない女生徒から睨まれるようになった。
「柏原君、夏木梨沙のファンなんだって!」
「あ〜似てるもんね。でも実物はもっと可愛いよね〜」
聞こえるように言われても、別に慣れてしまった。
「柏原君のお手つき女子うざい」
小川さんが吐息をつく。
「睨んで来る女子生徒全員に手を出してるのかな?」
「いくら何でも、それはないでしょう?」
岩崎さんに素気無く否定される。
「睨んで来る女子って、そんなに自分に自信があるのかしら?」
今度は沢田さんが、疑問を口にする。
「単に深瀬さんを妬んでるだけじゃない?深瀬さんが転校して来なくても彼女達は、柏原君の特別な存在にはなれなかったと思うわ」
柏原君の特別な存在?私じゃありません。
「ねぇ、本当に柏原君と進展ないの?」
「ないない!」
女子は恋バナが好きだよね。
「メールのやり取りはしてるんでしょ?」
「昔のクラスメイトの近況教えて貰ったりしてるだけ」
柏原君の友達の友達を通して、小学校の時に仲の良かった美希ちゃんと連絡が取れた。
今度、2人で中華バイキングに行く予定。
「口説かれたりしないの?」
「全く」
柏原君は、どんな風に口説くのかな?
モデル系の綺麗な女子と並んで歩いてたら、立ち止まって見惚れてしまいそう?
「『可愛い』とか『一緒に遊びに行こう?』とか?」
「言われたことないよ」
「深瀬さんが鈍感なんじゃない?」
いや、そんなことは…?
「色気のないメールしか来ない」
「どんなメール?」
「『晩御飯は何食べた?』とか?」
「えっ、柏原君ってそんなメール送ってくるの?なんか意外?」
「それで何て返信したの?」
「今日の晩御飯はオムライス」
「まさか、トマトケチャップでLOVEと描いたオムライス?」
「うん、このオムライスの画像を添付して…」
「「「「「リア充爆ぜろ!」」」」」
「いや、これはお姉ちゃんが作ったオムライスだから?私はケチャップよりデミグラスソースの方が好きだし…」
「誰かこの天然娘何とかしてー」
お姉ちゃんも私もオムライスが好きだから、10日に一回は作っている。
「柏原君の家で飼っているポメラニアンが可愛いんだよ」
「そう、良かったわねー」
「ねぇねぇ、ポメラニアンの小春可愛いよ、見て見て」
犬好きの沢田さんも相手にしてくれない。
「はいはい、可愛い可愛い」
その生暖かい目は止めて!
「何ですか、これ?」
「見ての通り、米だ」
「それはわかりますが、そもそも何故男子バスケ部顧問の桐谷先生が調理実習室にいらっしゃるのですか?」
「ウチの実家で取れた米なんだが、これでおにぎりを作って部員達に食べさせてやりたいんだ」
桐谷先生の実家は農家だったんだ。
「そういうことでしたら、調理部顧問の須賀先生と藤谷部長に話を通して下さい」
「もう須賀先生には頼んである。他の部員には深瀬からもよろしく言っておいてくれ」
「何故、私が?それに男子バスケ部のマネージャーに頼めばいいのでは?」
「深瀬は柏原の彼女だろ?男子バスケ部には女子マネージャーがいないんだよ。すぐに部員と揉めて辞めるんだ」
歴代の女子マネージャーが半年以内に辞めるから、とうとう取らなくなったと柏原君が言っていたことを思い出す。
「私は柏原君の彼女じゃないですよ?」
「男子バスケ部では彼女認定されてるぞ」
「間違いです」
「照れなくていいから!余ったおにぎりは調理部員で食べていいからな」
否定しているのに、私と柏原君が噂になってるみたいだから、何とかしないとそろそろまずい。
桐谷先生も年上好きの女子生徒には結構人気があった。
桐谷先生も身長180cmの独身。
顧問の桐谷先生が甘いから、男子バスケ部の部員がチャラいと言われている。
須賀先生も桐谷先生と仲が良いのかな?
桐谷先生、男子バスケ部員の食欲舐めてませんか?
おにぎり余るのかしら?
調理部の部活は火曜日と土曜日の週に2回。
火曜日に打ち合わせをして、土曜日に実習。
食材は生物は当日分担して、近所のスーパーで購入する。
転校初日に校内を案内してくれた沙保里ちゃんが調理部だった。
部活が週に2回のみで上下関係が厳しくないので、入部させてもらった。
男子バスケ部に差し入れするおにぎりを作ることになったので、のりや梅干や鮭の切り身は部費で購入するが、各自好きな具を持参することになった。
「たらこに辛子明太子、おかか、ツナマヨ、昆布…」
「沙保里ちゃん、そんなにいっぱい作れないよ」
「ツナマヨにしようかな?深瀬さんは?」
「私は牛肉のしぐれ煮を作って、家から持って行く」
「天然娘、胃袋がっつり掴みに行くわね」
岩崎さん、牛肉のしぐれ煮は簡単に作れるんだよ。
「肉よ、肉肉肉!男子の胃袋は肉で掴め」
沢田さんが力説する。
「何それ?」
小川さんはお肉が嫌いだった。お弁当に肉類が入れられないとお母さんはさぞかし大変だろう?
「私の姉がいつも言ってる」
沢田さんのお姉さんは婚活中のOL3年目。
「参考にさせて貰うわ」
岩崎さんは弟が1人。
新しい学校にも大分慣れてきた。
土曜日の午後、ご飯を炊いてみんなでおにぎりを作った。
「出来た分だけ、深瀬さん持って行ってくれる?」
「はい。このタッパーに入れた分だけ持って行きますね」
沙保里ちゃんが見当たらなかったので、一年の子に同行を頼んだ。
藤谷部長が気を利かせて、お茶や紙皿、割り箸も用意してくれた。
部費から出してないよね?
体育館の近くまで行くと、見覚えのある女子のグループに囲まれた。
腕を強く掴まれ、人目のない場所に移動させられる。
「ちょっと可愛いからって、柏原君の回りをうろちょろしないでよ」
髪をぐいと引っ張られる。
「柏原君は私と付き合ってるのよ」
電話一本でいつでも呼び出せるセフレの1人…?
スタイルのいい、そこそこの美人をガン見してしまう!
「これ何?」
「あっ、それは?」
タッパーの入った紙袋をもぎ取られた。
「おにぎり?差し入れするつもり?」
「こんなの貰って喜ぶと思ってるの?」
意地悪く嘲笑う。
「彼女面して笑っちゃう?」
この人達が、私の話を聞いてくれると思えない。
でも、桐谷先生が持って来てくれたお米でみんなが好意で作ってくれたおにぎりが…?
「あのそれは」
「お前ら何してる?」
怒りを込めた低い声に振り向くと、柏原君だった。
「柏原君、この子が勘違いしてるから教えてあげようと思って」
勘違いなんてしてない。
リーダー格は柏原君と対峙しても怯まない。
「一体何を?」
「柏原君が好きなのは女優の夏木梨沙でしょ?スマホの壁紙、この子が転校して来る前から夏木梨沙だった」
「それがどうした?」
「夏木梨沙に似てるから柏原君に親切にされてるだけなのに、調子に乗るから悪いのよ」
「彼女が、夏木梨沙に似てるから好きなんじゃない」
「えっ?」
「夏木梨沙が彼女に似てるからファンになっただけだ」
あの…それって…?
中学一年の時、私は眼鏡をかけていたんだった。
ある時、眼鏡を外してレンズを拭いていたら、「夏木梨沙に似てるよね?」と柏原君に言われた…ような気がする。
「柏原が公衆の面前で告る日が来るとは!長生きはするもんですね、桐谷先生」
「俺はまだ27だ!深瀬悪いな!俺が男子バスケ部の取り巻きを放置したからこんな事になった。お前ら、全員罰掃除だ。佐伯手伝え」
柏原君の後を追いかけて、桐谷先生やイケメンズの1人佐伯先輩も来てくれた。
逃げようとする女子生徒達を、男子バスケ部員達が捕まえる。
足の速さでは勝てるわけがない。
「悪い子はお仕置きしないとね。柏原、俺の分のおにぎり残しといて」
佐伯先輩が嬉しそうに笑った。
柏原君は駅で私と一緒になるように時間を調整していたらしい?
「ストーカーみたいと思われたら、嫌だから言わなかった。好きでもない子と一緒に登校しないよ」
「でも、偶然一緒になったら登校しない?」
好きだと言われて嬉しい!でも、柏原君はそんな素振りを見せてくれなかったから、急に信じられない。
「告るタイミングを見計らってたし、花純ちゃんを遊びに誘わなかったのは、足を捻挫してたからだよ」
「もう治ってたけど、誘ってくれなかったよね」
私は、別に拗ねてない。
「中学一年の時のクラスメイトに声かけて、久しぶりにみんなで集まろうかって話になってて…」
「私、遊園地に行きたい!」
あっ、しまった!
「バイトしてる奴もいるから日程がなかなか決まらなかったんだ。それに…」
「それに?」
「可愛くなった花純ちゃんを本当は他の奴らに見せたくない!」
ボッ!顔が赤くなったのが、自分でもわかる。
「2人で遊園地に行こうか?」
「う」
「そんなの駄目です!」
「さっ、沙保里ちゃん」
ここ、体育館だった!
「2人で遊園地なんて危険過ぎます。また、彼女が襲われたらどうするんですか?」
「そうよ、私達も付いて行くわ!男子バスケ部の皆さんもどう?お弁当作りますよ」
私達の話筒抜けだったの?
「僕は柏原先輩の許可が頂ければ…?」
八重歯が可愛いイケメンズの1人、スーパールーキー市村君が、おにぎりを頬張りながら答える。
「俺も出来れば参加したいなぁ」
参加表明する男子がぼちぼち。
「遊園地の話は後日相談するとして、バスケ部の皆さん、おにぎりのお代わりありますから、遠慮なく食べて下さいねー」
最後は男子バスケ部の吉田部長ではなく、調理部の藤谷部長がその場を仕切っていた。
騒ぎを起こしたのは、3年女子のグループだった。
「進学諦めたのかしら?騒ぎ起こして内申に響いたらどうすんのよ」
「柏原君の自称彼女だって、怖いよね」
「ちょっと、仲間内で一緒に遊んだだけでつきまとわれて、イケメンだとモテ過ぎて変な子が寄ってくるのね」
柏原君は、彼女達の名前を知らなかった。
「実害がなかったし、もっと酷い嫌がらせされたら困るから、罰掃除で深瀬さんは手を打ったんでしょ?」
「問題起こした生徒の方を庇うってどう言う事よ」
「大体桐谷先生が甘過ぎるのよ!女子生徒にいい顔し過ぎ!」
取り巻き連中に不満を持っていた女子バスケ部部員や日頃は大人しい調理部部員も一緒になって、文句を言い始めた。
女子生徒が男子バスケ部の練習を見学していると追い払われるようになった。
二宮高校は進学校で偏差値は決して低くない。
桐谷先生は女子生徒達はうるさいだけで馬鹿なことはしないだろうと取り巻き達を放置していたが、Tシャツやジャージを着て他校の生徒も入り込むようになっていた。
校内で他校の生徒と問題を起こされたら一大事
なので、厳しく取り締まるよう話し合いが進んでいたらしい?
「柏原の元カノが振られた腹いせに悪評をばら撒いたんだよ」
「女好きとか○リ捨て野郎とか?」
岩崎さんが佐伯先輩に相槌を打つ。
「柏原は背がぐんぐん伸びて校内で目立ち始めたから、振られて悔しかったんだろうな?他の男子バスケ部員の噂も混同して、更に尾ひれがみるみるついて、最低男の出来上がり」
「「「柏原君、可哀想」」」
その酷い噂を止められなかったの?
「その元カノは新しい彼氏が出来て落ち着いて一安心したのに、また変なのに目をつけられて」
「柏原君ってイタい女子に好かれる傾向があるとか?」
したり顔で沢田さんが尋ねる。
「中途半端に優しいからね、俺と違って」
「あのですね、佐伯先輩。ここは二年の教室です」
「わかってるよ、ふうちゃん。このサンドイッチ食べたら帰るから」
佐伯先輩が購買で人気の焼きそばパンを持って来てくれた。
喜んで受け取ったかわりに、私のサンドイッチを食べられている。
女子生徒を周囲に侍らせて、ハーレムみたい?
「ふうちゃん?」
沙保里ちゃんが怪訝な顔をする。
「花純ちゃんと俺が呼ぶと柏原が怒るんだよ。深瀬でふうちゃん、可愛いからいいよね」
「きゃー柏原君に愛されてるのねー、ふうちゃん!」
みんな目がギラギラして怖い。
3年の佐伯先輩は柏原君の誤解を解くためにわざわざ私のクラスに来てくれたらしい?
チャラいけど後輩にも優しいようだ。
「このマスタードの効いた卵サンドおいしいね。遊園地に行く時作って来て」
「はい、任せて下さい」
私の代わりに調理部ではない岩崎さんが答える。
「じゃあね」
佐伯先輩は颯爽と帰って行った。
「佐伯先輩も遊園地に行くなら私も行きたい」
佐伯先輩は、受験生なのにいいのだろうか?
「調理部に私も入る」
「テニス部どうするのよ?」
佐伯先輩のせいで更に参加希望者が増えてしまった。
「ごめんね、柏原君の噂鵜呑みにして」
「沙保里ちゃんは私のこと心配してくれたんでしょう」
私が絡まれた時、沙保里ちゃんが一緒だったら側を離れず、揉めて怪我をしていたかもしれない。
「柏原君の悪い噂が消えるのにしばらく時間はかかるかもね?」
「その前に卒業しそう?」
「男子バスケ部も今の3年が引退したら、イケメンズが減るから変わるよ、きっと!」
沙保里ちゃんが励ましてくれた。
朝は柏原君と一緒に登校して、部活の日だけ一緒に帰るようにした。
それ以外は、用がなければ別行動で、むやみに校内でイチャイチャしない。
2人ともハッピーオーラ全開になっているらしい?
試験の1週間前は部活が休みになるので柏原君と2人で図書室で黙々と勉強した。
教師の間でも評判になり、私達は二宮高校校内好感度NO.1カップルと呼ばれるようになった。