これが未来の戦争像
起きてみると夕方だった。
一筋の、夏の夕日がカーテンの隙間から部屋を射す。
クーラーの送風音のうるさいのと蝉が、彼の目覚めを悪くした。
ーもうすぐ人が増え始める頃かー
取り敢えずベッドから這い出て、PCを眠りから醒ます。
ウェブページからログインしてゲームを起動する。
渕上聡太、24歳。
大学を中退してから4年が経過するが、未だに引きこもりのニートだ。
就職する気は皆無、今はひたすらにFPSでキーとクリックに打ち込む日々。
プロゲーマーになれるほどの実力は無いため、やはり時間の浪費。
今日も弱いものイジメで悦に浸るだけ。
彼にとってこの世界こそが現実だった。
あの日までは。
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班長はお怒りのようだ。
どうも、誰かがトチったらしい。
『マウスの片付けすらまともにできないとは、流石は底辺だなッ!』
あ〜あ、どうやら瀬野だったらしい。
『も、申し訳有りませんッ!!』
『次にまた俺が同じ状況を見たときはわかってるよな?』
『は、はいッ! か、改善します...』
『けっ、国もよくこんなのを使う気になったもんだ。血税の無駄遣いだな
以上でブリーフィングを終了する。解散。』
第351機械化歩兵師団、通称”ゲーム”が創設されたのは5年前の2045年のことだ。
世界は、アフリカの資源不足による戦争により第4次世界大戦に突入。
この期に乗じ中国が日本・アメリカ連合に対し戦線を布告。
狙いは世界の覇権を得ること。
開戦当初は圧倒的技術力と、その経験値によって連合が優勢だったものの、時が経つにつれて消耗戦に突入。
次第に圧倒的物量を誇る中国が勢力を増し、遂に戦力差は均衡。
連合はこの現状を打破するため徴兵を開始。
こうして俺が徴兵されたわけだ。
適正検査の結果、この”ゲーム”に配属された。
”ゲーム”の構成員はそのほぼ全員が引きこもりのゲーマーだった人間だ。
そんな引きこもりが使い物になる訳がないと思うかもしれないが、案外そうでもなかったりする。
第351機械化師団は、高性能な人型ロボットと、それを操作する生身の人間によって構成されるもので、
我々人間は、安全な基地からロボットを操作し、ロボットが戦地で戦う。
操作や画面はFPSそのもの。敢えて画面もゲームチックにしてあるのは、人間の心的ストレスを軽減するためだ。
そしてロボットが人型なのは、敵の人間の命中率を下げるためだ。
「おいゼウス、今日何killしたよ?」
”ゼウス”は俺のここでの名だ。
この師団では全員が本名ではなくハンドルネームで呼ばれる。
「12/0だから12.0」
「は〜あ、この調子じゃ今日もお前がフラグトップだな」
「伊達にFPSやってきてねぇんだよ、俺は」
「流石はLONGEST様」
「うっせぇ」
食堂に入ると大勢の人で埋め尽くされていた。
ゾンビのような歩き方の不健康体もいれば、俺のようなピザもいて、とても軍隊の食堂には見えない。
それもそのはず、この基地にいる人間はもれなく機械化師団の隊員だ。
そのため似たような境遇の者が多い。
列の後方に並び、トレーに食べ物が乗せられているのを順々に取っていく。
どれも小盛りで”如何にも”な雰囲気を醸し出してた。