表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

シオン 25冬 エピローグ3

 シオンは牢獄からの帰り道を一人歩いていた。

 スククの言葉が頭の中をがちゃがちゃと引っ掻き回す。

 何を今さら?僕は馬鹿か。叶わぬ恋だとわかっていただろう。

 あの日の思いを忘れたのか?違うだろ。思い出せ。

 陰から彼女を守る。彼女の愛するこの国を守る。

 自分の人生はあの日が宝物。あの日の思い出だけで生きてゆける。

 そう、誓ったじゃないか。

 彼女の記憶の片隅に、初恋の相手としていられるだけで十分だと。それ以上を望むなんておこがましいと。

 けれど、押し込めよう押し込めようと思っても、醜い欲望があふれてくる。彼女が欲しいと心が叫ぶ。

 自分はなんと醜いのだろう。

 いや、今はそれより考えなければならないことがある。ゼロン伯爵だ。

 シオンはテロリストの持つ武器の中に、この国の軍のものが混じっていることに気が付いていた。

 いつも、というわけではない。隣国のものも多い。けれど、時々見かけることがあるのだ。彼らの使う武器が、自分たちのものと同じであるのを。もちろん軍人から奪った可能性もある。しかし、それにしては数が多すぎる。

 そう思ったシオンは色々な手を使い、テロリストの情報を集め続けた。

 そして、ゼロン伯爵にもたどり着いた。今回のピースタワーの件が、あまりに不自然だったこともわかっていた。

 何とかしなければならないことは、前からわかっていたのだ。

 ただ、その手段が見つからなかったのだ。

 自分はただのプラスで、相手は今や次期国王。正攻法では何もできやしない。

 暗殺?いや、これじゃあ結局、また同じように特権を乱用する貴族やネクストの人間が現れるだけだ。元を正さねばならない。不平等な相互承認が根底にある以上、権威主義的な支配関係は揺らがない。悪を生み出すこのシステムを変えなければならないのだ。

 シオンはそれからあらゆる可能性を模索し続けた。あらゆるリスクを書き出し、最悪の結果を想定し、最も避けなければならない結末を考え続けた。そして、ある一つの結論に至った。それは、すべてと引き替えに、ただ一つを守る方法だった。

 一週間後、シオンはもう一度スククの元を尋ねた。今度は呼ばれたからではない。自分の意志で、上官にも秘密で向かった。

「よお、待ってたぜ。その顔、気持ちは決まったみたいだな」

 スククはまた少し瘦せていた。

「君が前に僕に言ったこと、気付いてたんだ。ゼロン伯爵が黒幕だってこともわかってた。今日は君に、最後に聞きたいことがあって来たんだ」

 シオンは自分が口にする言葉が、まるで旧来の友人に声を掛けるように優しかったことに自分でも驚いていた。

「僕が君に聞きたいのは、どうして君があそこにいたのかってことなんだ。テロリストの君が姫殿下を殺すんじゃなく、守ろうとした理由だけは、どれだけ考えてもわからなかったんだ」

 彼は不敵に笑った。

「俺は、お姫さまのことが好きだったんだ。一瞬でもいいから、直接彼女の姿を見たいと思った。それだけさ」

 そして滔々と語り出した。

 彼の物語を。彼の、すでに終わった物語を。



 革命を起こし、この国の階級制を完全に撤廃する。

 それがシオンの選んだ道だった。

 シオンは着々と準備を進めた。まずテロリストとコンタクトをとり、戦力をそろえる。作戦はシンプルに、ピースタワーのと同じく、ネクスト居住区にテロリストを招き入れるだけだ。

 武器はネクストの街にある軍の本部で調達すればいい。あらかじめプラスの街で同時多発的に、爆弾によるテロを起こしておいて戦力を分散しておく。そうすれば軍の本部を落とすのはそれほど難しくないはずだ。

 何の問題もなく準備は進んだ。

 姫殿下を救った報奨金で、資金もいくらかはあった。

 テロリストの信頼を掴むのは難しいかと思ったが、囚われている旅川スククを助けたいと言えば、七年前のことを覚えている者がいて、話はすんなりと通った。

 昔、きまぐれでした人助けがこんなところで役に立つとは夢にも思わなかった。

 少しでも味方を増やすために、ゼロン伯爵の陰謀やピースタワーでの餓死作戦など、貴族やネクストの腐敗に関するあるだけの情報をばらまいた。おかげでスククの一派以外のテロリストたちも味方につき、アドバンストやプラスの人間もいくらか取り込めた。

 軍に作戦がばれている可能性は多分にあるが、彼らは無能だ。この革命を彼らに止められる力があるはずがなかった。

 日は短くなり、気温が下がってきた。木々は葉を落とし、もうすぐ雪が降る季節になる。

 そして、その日がきた。

 何の変哲もないある日の夜遅く、革命の狼煙が上がった。

 手筈通り、まずプラスの街のあちこちで火の手があがった。これで軍本部には、役に立たないネクストあがりの軍人が残っているだけだろう。

 シオンはネクスト居住区とプラス居住区をつなぐ門を爆破し、門の警備にあたっていた者たちごと吹き飛ばした。

 心が痛まないわけではない。彼らに罪はない。ただ、未来のための礎となるのだ。

 門はびくともしていなかった。さすがに耐久力は並ではない。が、目的はあくまで警備の排除だ。シオンは残り少なくなった軍人を淡々と殺し、制御室にたどり着くと、パネルを操作して門を開けた。

 続々とテロリストたちがネクスト居住区へと入ってくる。そして殺戮を始める。

 仕方ない。これが今までしてきたことのツケなのだ。

 シオンは車に乗り込み、王宮へと向かった。

 塀を爆破し、裏手から庭へと入る。窓ガラスを割って、中へと侵入した。

 途中、何人か軍人やメイドや執事に見つかったが全員撃ち殺した。

 仕方ない。姫殿下を守るためなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ