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スクク 25夏 Reunion

「久しぶりだな、覚えてるか?」

 スククは七年ぶりに出会った少年、いや青年にそう声をかけた。彼は身長が伸び、体つきもしっかりしていたが、その賢そうな顔つきは変わっていなかった。

「ああ、覚えてる」

 彼はそう言ったものの銃を構えたままだ。可愛げがないところも変わっていない。

「お前、軍に入ったんだな」

「君は、まだテロリストだったんだね」

 まだ、という言葉に彼はどんな意味を込めたのだろう。

「いや、今じゃ出世してテロリストのリーダーだぜ」

「そうかい。残念だよ。それなら僕は、君を殺さなきゃならない」

 まったく残念そうには見えない。彼は感情の起伏があまりないほうなのだろうか。

「昔は助けてくれたのに?」

「今は立場があるからね」

「はは。お前、変わっちまったな」

 スククは乾いた笑い声を上げた。

「まあ、今はゆっくり話してる場合じゃないんじゃないか?」

「軍人は他にもたくさんいるからね。僕一人くらい増えたって変わらない。それより、君から少しでも情報を引き出して、次の一手に備える。それは僕にしかできないことだよ」

 彼の瞳は、こちらを見つめる銃口と同じ、冷たい黒色をしていた。

 さっきから下では銃声が聞こえている。彼の耳にもそれは届いているはずだ。

「先に言っとくけど、このテロは俺たちの仕業じゃない。俺は俺の個人的な事情でここにいる。だからお前が聞きたいことには応えられないかもしれない」

「その言葉を信じるかどうかは後にするよ。ともかく僕たちは脱出経路を確保しなければならない。それは君も同じだろ?」

 スククは彼との会話がなんだか可笑しかった。こんなに楽しいのなら七年前にもっと話しておけばよかった。

「潰されてる出口は裏のステージ側の出口と、正面玄関だろ。他の出入り口はないのか?」

「ないね。あったらここで君とお喋りなんかしていないさ」

 彼はようやくここで銃を降ろした。少しは信頼してもらえたのだろうか。

「なるほど、たしかにな」

「だから知恵を貸してくれって言ってるんだ」

「知恵だったらお前のがあるんじゃないか?軍人さまってのはエリートしかなれないんだろ?」

 プラスから軍人になるのは学歴はもちろんのこと、色々なチェック事項があるらしい。クーデタでも起こされたら困るからだ。

「無駄口はいいから。まず敵の目的は何か。どうして爆発が二回に分けて起こったのか。これ以降爆発は起こるのか。わかるかい?」

「二回にわけた理由はわかんねえからとりあえず置いといて、爆発の目的は出入り口を潰すことだろ?つまり逃げ道を潰したかったってことだ。なら逃げ道を潰した後、つまり今から何かするんじゃないのか」

 確かに出入り口を潰すのが目的なら、爆発は一度にまとめて起こせばいい。そこは引っかかるところだ。

「だとしたら、爆発はもう起こらない。時間的な猶予は多少あるのか?」

「それはどうかな。入口をこじ開けようにも戦車でもなきゃ厳しいだろ、あれじゃあ」

 スククはがれきの山に目をやった。

「敵さんにも時間はあるってことだ。さっきから聞こえてるだろ?銃声が」

「逃げ道がなく、応援も来ることのないタワー内部で銃撃戦。姫殿下の暗殺作戦としては少し違和感がないか?」

「大がかりなことやってる割には手際が悪いな。姫を殺すだけならもっと楽な方法がありそうなもんだ。そもそもタワーに侵入するだけでも大変なのにどうやって大勢で侵入したんだろうな」

「そもそも、君はどうやって侵入したんだい?」

 スククは前日の警備が手薄なうちに隙を見てダクトから侵入し、一晩中トイレやら用具入れやらに隠れ、警備員をやり過ごしていたのだ。その間、ちょろちょろとタワー内を見ていたが、怪しい人物はいなかった。ということは、侵入は爆発の直前か。

「いや、まあ俺は色々やったからな。じゃあ侵入経路もとりあえず置いとくか。まあでも敵さんの狙いは姫の暗殺だけじゃないのかもしれないな。他の狙いとしてありそうなのは」

「ピースタワーの破壊と、他の貴族たちの殺害、がありそうなところかな」

「ああ。そのくらいしか考えられないだろ。だけどやっぱりわかんねえな。どうしてタワー内部に閉じ込めて銃で一人一人殺してるんだ?」

「この作戦、タワー内部の軍人が少ないことがポイントなのかもしれない」

「え?」

「今回、タワー内部にはあまり多くの軍人が配備されていないんだ。配置しようと思えばいくらでも、それこそタワー内部を埋め尽くすくらいだって揃えられるのに。そうしなかった理由は、入場する人間の数を減らした方が相対的に安全だと考えたからだ。軍人の中に裏切り者がいる可能性。ボディーチェックと本人確認で入場は厳しく監視されている点。平和を祈る式典であまり露骨にテロを意識した警戒態勢を行うことを嫌った、ということもあるのかもしれない、そういういくつもの傲りと慢心がこの警備にあることを、テロリストは知っていたんだ。外部に多数の警備を配置し、内部の警備の人数は極力減らしていたという内情を知ることができたのは」

 スククは彼の出した結論を聞きたいところだったが、仕方なく引き金を引いた。敵がこちらへ銃を構えていたのだ。

 銃声で彼の言葉は遮られてしまった。スククの撃った弾は一つ上の階にいた敵に見事に命中した。

「おい、ちょっとお喋りし過ぎたみたいだぜ」

「そうだな、推理は後だ。出口が塞がれた以上、姫殿下たちは屋上をめざして階段を上っていくはずだ。ということは上の階でテロリストが待ち伏せしてる可能性が高いね」

 彼も銃を構えなおし、周囲に意識を向け始めた。

「エレベーターは使わないのか?」

「僕がテロリストだったらエレベーターは全部壊しておくか、わざと一台だけ残しておいて爆弾を仕掛けたり、屋上で降りてきたところを集中砲火したりするかな」

「なるほどな。じゃあ俺たちは、上で姫を待ち伏せてる奴らを片づけに行くか?ん、でもそれなら階段も爆弾で破壊しとくんじゃないか?」

「あ、それもそうか」

「はは。まあそうしないってことは何か理由があんのかもな。たとえば屋上でヘリか何かで迎えが来るから自分たちの逃げ道として残しとかなきゃいけない、とか」

「たしかに。それはあるかもね」

「まあ、ともかくここからは考えるより行動だな。屋上まで行けばわかるだろ」

「よし、行くぞ。援護しろよ」

「え?お前が援護しろよ」

 スククとシオンは代わる代わる敵を撃ち殺しながら最上階をめざして階段を駆け上がった。


 スククは彼の軍人としての能力の高さにただただ驚いた。スククは幼い頃から、それも他の子どもたちが遊んでいるころから銃を使っていた。

 なのに、彼はその自分に引けを取らないほどの戦闘能力を持っていた。

 手榴弾や閃光弾などを巧みに組み合わせた戦術。片方を囮に使った陽動作戦。

 敵の隙をつく卑怯な策略といえるかもしれないが、そんなものは死んでしまったら何の言い訳にもなりはしない。彼は敵を殺すという目的を果たすために、最小限のリスクで最大限の効果を上げていた。それは自己犠牲を繰り返し、何の価値があるかもわからない小さな一歩を刻み続けるテロリストをあざ笑うかのように鮮やかな手技だった。

 もちろん銃の腕ならまだ一回りほどスククの方が上だろう。正々堂々一対一で殺し合いをしたら負けはしない。けれど、自分が暗殺する側で彼がそれを防ぐ側だったとしたら、もし彼が事前に策をめぐらし敵を迎え撃つ準備をしていたのなら、彼は勝てないかもしれない。スククはそう思わざるを得なかった。

 屋上の天空庭園に潜む敵をすべて殺し終えるころには、スククは素直に彼の才能に畏怖と嫉妬を感じずにはいられなかった。

「よし、終わったね。フィルリア姫を迎えに行こうか」

「あ、ああ。そうだな」

 誰かが階段を上がってくる音がした。彼もそれに気が付いたらしい。二人はすぐに出入り口付近で銃を構えた。

 扉が開き、何者かが現れた。二人は引き金にかけた指に力を込める。

 けれど、そこから現れたのはテロリストではなかった。

 純白のドレスに身を包んだ、フィルリアがそこにはいた。

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