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スクク 25冬 Lost man

 暗い監獄に、誰かの足音が聞こえる。その足音は何かに怯えるようだった。

 次の瞬間には、今自分が立っている場所が崩れ落ちるのではないか?そんな不安が伝わってくるようだった。

 しかしスククの予想とは裏腹に、シオンの顔はどこか穏やかだった。

「よお、待ってたぜ。その顔、気持ちは決まったみたいだな」

「君が前に僕に言ったこと、僕は気付いてたんだ。ゼロン伯爵が黒幕だってことも、わかってた。今日は君に、最後に聞きたいことがあって来たんだ。僕が君に聞きたいのは、どうして君があそこにいたのかってことなんだ。テロリストの君が姫を殺すんじゃなく、守ろうとした理由だけは、どれだけ考えてもわからなかったんだ」

 スククは彼の希望通り、語ってみせた。

 七年前に、自分が姫を殺そうとしたことを。そのとき何を思ったかを。

 今日まで階級制を壊すために戦ってきたことを。

 そして、誰かがこの国を壊さなければならないことを。

「国を壊すのは、僕がやるよ。君はここで待っていればいい。全部終わったら迎えに来るから」

 シオンは無表情でそう言って、去っていった。

 聡明な彼が、自分の話を聞いてなぜそんな結論に達したのか、スククにはわからなかった。

 いや、もっと前から彼の気持ちは決まっていたのかもしれない。だとしたら、自分の物語は何の意味もなかったのかもしれない。そんなことはあまり考えたくなかったが、スククはそう思わずにはいられなかった。



「お待たせ」

 外が騒がしくなって、それが収まって、それから幾何かの時間が経ち、シオンは再び現れた。彼の目は虚ろで、いつにも増して何を考えているのかよくわからない。

「お前、お姫さまはどうしたんだ?」

「彼女は死んだよ」

 檻の戸が開き、シオンが中へ入ってくる。

「死んだ?どうして?失敗したのか?」

「わからないんだ。だから君に聞こうと思って。彼女はどうして死んでしまったんだ?」

 淡々と話すシオンに、スククはどこか恐怖を感じた。

「ま、まてよ。自殺したってことか?」

「うん、そう。よくわかったね」

「だって。それは」

 俺の思い描いた通りのシナリオだから。

 スククは素早くシオンの腰の銃を奪い取り、彼の胸に銃口を押し当てた。

 シオンをまったく抵抗しなかった。それどころか驚いた素振りも見せない。

「大丈夫だ。お前のしたことは何の間違いもない。この国はより良くなる。みんなが幸せになる。でも、それは残念ながらお姫さまが幸せになる未来じゃなかったんだよ」

 スククは引き金を引いた。弾丸はシオンの身体を貫いた。

 荒い息を吐いて横たわる彼に、スククは話しかけた。

「お前は自分の理性を過信してたんだよ。そもそも罪深く、欲深い人間が、理性的に行動するわけがない。そもそも理性の意味とはなんだと思う?物事の道理をわきまえて、最善を考えること?いいや違う。理性という言葉は人間がつくりだしたものだ。つまり、理性は醜い人間の本性のうちにあるものだ。人は、人本来の業から逃れることができない。お前は自分の理性を過信し、自分の力で姫を救えると思い込んだ。傲慢になった。最初から、そんなことできるはずがなかったのに」

 そうだ。人は理性だけでは生きていけない。お前はひどく理性的だったが、そんなのは嘘だ。人はもっと醜いものだ。

「本当の悲劇とは、単なる偶然が生み出すものじゃない。人が人であるために、避けられない結末。人間の業が導く必然。逃れることのできない終焉。それこそが悲劇だよ」

 だとしたらこれは俺の仕組んだ結末じゃない。これは、なるべくしてなったことだ。俺の手柄じゃない。

「お前は本当に彼女を愛していた。お前は誰よりも誠実だった。だからこそ選んだんだろ。彼女を自分の欲望のままに連れ出すことなんてできなかった。けれど、このままではテロリストか、もしくはゼロンによって彼女が殺されてしまう。だから、彼女を守るために仕方なくテロリストと手を組んで全部をぶっ壊した」

 お前も、俺と一緒だ。お前も彼女を愛していただけだ。

「でも、それであのお姫さまが救えるわけじゃないんだ。彼女は救われないんだよ、この国の姫として生まれた以上、救われることはないんだよ」

 自分がテロリストに生まれてしまったことが、どうしようもないことのように。

 幸せになりたくてもなれない。美しく生きたくても生きられない。

 スククはもう一度引き金を引いた。

 牢獄を出て、荒れ果てたネクストの街を歩くスククは、笑いが止まらなかった。

 今ようやくわかった。

 この荒れ果てた国と、フィルリア姫の死。

 本当は、この結末を待っていたのだと。

 この世で唯一、本当に欲しいと願うもの。

 でも、それは絶対に手に入らないもの。

 隣の家のバラ。ショーウィンドウのなかのトランペット。海中深く沈む宝船。空に浮かぶ月。

 どうしても手に入らないというなら、消えてしまえばいい。あの眩しい光を塗りつぶしたい。そう思うのが、人情ってもんだろう。

 欠けた月だけが、一人笑う彼を見守っていた。



                                            終わり


ここまでお付き合いいただいた皆さん、本当にありがとうございます。

無事完結しました。

ロミオとジュリエットのような物語が書きたかったのですが、上手く書けていたでしょうか。


他にも書いているのでよかったら読んでください。

本当にありがとうございました。

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