8章 仲間勧誘
私達は、サレット達の家へ入った。
木で作られた机、椅子などが置いてありとても綺麗だ。
昔、遊びに来たことがあるのだが、あの頃より家具が増えている、そう思った。
ムヨルは、手先が器用だ。
家にある家具は、全て彼が作った。
サレットは、物が完成すると私とラットを呼び、まるで自分が作ったかのように自慢していた。
懐かしいな。
私は、そんな気持ちをフワフワと持ちながら空いている席に座った。
ラスタ達は、ムヨルに渡された水の入ったコップを持ちながら座っている。
「アリュウさん、どうぞ。」
ムヨルが顔を赤くさせながら渡してくれた。
井戸で水をわざわざ汲みに入ってくれたのだろう。
「悪いな、ムヨル。」
「いえ、とんでもないです。」
ムヨルは、何故か慌てていた。
体調が良くないんだろうか。
「はぁ、アリュウちゃん。」
ヤラールが水を飲みながら私をじっと見ている。
「何だ?」
「何でもないよ。」
彼は、私の前で大きなあくびをした。
興味がないなら何も言わないで欲しい。
サレットの強い愛に怯んでいたラスタは、今にも眠りそうなヤラールの背中を強く叩いた。
赤髪の男の瞳からは、涙が流れている。
あくびのせいか、痛みのせいかは、私には分からない。
ラスタは、話し出す。
「下民狩りは、間違っている。だが、間違っていることを一人で止めるには、あまりにも敵の力が強大だ。だから、二人の力を貸して欲しい。サレットさん、ムヨル君、どうかお願いします。」
ラスタの誠意が伝わったのだろう。
サレットは、頬を赤くさせながら何回も手を挙げている。
「私でよければ行きます! ラスタ様と一緒に戦います!」
だが、ムヨルは、一人気難しい表情をしていた。
そんな弟を置き去りにして、姉であるサレットは、ラスタの白い手を取り微笑んでいる。
そろそろだな。
私がそう思うのとムヨルが大きな声を出したのは、同じだった。
「姉さん! いい加減にして下さい! もう一度よく考えてみて下さい!ラスタさんと共に行ってしまった場合、下町は誰が守るのです? アリュウさんも来てくれたのですから、この場は三人で守り、王と戦える者達が集まり次第、合流すべきです。」
確かにムヨルの言う通りだ。
私が残ること以外は。
アリュウは、彼が差し出してくれた水を一気に飲み干し、自分の気持ちを伝えた。
「私は、彼らと共に行く。だから、下町は守れない。ムヨルが言ってくれたように、二人には、後から合流して貰う。お前達がいるなら下町は大丈夫だろう。」
その言葉にサレットは、顔色が悪くなり口をパクパクさせている。
全ての感情が顔に出る私の親友は、とても分かりやすい。
ムヨルは、昔からあまり感情表現が豊かではないが、今にも泣きそうな目でこちらを見ている。
いけないことを言ってしまったのだろうか。
「はぁ。」
後ろからヤラールのため息が聞こえる。
私は、彼を睨んだのだが気にして貰えずヤラールは、そのまま親友達の肩を叩いていた。
「アリュウちゃんが言ったように、二人は後から合流すればいいよ。ダール国と戦えるぐらいの戦力が集まったらまた会おう。」
その言葉にサレットは、嫌そうな顔をしていたがラスタが自分を見つめているのが分かると頬を赤くさせてご機嫌になった。
全てがどうでもよくなった表情だ。
「分かったわ! ラスタ様と一緒に行けないのは辛いけど、仕方がない!私達の役目は、下町にいるみんなを守ることだもの。」
ラスタの手を取り、うっとりとしているサレット。
ラスタは、泣きそうな顔で私とヤラールを見ているがここは、頑張ってほしい。
彼がサレットのエネルギーになっているのだから。
すると、ヤラールが私の肩をトントンと叩いた。
「どうした?」
後ろを向くと、彼は、ヒソヒソと話し始めたのだ。
「ムヨル君としっかり話をした方がいいよ。鈍感なアリュウちゃん。」
意地悪な表情を浮かべている。
鈍感って、どういう意味だ。
しかし、ムヨルが何故あんな表情をしたのか気になる。
私は、ヤラールを睨みながらムヨルのところへ向かった。
彼は、ドアの隙間から外を見ていた。
その横顔は、とても寂しそうだった。
「ムヨル、何かあったのか?」
私が話しかけると、彼は顔を赤くさせて慌てているように見えた。
そして、深呼吸を何度もして気持ちを静めている。
4回目の深呼吸が終わったと同時に私をじっと見て彼は言ったのだ。
「久しぶりに手合わせをお願いします。 」