5章 明かされる真実
「僕は幼い頃、闇破刀をシェイドさんに見せて貰ったんだ。」
「これは父が持っていた。見間違いじゃないのか?」
ラスタは、私の問いに強く首を振って否定したのだ。
「いや、忘れるはずがない。闇破刀だとすぐに分かったよ。」
もし、この話が本当なら私の父とシェイドは知り合いということになる。
だが、王族と親しい関係にあったなんて聞いていない。
私が考えているとラスタが思い出したようにあることを話したのだ。
「先程、君のお父さんとシェイドさんは、旧友だったとヤラールが言っていた。恐らく、シェイドさんが亡くなる前に君のお父さんに預けていたのだろう。大切な刀だからこそ娘であるアリュウに託したと考えた方が自然じゃないかな。」
闇破刀がそんな経緯で手元にあるなんて知らなかった。
私は、その時ふと疑問に思ったことをラスタに尋ねた。
「シェイドは、今、どこにいるんだ?」
ラスタの顔色が悪くなっていくのが分かった。
聞いてはいけないことだったようだ。
先程まで闇破刀を見ていたヤラールが慌ててこちらへやって来た。
闇破刀を持っていないところを見ると、どうやら、ラット達に渡したのだろう。
兄妹が目を輝かせて闇破刀を見ている。
「何の話ですか?子守りをするのは飽きました。俺もこっちに混ぜて下さい。」
ヤラールは、いきなり目の前で大きな音を立て座ったのだ。
そんな彼を見て私とラスタも緊迫した状況の中、腰を下ろしたのだった。
「何故ラスタさんが、難しい顔をしているんですか?」
「私がシェイドの居場所を聞いたからだ。」
ヤラールは、私の答えを鼻で笑っている。
いまいちこの男のことが分からない。
「俺から説明するよ。シェイドさんのことも、闇破刀のことも。」
私は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
これで、大方のことが分かるかもしれない、そう思ったのだ。
「まずは、彼の説明をしないとな。シェイドさんは、いや、シェイド様は、ダール国王のルベーノ・アリーフの兄であらされるお方だ。そして、もういいかな。ラスタさん、いや、ラスタ様、もうアリュウちゃんは、俺達の仲間になるんだ。話してもいいんじゃないですかね? この先、嘘を貫き通すなんて無謀な話ですよ。」
私が困惑していると、ラスタが頭を下げた。
そして顔をこちらに向けてゆっくり話し出したのだ。
「身分を偽っていたことを謝る。僕は、ダール国王の息子、ルベーノ・ラスタ。シェイドさんは、叔父なんだ。」
私の目の前にいるのは、ダール国の王子。
ただならぬオーラにようやく納得出来た。
「大変なご無礼をお許し下さい。」
私は、ラスタ様に深く頭を下げた。
王に仕える忠実な兵士のように。
「やっぱりこうなるか。」
ヤラールは、呆れたように私を見ている。
だが、この姿勢を崩せる程の勇気はなかった。
「やはり身分の高さは人の心を遠ざける。話すべきではなかったか。」
ラスタ様があまりにも悲しい表情をしているため、私は思わずある案を口にしていた。
「今ままで通りの関係を望むなら、敬語は使いません。最初からそのような話し方だったわけではありませんから。」
彼の瞳に光が宿った。
空のように青く凛々しく美しい。
「嬉しいよ。ありがとう、アリュウ。」
気付けば私の手を取り子供のように無邪気に笑っている。
王であることを忘れてしまいそうになった。
すると、ヤラールが手をパンッ!と叩き話を戻した。
頬が赤くなっている私をニヤニヤと見つめながら。
ヤラールが小さな声で囁いたのだ。
「ラスタ様、格好いいよね。惚れた?」
「は?」
私は、目の前で不気味に笑う男に言われますます顔が赤くなった。
「何を言ってい……!」
ヤラールは、そんな反論など耳にせず話始めたのだ。
「要するに、闇破刀は元々ラスタ様の叔父であるシェイド様が持っていたけれど、何らかの理由によってアリュウちゃんのお父さんに受け継がれた。シェイド様は、弟のアリーフ王と意見対立をしていてね、民が住みやすい国にしたいシェイド様と人間に価値が見えないために人工知能を導入しようと考えたアリーフ様の話し合いは決裂し、アリーフ様はシェイド様をダール国城の地下に幽閉したんだ。そして自分が王になった。おかげでパルミアは人間が住みにくい世界になった。今は下民だけが苦労しているように見えているが人工知能が出来れば上民も不要だと言い出すだろう。」
「何故、シェイドは戦わなかったんだ?」
疑問に思ったのだ。
私の父は一切戦いはしなかったが、立ち振舞いから絶対に敵わないと確信していた。
きっと、ラスタ様の叔父も相当な刀士だったはずだ。
「シェイド様も、君と同じ考えを持つ人だったのだ。決して戦うことはせず、話し合いで解決しようと考えるお方だった。彼は、優しすぎたんだ。」
ラスタ様の顔色がどんどん悪くなっている。
ヤラールは、そんな彼を見て「よいっしょ。」と、立ち上がった。
「どうした?」
私が赤髪の男を呼ぶと、不気味な笑みを浮かべた彼の瞳が赤く染まったのだ。
「俺達は、先に進むしかありません。そうでしょう、ラスタ様。シェイド様のためにも。」
「そうだな、ヤラール。その通りだ。」
ラスタ様は、彼の言葉に深く頷き私を見た。
君も着いてきてくれるか?
青く美しい瞳がそう訴えているように見えた。
「アリュウ……。」
いつの間にか、ラットとユノンが傍に来ていた。
今から伝える言葉によって、二人に迷惑をかけてしまうだろう。
だが、私の気持ちは変わらなかった。
「彼らと共に行きたい。すまないが母のことを頼んでもいいだろうか。」
私は、ラットに深く頭を下げた。
友は、一体どんな表情をしているのだろうか。
すると、地面に水が落ちたような小さな影が出来たのだ。
涙なのか?まさか泣いているのか?
心配になってアリュウが顔を上げると、昔と何も変わらない優しいラットがそこにいるだけだった。
瞳からは涙は流れていなかった。
逞しい彼の手が私の頬を撫でる。
「お母さんのことは、僕達に任せて。」
「私も守るよ!」
ユノンはラットの手を握り微笑んでいる。
嬉しかった。
「ありがとう!ラット、ユノン!」
「アリュウ、ほら、早く行って。」
笑いながら背中を押してくれるラットに私は笑顔で手を振った。
そして、ラスタがいる方へ走り出したのだ。
その時だった。
痛い程に強い視線を感じたのは。
また、ヤラールなのか?
そう思って彼を見たが、赤髪の男は口笛を吹きながら少しずつ歩き始めている。
違う。
ヤラールが放った殺気ではない。
これは、憎悪だ。
そして、その視線が、ラットからラスタへ向けられていることに気付いた。
何だ?
二人の間に何が起きているんだ?
「アリュウちゃん! ラスタさん、先に下町に向かってるよ!」
「あぁ、すぐに行く。」
私は友への感謝と不安な気持ちを胸にヤラールの声がする方へ、駆け出したのだ。
アリュウ目線で物語は、大体が進行しますがこの回、続きにも出てくる可能性があるのですが、アリュウからでは分からない世界が存在する場合があります。
その点につきましては、どういうことなのだろうと話を待って頂ければ幸いです。
↓ネタバレ(読まなくても物語に支障ありません。)
闇破刀は、シェイド→レイヤル→アリュウへ想いが繋がっている刀であり、強い力は持っていません。
全てアリュウが持っている力です。
そして、そのことは仲間が持っている武器にも言えることであり、この物語では剣や弓や槍や刀などの武器に力が備わっているのではなく、使い手の誰かを守りたい想いが強大な力となっています。
闇破刀所持アリュウ=強い
ではなく、アリュウ=強大
闇破刀=父親の形見(想い)
と、思って頂けるとありがたいです。
後々、この内容に関して修正しますので宜しくお願いします。