4章 影 ラスタとの勝負
「戦う必要があるだろうか?」
私は、ラスタから一歩下がった。
だが、彼は引き下がらなかった。
「君と戦いたいんだ。」
ラスタの瞳は、恍惚と輝いていた。
私は、そんな彼を止めることは出来なかった。
鞘から闇破刀を抜きラスタの前で構えた。
彼も、剣を構える。
「君は、アリュウちゃんが戦っているところを見たことがあるのかい?」
ヤラールは、妹を抱き締めているラットを見ていた。
話しかけられた彼は、嫌悪感を露にしてヤラールを睨んだが諦めたようだ。
「何度か助けて貰ったことがある。でも、アリュウは刀を使って人とは戦わない。」
私は、ラットの視線を強く感じていた。
深く深呼吸をする。
その時、一筋の涙が流れた。(誰かの光源)
『アリュウ、刀は人を傷付けるものではないんだ。』
『じゃあ、刀は何のためにあるの?』
ルベリーと呼ばれる、上町と下町を見晴らせる自然溢れる場所でアリュウは、父シェイドと青空を眺めていた。
ここに来る者は、大抵下を見て一番高い場所に自分がいることに高揚するのだが父は違った。
いつも草原に寝転がり空を見上げていた。
上町に住むダール国の兵士達が欲しがる闇破刀をその場に放り投げて。
『アリュウ、大切なことは自分の意見をしっかり相手に伝えることだ。最初から理解されないだろうと諦めてはいけない。』
『でも、私、ダール国の兵士や王様のこと大嫌い!下町に住んでいる人達のこと人間だと思ってない!価値があるかないかで人を判断するような奴らと話なんてしたくないよ!』
『それでも、自分の意見を主張しなければならない。心が折れることもあるだろう。そんな時、お前をこの刀が支えてくれる。』
『相手を倒すのね、私みんなが幸せに暮らせるならやる!私、殺』
『違う。闇破刀は、負の感情に傾く心を抑制するために創られた人間の武器だ。又の名を決意刀と呼ぶ。アリュウ、一歩ずつ前に自分の思うままに進んでみなさい。』
(光源終了)
「お前の期待に応えられず申し訳ない。私は、戦いたくないんだ。」
アリュウは、刀をその場に放り投げた。
ラスタは、途方に暮れている。
そして、剣を鞘にしまうとため息を吐いたのだ。
「すごいよ、やっぱり君は、すごい。あの頃から何も変わっていない。」
「あの頃……から?」
「いや、いいんだ、覚えていなくて。」
私は、彼がいつのことを言っているのか気になった。
だが、心を閉ざしているようでこれ以上尋ねることは出来なかった。
父から授かった闇破刀が地面に落ちて泣いているように見える。
急いで私は刀を拾い、鞘へ納めた。
「アリュウ!」
ラットが、息を切らして走ってくる。
「大丈夫?」
「心配ないよ。何ともない。」
「良かった。」
ラットは、床に崩れ落ちてしまった。
妹のユノンも、微笑みながら私を見てくれている。
「アリュウちゃんが、何故、ラスタ様のお墨付きの素晴らしい人なのか、今やっと分かりましたよ。」
「素晴らしい人?そんな人いるのか?」
「まあまあ、ねぇ、その刀誰から貰ったんだい?」
「これは……父さんから貰った。」
その言葉にラスタとヤラールの動きが止まった。
「アリュウちゃんのお父さんの名前って、ルベーノ・シェイドさん?」
気付くと至近距離にヤラールが迫っていた。
焦っているように見える。
だが、残念ながら彼が話した人物ではない。
何故なら『ルベーノ』と名のつく者は、王族しか存在していないからだ。
「シェイドさんに子供がいたなんて、聞いてないぞ!」
ラスタは、私の腕を掴み目を潤ませてこちらを見ている。
「誤解を解きたい。私の父は、ミーヤ・レイラルだ。」
そう伝えるとヤラールは、目を閉じ何かを考え始めた。
そして、ある結論が口から飛び出したのである。
「シェイドさんの旧友だね!」
いきなり大きな声で話したので驚いた。
「レイヤルさんも相当な刀士だったと聞いているよ。そして素晴らしい人格者だったことも。戦うことをシェイドさん同様毛嫌いしていたってね。そうか、だから娘のアリュウちゃんに闇破刀を託したのか。」
ヤラールは、私の鞘から闇破刀を勝手に抜き出し涙を流している。
忙しい男だ。
すると、ラスタが何やら険しい表情で聞いてきたのだ。
「君のお父さんから闇破刀を譲り受けた経緯を教えて貰わなかった?」
高価な刀だと私は今、知ったのだ。
「知るわけがないだろう。今では闇破刀は私の相棒のような存在なんだ。どんな経緯で譲り受けた刀であっても私の気持ちは変わらない、この刀は絶対に使わないと決めている。」
「そうか、『戦わない刀』か。確かにその通りだ。シェイドさんも同じことを話していた。よし、今から闇破刀について僕が知っていることを話そう。それは君のためになるはずだ。」
謎の女「父シェイドの意思を受け継いだあなたなら、きっとあの記憶を思い出すことで心が満たされると思ったの。だから涙に流してみた。違っていたらごめんなさい。」