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迷い子の猫たち②

シリアス?な会話回です。

…タグ付けしてないけど、大丈夫ですよね?


それと、総PV2000up & ユニーク500up 有り難うございます!

いつの間にやら、こんなに見てくれた人が居たのかと驚きました!

 無責任にも聞こえる言葉を呟いた俺に、子供たちは困惑した顔で見合い、ほんの少しだけ警戒心が薄まっていた。


「おじさん…わたしたち、を、こわいひとのところに、つれていかないの?」


「…お、じ…さん?」


 姉の子に何か問われたが、その前に言われた言葉にショックを受けた俺には、何も聞こえて無かった。


(俺は、まだ22歳だ…大丈夫。…ハハハ…そうだ、おじさんな訳ないじゃないか!)


「…ね、ねぇ? おじさ――」


「おじさんちゃうわっ!! まま、まだ22歳だし!?」


「「ヒッ!!」」


 再び呼ばれそうになった俺は、声を張り上げ取り乱した。

 そして、そんな俺を見て子供たちは、短い悲鳴を上げ抱き合って怯えを、ぶり返してしまっていた。


「くっ…怒鳴って悪かった。 ただ、おじさんは、止めてくれ…。」


「は、はい…ごめんなさい。だから、ぶたないで、ください!」

「…おねぇちゃん…。」


 俺のせいで、一歩進んで三歩戻った状況だが、しかし譲れない思いもあるのを分かって欲しい。

 え?女々しい?…馬鹿言っちゃいけない、歳がひと回りは違うと言っても、認める事が出来ない事もあるんだよ。

 だって…中学卒業から料理修行に出て、色恋沙汰なんてしてる暇なんか無かったんだ。

 そしたら、どうなるか……この先は、言わずとも理解出来るだろう?


 閑話休題(それはそれとして)


 俺は、心を落ち着かせるように細く長い息を吐き、怯える子供たちに向き直った。


「お、おにいさん…わたしたち、なんでもします、から…だから、こわいひとのところには…」


「あ、ああ…まずは、ここの掃除しないとな。」


「っ! よ、よごして、ごめんなさい! きれいに、しますから、おこらないで…ください!」


 この子たちは、俺の言葉や仕草に常に怯えた反応をして、俺の機嫌を損ねない様にと慣れない話し方をしている。

 …俺も、大声でツッコミをしてしまったのも、要因の一つかも知れないが。

 だから、二人にとって俺は、酷い事をする悪い大人の一人に見られているんだろうな。


(はぁ…実際、どうするか考えないとな。)


 この世界だと、警備兵に引き渡すのと奴隷商に渡すのは大差無い。

 殴る蹴るをストレス発散のようにしてから元の場所に棄てられるか、売られるかの二択だから。

 ならば、孤児院を併設した教会にと思うだろうが、それも下策で変態幼児愛好者の慰み物にされてから、結局は二束三文で売られるだけ。

 運が良ければ、善良な神父やシスターに会えるかも知れないが、そんな運があるならスラム孤児なんてしていないだろう。


 俺は軽い頭痛を感じながら、そんな事を悶々と考えながら、ふと二人を見ると…考える方に集中して目を離していた間に、二人は汚れ摩り切れた麻袋に頭と腕を通す穴を開けただけの服を、目一杯引っ張って床を拭いていたのだった。


「ぇ…? ちょ、ちょっと、止めなさい! そんな事しなくて良いから!」


「わたしたち、ゆか、よごし、ましたから…きれいに…しないと。」

「ごめん、なさい…きれぃに、します…から…ぶたないで、ください…。」


 俺は、二人を止めようと慌てて声を掛けるが、逆にそんな言葉が返ってきて唖然としてしまった。

 この子たちは、十に届いたかという幼さで何を経験してきたのかと…。

 それを想像した俺は、過去に忘却した幼い頃の記憶が甦ってきて…その姿が重なり合った瞬間、無意識に二人を抱きしめていた。


「…良いんだよ…おまえ達…もう、そんな事しなくて……大丈夫、だから…」


 二人は、突然触れられた事に身を強張らせたが、震え湿った声と抱きしめられ感じる人の温もりに、子供ながらに張った心を守るものが決壊して、抱きしめてくれた人に力一杯縋りついて泣き崩れた。



 三人は涙が涸れるまで泣き続け、どれくらいの時間が経ったか分からないが、ようやく落ち着いてきた俺は二人の顔を見つめて話を切り出した。


「おまえ達、守ってくれる人か知ってる人は居るかい?」


「ううん…いなくなってから…ずっと、しゃるだけ…」


「それは…何時からか分かる?」


「…わかんない……でも、よるは、じゅっかいねたよ?」


 十回…親か、それに近い誰かが何かしらで居なくなってから、二人だけで十日も過ごしたのか。


「…二人とも、名前は言えるかい?」


「うん。わたし、ふぃおりあ。」

「いえる、しゃるは、しゃるりあ。」


「フィオリアにシャルリアか、いい名前だね。 それじゃあ、フィオリアにシャルリア、今日から俺と一緒に暮らさないか?」


「くらさ?…おにいさん、わたし、わかんない…」


 俺の言葉に、二人は首を傾げてから分からないと、ちゃんと主張した。


「はは。ごめん、ごめん。難しかったか? 俺とフィオリアとシャルリアの三人で、家族になろうって事だよ。」


「…か、ぞく? しゃると、おにいさん、で?」


「そうだよ、ダメかな?」


「ううん! …でも、わたしたち…こじ、だから…こわいひと、に…きたないって…ぶたれる、から…。」


 フィオリアは、今まで心無い大人にされてきた事を思い出してか、顔を隠す様に下を向いて床にポツポツと水滴を落とす。

 妹のシャルリアも、そんな姉を見て悲しくなったのか一緒に涙を流していた。

 俺は、二人の頭を優しく撫で、最後の言葉を言った。


「俺が、二人の、お父さんになりたい、んだけど…ダメかな?」


 ゆっくりと、二人の心に届くように言葉を紡ぎ、大切なものを優しく包み込むように抱きしめた。


「ぅっ…ぇぅ……お、とう…さん…!」

「おとぅ…さんでも、いいの? しゃるたち、いっしょでも、いいの…?」


 言葉が届いたのか、フィオリアは俺の首筋に猫のマーキングの様に頭を擦り付けながら泣き、シャルリアは俺の言葉を確かめるように、何度も何度も聞き続ける。

 俺は、優しい気持ちに心が埋め尽くされ、二人を抱きしめ頭を撫で続けた。



 そのまま、いつまでも、そうして居たかったが…夜も大分更けてきて窓から見える家の明かりが、点々と消え始めていくのが見え俺は、泣き疲れて眠そうにしている子供たちに声を掛けた。


「フィオリア、シャルリア、眠いとこ悪いが、そのまま寝かせる訳にはいかないんだ。」


「んー…なぁに?おとうさん。」

「しゃる、ねむいよぉ…おとぉさん。」


 もう、何の疑いもなく自然と父と認めてくれた二人に、また嬉しくなり抱きしめたくなったが、どうにか我慢して(頭は撫でるが)言葉を続けた。


「そんなに汚れてると病気になっちゃうからね、綺麗にしないと! さぁ、と言うわけで風呂に入るぞ!」


 俺は言うと同時に、二人を脇に抱えて立ち上がり風呂に向けて歩き出した。


 程無くして風呂に到着した俺は、抱えられて運ばれたのをキャッキャと楽しそうにしている子供たちを下ろすと、着ている物を脱がして入り。

 そして直ぐに魔道具を作動させ、お湯をガンガンに出し湯船に溜め始めると、子供たちは湯船の縁に近寄って勢い良く出る湯に尻尾を揺らして興味津々に見ている。


「「おとうさん! おみず、いっぱい!!」」


「よ~し、フィオリア、シャルリア! 綺麗になるまで、洗ってやるぞ!」


 そう言って、はしゃぐ子供たちに微笑みかけ、石鹸代わりのハーブ水とタオルを手に、子供たちの体に付いた汚れを時間を掛けて洗い落としていった。



 風呂に入って綺麗になり、体が温まった子供たちに俺のシャツを所々縛って無理矢理サイズを合わせて着せたところで、限界が来たのか眠りに落ちてしまった二人を、俺は起こさないように部屋に運んだ。

 子供たちを抱えて部屋に戻った俺は、まだ一組しかない布団を敷いて、小の字みたいに三人でくっついて寝る事にした。


(はぁ…結局は、勢いで決めちゃったな……俺が、保護者になるなんてな…)


 俺の両腕を枕にして眠る子供たちの重さを感じながら、遠い昔を思い出し自分が誰かを守る事が出来るのかと、考えていると脳裏に三人の影が浮かんできた。

 その内の一人は、施設の母親代わりをしてくれた女性で、昔の様にただ微笑むだけなのに安心させてくれる。

 だが…残りの二人は、俺が記憶の奥底に仕舞い込んだ忘れたい人物で、嘲笑するように厭な笑みを浮かべて見てくる。

 その笑みは、まるで俺に「この偽善者が」と言っているように見えた。


(…たとえ、偽善だと言われようが、この子達が行動し繋げた縁なんだ。…俺は、あんた達の様にはならないさ…)


 思い出してしまった嫌な記憶と、この子達を助けた行為を、もう忘れて無かった事にしないように、此れから良い思い出の糧にしようと、あの人と自分に誓い眠りに就くのだった。



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