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店と大工とけんちん汁

サブタイ変更しました。

夢の店って可笑しいですし?

 女神様に出会い、異世界へ渡って既に一年が経とうとしていた。


 正直、この一年はあっという間だった。

 何せ始めからして草原に置き去りで、右を見ても左を見ても街や人どころか景色の変化すら無い状況だったのだから。

 そんな所に着の身着のまま来ても…なんて少しは悩んだけど、元の世界でも海外修行の時にヒッチハイクに失敗して似たような経験をした俺には大した問題では無かったな…気持ち的にはだけども。


 それから、お約束の襲撃なんかは無く、人っ子一人見掛けずに飲まず食わずで丸一日歩き通しで無事人里に到着出来たのは幸運だった。

 けど不運も同時にやってきて、辿り着いた町の門で衛兵なのか武装した人達に挨拶(女神様のお蔭か言葉は普通に通じた)をすれば、俺に槍を向けて声高々に警告をされ訳も分からず即お縄頂戴で牢に投獄された。

 まあ、すぐに真犯人が捕まり俺が冤罪だったと分かって釈放され、その謝罪として無一文だったので冒険者ギルドの登録費用を肩代わりしてもらい登録させて貰った。


 その後は、女神様に貰った能力を最低限駆使して目立たず依頼をこなし、街を渡り国を跨ぎの一年間だった。


 そして、その一年である程度の貯金が出来て渡り歩いた先で自由流通国家と銘打ち、更に海、山、田畑と好条件の土地に流れ着き、念願の料理店を営む事が出来るようになった。


☆★☆★☆


「おーい! 内装が出来たぞ、確認するか?」


 思い出に浸っていると、建築を依頼した大工さんの声に意識を戻して答える。


「もちろん! 信用はしてますが、やっぱり自分の目で見たいですし。」


「おうよ。ま、納得するまで見れば良いさ!」


 そう言って、ニカッと笑い鉢巻きのように額に巻いた布切れを解いて、他の大工さんと車座になって座った。

 俺は、楽しそうに笑い合う大工さん達を横目にコンビニ程の広さの新築木造二階建ての一階店舗部分に足を踏み入れた。


 内装は、対面のカウンターキッチン方式でカウンター10席に四人掛けテーブルを4卓の最大客数30人の店だ。

 そして肝心のキッチンは、コンロが通常調理用に四台と仕込み寸胴鍋など用に床に近い低い位置に三台の計七台設置して、上下水道も完備してあり悪くない出来栄えだ。


 ちなみに、この世界は魔力に魔法があるので魔道技術がソコソコ発展していて武器から、果ては生活道具まで日々開発されている。


 俺は、店内を一通り見終えると一枚板のカウンターに手を置き、そのまま手をスッと滑らせ自然と笑みを浮かべていた。


「俺の店…居抜き賃貸じゃなく、新築だ…ふ、ふふ。 やば、にやにやが止まらんわ。」


 どれくらいの時間か、カウンターを端から端まで何往復も行ったり来たり撫でまわして満足した俺は、時間を掛け過ぎたと焦り二階の居住はパッパッと見ることにした。

 未だ一般家庭の普及は無い風呂を作りトイレも水洗にした3LDKの二階は、一人で住むには広い家だが部屋は近い内に使う事になるだろうと予想している。

 俺も、この異世界を一年も旅していたのだ最低限の実情は理解しているつもりだ。

 奴隷制度はあるし、そうじゃなくても職を探すにも貴族に仕える以外で住み込み出来るのは貴重だと言う事を。

 だから、残りの二部屋は住み込み従業員でも使える様にしておくつもりなのだ。


 全体を見終えた俺は、外に出て手直しする為に残って居て貰った大工さん達へお礼するために話し掛ける。


「皆さん、有り難うございました。 文句の付けようが無い出来でしたよ!」


「ったりまえよ! しっかし、新築なんか久々の仕事なのに店にしたり風呂やら便所やら凝った作りにしてくれなんて言われた時にゃあ驚いたがな! がははっ!!」

「そう言えば、店主さん。 この看板の『桃源郷』って、どんな意味があるんです?」


「ああ、それはですね――」


 と語ったのは、簡単に言えば中国版浦島太郎物語の竜宮城の意味を持つ言葉で、ある日迷い込んだ人を持て成し、してはいけない事をお願いしたが帰った人は其れを守らずに二度と其処には訪れる事が出来なくなる。


「――と、言う意味なんですよ。 だから、皆さんも俺の店で料理を食べたいなら、誰彼構わず喋っちゃダメですよ?」


 俺は、ニコリと笑みを浮かべながら軽口のように言うと大工さん達もノリが良く、笑いながら「それじゃあ、気を付けねぇとな」なんて軽口で返してくれる。


「ははっ。 それじゃ、俺は皆さんに話しを守ってもらう為にも料理を振る舞いましょうかね。」


 俺は、出来たばかりの新品キッチンの使い勝手の試しや、大工さん達へ宣伝も兼ねて料理を作る為に店に入り、女神チート能力の空間魔法で今まで集めた調理道具を取り出していった。

 特注で作ったミスリル製の各種包丁に鍋やフライパンなどなど配置しながら、食材も取り出し並べていく。


 この世界は、炬燵で寛ぐ女神様が関与しているだけあって、野菜や肉類の牛豚鳥と言った食材や他にも色んな物が多々地球に似通っているのだ。

 でも、牛や豚の美味い肉は超高級品として王候貴族ぐらいでしか食べられておらず、一般的には乳や卵を出さなくなった老いた物の肉か野生動物だったり、魔物に分類されている動物を食べている。


 閑話休題。


「何が良いかな、っと…人数も居るし、夕食時も近いしな…。」


 独り言を呟きながら食材を見ていると、目に付く多くは根菜ばかりで俺はヨシッと一言気合いを入れ、手を洗いメインである根菜に付いてる土を洗っていく。


 これから作る料理の材料は、人参、大根、ごぼう、しめじ茸、長ネギ、魔物の猪肉、味噌である。

 俺としては、豆腐とかコンニャクとかも欲しいのだが無い物ねだりなので今回は見送るが、後で絶対に挑戦してやると意気込む。


 で、下拵えだが、人参と大根は皮を剥いて銀杏切り(いちょうぎり)にして、ごぼうの土は洗う時に麻の布切れで強めに洗い落として笹掻きにして水に浸けておく。

 次に、しめじの石突きを落とし、長ネギは裂くように一本切れ込みを入れてから一センチ角にざく切りする。

 最後は血抜きの済んだ猪のブロック肉を、薄く適当に小間切れにして下拵えは一段落だ。


 そして、大鍋に火を掛け油をひいて温まった頃合いで小間切れの猪肉を炒める。

 ジュージューと焼ける音を聞きながら、肉に火が通り白っぽく色が変わったところで、水と一緒に人参、大根、ごぼうを鍋に入れて沸騰するまで待つ。

 そのまま、灰汁を取りつつ根菜がやわらかくなるまで煮込み、しめじと長ネギ、味噌を溶かし入れ味見をすれば、けんちん汁の完成だ!


 調理を始めて三十分弱、鍋に蓋をして熱を逃がさないしておき、外に居る大工さん達に声を掛ける。


「お待たせしました~、どうぞ中に入ってください!」


「おう。っと、ずいぶん良い匂いさせてるな!?」

「これは、ヤバいっすね、親方!」

「「うぉー、腹減ったーー!!」」


「はは、ありがとうございます。 今すぐ配りますね!」


 俺は、人数分の数十個のお椀に次々よそっていくと、大工の一番若い弟子が手伝って運んでくれたので礼を言い、鍋の三分の二ほど減ったところで皆に行き渡り、残りは鍋に蓋をしてキッチンを出る。


「え~、この度は依頼を受けて頂き有り難うございました。 お陰様で、こんなにも立派な店を持つ事が出来ました。 それでは、最初のお客様方、どうぞご賞味ください。」


「なぁに畏まった事言ってんだ! 俺たちも良い仕事をさせて貰った事に感謝してるぜ! だから、この料理はありがたく食べさせてもらう!」

「「「いただきますっ!!!」」」


 箸文化じゃないので、皆さんはスプーンで汁を掬い一口食べると――


「うまっ! なんだコレ、味噌のスープだよな!?」

「うまいっす、うまいっすよ! なんか、色んな味が口ん中いっぱいに広がって、うまいっす!!」


 皆さんは、あれよあれよと言う間に一杯を食べ終えてしまい、お代わりをしたそうにしている顔を見て俺も嬉しくなった。


「ふぅ…食い終わっちまったか。 いや、正直料理屋なんて何処も一緒だろうと、高をくくって仕事を受けたが……俺は、この店を作れた事を誇りに思える程に、お前さんの料理は美味かった!」


「ははは。まあ、気付いてましたけど、覆せて良かったです。 宣伝成功、ですかね?」


「ふん、成功も何も、これから毎日通ってやるよ!」

「もちろん、親方だけじゃなくて俺らも来るっすよ!」

「それと、何かあったら何時でも来い! 修理でも何でも優先で受けてやる!」


「ありがとうございます! その時は、頼らせてもらいます!」


「おう、それじゃあな!」


「はい、ありがとうございました! またのお越しを!」




親方のツンデレ(?)は、如何だったでしょうか?


料理を美味しそうに書くのは、凄く難しいですね……精進、精進!


ご感想、ご指摘、アドバイスからリクエストまで何時でも待ってます。

作者の有頂天スイッチでもありますので、是非とも送ってやって下さい!


それでは、またの御来店お待ちしてます。


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