表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

女神様とたんぽぽオムライス

 ――く~…

 ――きゅるる~…


 意識がうっすらと戻ってきたところに、どこかから妙な音が聞こえてくる。


 ――ぐ~…


「め…さま、は…ずか…ない…すか」

「しょ…ない…おい…うなん…もん」


 更に意識が浮上してくると、途切れ途切れだが話声も聞こえてきた。


(俺は…どうなったんだ…?)


 自分がどうして、どうなったかを自問した途端に思い出した。


(っ…そうだ、男の子を助けようと事故に…)


 思い出した瞬間、身体が反応したのか話し声を出していた誰かが気が付いて俺に話し掛けてきた。


「あら、起きたのかしら?」


「ん…ここは…?」


 話し掛けられた俺は状況を把握しようと上半身を起き上がらせて目を開くと、何故か炬燵こたつを囲んだ二人の美女が項垂れていた。


「…ここは?」


「ここは、私の私室よ。」


「俺は、事故って…どうなったんだ?」


「そう、あなたは子供を助ける為に飛び出し代わりに車に轢かれ即死よ。 ちなみに子供は足の捻挫と擦り傷多数の軽症ね。」


 そうか、男の子は助かったのかと他人事のように思っていると、また妙な音が聞こえてくる。


 ――ぎゅる…


 その音は、炬燵を囲んだ美女の方から聞こえてきたので、そっちへ視線を向けると美女二人は力なく炬燵に頬をくっ付けている。


「…あの、大丈夫ですか?」


「ダメ……お腹空いてて、ね。」


「はい?」


「出来れば、何か作ってくれないかしら…一条優二さん?」


 スッと腕を上げて指差す方向には、いつの間にか一般家庭用のキッチンが備え付けられていた。

 それにも驚くのだが、それよりも俺は自分の名前を呼ばれた事に警戒心を持ってしまっていた。


「…なんで、――」

「名前を知っているのか?」

「…っ!?」


 ジリッと後退りをしてしまうが、良く良く考えてみれば此処が何処で事故にあった自分が不自由無く動けているのか、何一つ分かっていない事に今更ながら気が付いてしまった。


「…俺を、どうする気ですか?」


「かなり警戒されてますよ、女神様?」

「あれれ? 魅惑の美女を演出出来るって、この本に書いてあったのに…」


 また何処から取り出したのか分からない本を、パラパラと捲り愚痴る女神様と呼ばれた美女。


 ――ぐ~…


「あぅ…一条優二さん、事情は話しますから、取り敢えず先に何か作ってくれないかしら…?」


 腹の虫を鳴らして頬を赤く染める美女二人に警戒心と言う毒気を抜かされてしまう俺は、さっきまでの自分の態度も含めて苦笑を浮かべてしまった。


 俺は、長袖シャツを腕捲りしてキッチンへと近寄り冷蔵庫も現れていたので、中身を確認しようと扉を開く。

 しかし、開けて見ると冷蔵庫の中には食材は何も入って無く新品特有の臭いが感じられる位だった程に…。


「……えっと?」


「あ、すみません。その冷蔵庫はフェイク、見せかけですので。」


 そう言うのは、女神様と言う美女とは別の常に隣に居たもう一人の美女だった。


「そうそう、キッチンには冷蔵庫は付き物でしょ?だから出しただけなのよ。」


「はあ…? それじゃ、どうするんです?」


「此処では思い浮かべれば、食材や料理は生み出せますので言って頂ければご用意しますよ。」


「……え?」


 何かよく分からない事を言うもう一人の美女を見つめてしまった。


(思い浮かべれば、生み出せます? 何だそりゃ?)


 頭の中で反芻しても、さっぱり意味が分からない俺はどう反応すれば良いのか迷っていた。


「ふふ、すみません。分からないですよね、理解は出来なくても問題はありませんので、何が必要か言って頂けますか?」


「はあ…と言われても、何か食べたい物はありますか?」


「オムライスが良い! あなたの、あのオムライスを食べてみたいわ。」

「では、わたしもそれで。」


 あのオムライスと言われても分からないのだが、まあオムライスと言うリクエストを受けたので必要な食材を言って用意してもらった。


 冷や飯(何故か冷や飯として出てきた)と鶏肉、玉ねぎピーマン卵に生クリーム、バターと塩コショウケチャップと家でも出来る簡単オムライスの材料だ。

 まず、玉ねぎピーマンをみじん切りにして鶏肉も一口大に切る。

 次に、サラダ油を挽いたフライパンを火に掛けフライパンが熱くなった所で鶏肉を炒め始める。


 ――ジュッジュ~


 と、鶏肉にある水分が飛び旨味のある脂が染みだしてくる音を聞きながら鶏肉を炒め、鶏肉の色が全体が白っぽく変わった所で玉ねぎを投入する。

 玉ねぎが油が馴染んで透明になった所で冷や飯もフライパンに投入し米をほぐしながらフライパンを振って炒める。


 ――ジャッジャッ


 と、小気味良い音を立てフライパンの上を舞踊る米たち。

 米がほぐれたのを見てピーマンを入れケチャップも適量掛けて、塩コショウで味を整えながら再びフライパンを振ってチキンライスへと昇華させていく。

 ケチャップが熱せられて良い匂いが漂うと、後ろで待つ美女二人から生唾を飲み込む音が聞こえてくる。


「うぅ~良い匂いだわ…我慢出来なくなりそう。」

「は、はい…もうあれで食べたくなりますね。」


 俺は、二人の言葉を聞いて笑みを浮かべながら出来上がったチキンライスを二枚の皿へ均等に分け盛って置くと、別のフライパンを火に掛けバターを落とす。

 バターが溶けたフライパンに、先にボウルに3つ分の溶き卵と生クリームを合わせた卵液を流し入れ最初はスクランブルエッグの様に混ぜ、良いところでフライパンの持ち手を叩く様にして動かしオムレツの形へとまとめていく。

 そして出来た、ぷるぷるのオムレツを皿に盛ったチキンライスの上に乗せオムレツに包丁で切れ込みを入れ割っていくと、半熟のオムレツがたんぽぽのように咲いた。

 黄色いたんぽぽにケチャップの赤を彩れば出来上がりだ。


「お待たせしました。たんぽぽオムライスの完成です。」


 へんにゃりとでも表現出来そうな顔をした美女二人の前にオムライスを置くと、待ちきれないとスプーンを手に取りオムライスへ潜らせる。

 そして、一口食べると無言で二口、三口と次々に食べ進めていった。


「ハフハフ…卵がとろとろで美味しい!」

「鶏肉もプリッとしてて、玉ねぎも甘くてピーマンの苦味も良いアクセントになってます!」


 半分を一気に食べ進めて落ち着いたのか、グルメレポーターのような感想を言いつつ一口一口味わう様に、しかし止まる事無く食べている。


 休み無く一気に食べ終えた二人は、水を飲み落ち着きを取り戻していた。


「「はふ~、ごちそうさまでしたぁ。」」


「はい、お粗末さまです。 それで、色々聞かせて頂けますか?」


「そうですね、まずは一条優二さん、あなたは死んでます。で、ここは所謂神界と呼ばれる場所ですね。」

「そ。あと、もう地球じゃないわよ? 分かりやすく言うと、異世界上の神界ね…死後の世界に行く途中で拾っちゃった!」


 テヘっと表情を崩して宣う仮称女神様に、何とも言えない顔のもう一人の美女。

 その後も軽い調子で説明する女神様の話を要約すると、異世界の料理事情をどうにか出来ないかと考えて居ると若くして死んだ料理人の俺が居たと言う事だった。


「で、どうかしら? 食材なんかは地球に似ているし、一料理人として生活するだけでも良いのだけど?」


「それでも、色々足りないものは有ると思いますが?」


「それは、私がちょちょいと能力を付与してあげれば解決よ!」


「ちなみに、拒否した場合は?」


「その時は、元の流れである記憶消して転生するだけよ?」

「その場合は、地球の転生では無くこちらの世界で、と言う事になりますが。」


 どちらにしろ地球には戻れないらしいが、天涯孤独だったので別段未練は無い。

 強いて言えば、料理人だったのだが、それは異世界でも出来るなら行くしかないのではとすら思っている。


(なら、迷う必要は無いよな…?)

「決まったかしら?」


 さっきから心の中で思っている事に対して答えが返ってくるのが、どうにも気味が悪い。


「気味が悪いは、悲しいかな…」


「また、か。」


「こちらは仮称・・女神じゃなくて、本当に女神様ですので。」

「ちょっと、天使のくせに酷くない?」


「そうか…まぁいいか。 行くよ、異世界に。」


「いや、良くは無いんだけど?」

「そうですか、では女神様、手続きを済ませましょう。」


「頼む。」


「あれれ、私って女神よね?」


 そう言っても、やる事はやってくれる女神様は良い人(?)だと思う。


「ありがと。 それじゃ、色々オマケしてあげたから問題無いと思うけど無茶は厳禁よ? これから行く世界は、ちょっとした不注意で死ぬし用心しても死ぬ事もあるから。」

「そうですね、地球では想像上の魔法や魔物なんかも居ますので。」

「ま、そんなのは蹴散らせる位の能力は付与してあげたから頑張ってね! じゃ、行ってらっしゃい!」


 美女二人に見送られながら、俺の身体が光に包まれていく。


「何か色々ありがとうございました。行ってきます。」


 そう答えると、二人の微笑んだ顔を最後に意識がホワイトアウトしていった。


料理を美味しそうに書く、と言うのは、途方もなく難しいですね…。

もっと精進して行きたいと思います。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ