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少年と一緒

「…魔族、何だろ」


魔族って、どういう風に暮らしているんだろうか。

物資の補給に行こうと城の外に出たまではいいが、そもそも魔族の街はどうなっているんだろうか。


外から魔王城へ向かう道筋は魔王城の後ろに聳え立つ険しい山脈を越えるしかない。そしてそこを超えればすぐに魔王城が見える。城下町というものがあったとしても、目的地が魔王城ならそれを目にすることはない。


そして私は、魔族の街というものを目にしたことがない。


食料庫らしき所から拝借した食料を食べながら、どうしようか考える。

確かに当面の食糧は今日と同じように拝借すればいいかもしれない。しかし、補給を一本化してしまうことは避けたい。食料が搬入されない、盗みを警戒して食料に毒を仕込んでおくなどと言ったことも起きかねない。


できれば他にも食料確保のすべを見つけておきたいと言うのが本音だ。



そのためには、方法が三つある。

一つは、これまでの旅の途中と同じように、自然の中から食料を入手する手だ。つまり、野生の果物や獣だ。…しかし、私は魔属領の植生も、動物も知らない。魔属領は瘴気が充満している地なので、環境も生物も人間の住んでいる所とは全く違うのだ。


そして二つめは、他から奪うことだ。

今日の食料調達がこれに当たる。今までも無人の山小屋から色々と物資を盗った経験もある。誰かに咎められる危険性はあるが、これが一番簡単に食料が手に入る方法だ。


最後が、これが一番難しいと思うのだが、正当な対価を払い、正当な方法で食料を入手することだ。

まず何が難しいかといえば、金を稼ぐことが難しい。私ができることといえば、今も昔も殺しだけだ。しかし殺しを商売にするにしても色々と隠ぺいの工作やら他との繋がりをつくることが必要であり…私はそんなことはできないというのは、はっきりとしている。


ならば、他の仕事ができるのか?と聞かれれば…できない、としか答えられない。少し苛立つことがあっただけで、右手が自然と短刀を投擲してしまいたくなるからだ。以前、直前まで話していた相手の眉間に短刀が突然現れて、驚いた記憶があるほどだ。殺しは私の体に染みついてる自然な行動なのだ。対価を稼ぐために、普通の仕事などできるはずがない。


「…どうしよう」


三つの方法の中からどれを選ぶか。


「あ、おい」


どす。


行き成り後ろに現れた気配に反応し、体が勝手に謎の影を殴る。もろに腹筋に入ったようで、その場にうずくまる影。本当は吹き飛ばすつもりで殴ったのだが、その場で持ち堪えたということは、それなりの強者。すぐに首を狩り取れるように、剣を抜く。


「っ…ち…ぅ…」


「?」


言葉にならない苦悶の声を上げて、何かを喋りたそうにする不審者。攻撃されたのに敵意を持っていないその様子を見て、今さらながらに疑問を覚える。


あまり見ていなかったその影をよくよく見れば…少しは見覚えのある姿だった。


「少年。何?」


「っ…!」


未だに回復していないようで、言葉を発することのできない少年。いつもならば、放っておいて、さっさと先に行くが……少年が行き成り後ろに現れたせいとはいえ、敵意のない相手を殴ったのは少々まずかった。せめて用件くらいは聞いて行こう。


少年が喋れるくらい回復するまで、じっと少年を観察する。

私の見解では、少年は私の拳を受け止められるほど強くはないはずだが、先程は何故吹き飛ばなかったのか。私の見立てが間違っていたのだろうか。


しかしその謎はすぐに解けた。少年がしている装備に見覚えがあったからだ。

あの指輪やブレスレット、アンクル、ネックレス、服の影に隠れ、見え隠れするその輝きは、前にも見たことがあった。


「魔王…」


小さく口の中でそう呟く。魔法で隠されてはいるが、この魔力の名残は、魔王のものだ。魔王が死んだせいか本当に名残程度しか残っていないが、覚えがあるのは間違いない。


血縁への遺品なのか…それとも魔王代理としての装備品なのか。そんな疑問が浮かんできたが、どうでもいいので心の底に沈めておく。

私が少年の父親を殺したことは事実だが、少年に責められようとも何とも思わない。今でも、魔王を勇者として討伐したことは、後悔などしていない。

少年が心の中で私のことをどう思っていようとも、私には関係のないことだ。


自分の拳が減殺された理由を解明したところで、ようやく少年が喋れるまでに回復する。


「っぐ…お、お前、本当にっ……ま、まあ、いい。…もし、魔族の住む場所に行くんなら、俺も付き合おう」


「断る」


何を言っているんだろうかこの少年は。まさかそんな戯言を言うために現れたのか。意味のわからない少年の言動を受け、自然と視線が冷たくなる。弱いくせに、こうもたやすく強者を不快にさせるとは、やはり少年は長生きはできないな。


だが少年は私の視線に込められた警告に気付いた様子もなく話し続ける。


「おま…魔王様は人間で元勇者だろ?何も知らない連中が魔王様を攻撃しても困るし、そいつらを殺されても困る。魔王様も本当に魔王になる気があるんなら、あんまり臣下を殺し過ぎるなよ。もちろん、強者が弱者をどうしようと、咎められることはないけどな」


「……」


なるほど。それは考えていなかった。


気配を隠して忍んで行けばいいと思っていたので、正体が露見した場合の周囲の反応を考えていなかった。さすがに周囲の魔族をすべて殺すのは面倒だ。この少年を同行させれば、少なくとも時間稼ぎにはなるだろうか。弱いなりにも魔王代理だ。言葉で魔族を抑えるくらいはできるだろう。


「分かった。付き合って」


「ああ、もちろん」


お目付役は邪魔くさいが、財布代わりだと思えば我慢できないこともない。

先行する少年の後を気配を隠しながらゆっくりと歩いて行く。





「…どこ?」


少年の案内に従って歩きだしたのはいいが、目的地がどこなのか分からない。そもそも魔族の街などというものが存在しているのかも分からない。勿論あの城を見る限り、魔族も人間と同じように文明を築いているのだろうが、集まればすぐに力比べを始める魔族が集団生活などできるのだろうか。想像もつかない。


「場所か?すぐそこだ。何せ、魔王城から離れすぎたら意味ないからな。今は、瘴気の範囲も減ってることだし、人口も増えてるんじゃないか?」


「…意味、ない?」


生活可能な範囲が減少したから、瘴気の中心である魔王城付近の人口が増えるというのは分かるが、魔王城から離れすぎたら意味がないとはどういうことだろうか。首を傾げて疑問を表せば、少年は面倒くさそうにしながらも答えてくれる。


「瘴気は、魔族にって生命線だ。瘴気をどれだけ体に取り込めるかが、強さの基準にもなってる。弱い魔族なら瘴気の境界の薄いものでも十分だが、強い魔族ともなればただ生きるだけでそれなりに瘴気を消費する。…要するに魔王城に近い所に住めば飢えなくてすむってことだ。まあ、瘴気を受け入れる器がなければ、弱い奴が魔王城の近くに住んだって意味ないけどな」


「なるほど」


魔王城へ向かうにつれて、敵が段々と強くなっていったのはそういう事情があったのか。魔族の敵を段階的に成長させるような配置をしているから、どんな馬鹿が考えた作戦かと思ったのだが…ただの偶然だったらしい。あれは多分刺客などではなく、住民だったのだろう。段階を効率よくあげられたので実にいい敵だった。


「そういうことだから、今は魔族がたくさんいる。だから絶っ対に暴れるなよ!」


「分かった」


何やら少年は興奮して叫んでいるようだが、私だって言われたことくらいは分かる。つまりは周囲に被害を広げないように、一撃必殺で反撃すればいいということだ。できれば血も出ないようにすれば、なおいいだろう。


何種類かの暗殺法を頭の中で再現する。少年は上の空の私を胡散臭そうに見ていたが、何度言っても無駄だと思ったのか、大きな溜息を一つ吐く。


「俺が、何とかするしかないのか…。ああ、そろそろ魔王城の結界の外だ。転移魔法を使うぞ」


「ん」


魔族の街…一体どんなのだろうか。

少年の装身具の一つが光ると、私と少年は一瞬でその場から消えた。

宰相「仮にも魔王代理なのですから、うまくやってくださいね?」

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