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魔王城にて2

「ん…よく寝た」


広域殲滅術式魔法でも使って寝込みを襲ってくるかと思ったが、結局何もなかった。確かにこちらを窺っている複数の気配はあったが、それはむしろない方がおかしいだろう。大体、私を魔王になどというあの宰相がおかしいのだ。少年も私を魔王に推薦すると言っていたが―――あれはちょっと信用できない。


あの時の少年を思い出しながら、そう思う。あの時の少年は私を主、王として認めるという目ではなかった。苛立ち、怒り、畏れ、そういったものをないまぜにした、複雑な目をしていた。私を、魔族復興のために魔王にしたいというその言葉に嘘はないだろうが、いつまでも私を魔王の座に就けておきたいとは思ってはいないだろう。


「おかしいのは、宰相」


あれは、偽りなく本当のことを言っていた。私がこの能力を使って確かめたのだ。間違いはない。魔族復興のために利用するという点は少年と同じだったが、私が死ぬまで魔王の座に就いていて欲しいと思っていたのは意外だった。


あまりに意外過ぎて、思わず魔王になるのを承諾してしまったくらいだ。


「策だったら、どうしよう」


この私の思考の行きつく先までが宰相に読まれていたとするなら、私は上手く宰相の手の平の上で踊らされたということだろうか。心を読む加護を使って、宰相の考えを深いところまで読めればいいのだが…この加護はそこまで使い勝手のいいものではない。


もちろん強力な加護ではあるが、読みとれるのは表面の考えだけだ。つまり、腹の中で何かを企んでいたとしても、私が加護を使った時に頭で考えていることが『そろそろお腹が空いたな』というものであったら、私にはそいつが空腹だと言うことしか分からないのである。

心を読みとるというよりは、心の声を聞きとる加護といった方がより正確だろうか。


とにかく、あの宰相の考えは私が加護を使ったとしても、分かるものではないだろう。



「まあ、頷いたから、仕方ない」


承諾してしまったものは仕方がない。とにかく魔族側が私を裏切らない限りは、私も約束は違えない。私は守れない約束は絶対にしない主義だ。大事な約束を破る奴など呪われてしまえばいい。そう思うからこそ、私は約束は絶対に守るのだ。


「まあ、でも…」


もし私の邪魔をする奴がいたのならば、それはやってしまってもいいのだろう。例えばあの少年、とか。はたまたあそこにいた魔族の面々、など。心の中で思っていることをもし本当に実行しようとしたのならば、力で圧殺してしまってもいいのだろう。


「…大変」


魔王になると言うのは、勇者になって魔王を倒すより大変そうである。




****




「おはようございます、魔王様」


「…おはよう、宰相」


部屋を出て早々、宰相に出迎えられた。…外で私が出るのを待っているような気配は一つもなかったはずだが…私が部屋を出る時間を見越して転移した、ということか。そんな無駄なことに知恵を使ってどうするのだろうか。



「それで、私は、何を?」


承諾はしたが、具体的に何をすればいいのかは聞いていない。魔王の仕事というものは全く分からない。人間の住む場所に攻め込む…のは、主に他の魔族がやっていたはずだ。私は魔王城以外で魔王に会ったことはないし、魔王が直接攻め込んで来たという情報もなかったはずだ。魔王は人間の王のように自分自身は動かない存在なのだろう。


では、何をすればいいのか。まさか、本当の素人に国を統治させるはずはない。それこそあの聞き分けのいい少年とこの宰相が居れば、権威と権勢と権力は保たれるはずだ。私と言う異物をわざわざ抱え込む意味がない。


そうやって、一人で考えていても何も分からないので、直接宰相に聞く。


宰相は、長い話になりますのでと言って、私を執務室に案内した。

…確かに廊下でする話でもなかったか。少し焦りすぎた。



魔王の執務室としては少し家具が少ない殺風景な部屋の椅子に座る。魔王城は色彩はダークだが、それでも人間の王城に勝るくらいの豪華絢爛さを保った城だと思っていたが…。


「申し訳御座いません。以前の執務室は跡形もなく消滅致しましたので、急遽用意した部屋となりますが、何卒ご容赦ください」


「…ああ」


魔王城、どれくらい壊したっけ。覚えてないな。

しかし、内装なんて使い勝手が良ければ関係はない。今はそんなことよりも早く話が聞きたい。手の仕草で宰相の話を促す。


「はい、それでは魔王様のご質問にお答え致しましょう。魔王様が何をなされたらいいのか、というお話しですが…まず最初は、正式に魔王として認められることから始めましょう」


「……」


やはり、か。いくら魔族の代表とは言え、あんな少人数の者が頷いただけで、魔王が決まるわけがない。あくまでも支持を得たというところだろう。魔族の王は一番力の強い者がなるらしいし、これから何か選抜試験のようなものがあるのだろう。…私が昔にした、一人前の暗殺者として認められるあの儀式より凄惨かもしれないな。まあ、一暗殺者と魔王の重要さは比べるまでもないが。


余程の無理難題を言われない限りは約束を破ったりはしない。宰相の言葉に沈黙を持って肯定を返す。


「さすが、ここまでは分かっていたようですね……その認められる方法ですが、魔王様の場合、一つは既に達成できています」


「…何を?」


「自分の敵対者を殺すことです。相手が自分と同等の強さを持つ場合は一人でも事足りますが、自分より弱い場合、大勢殺さなければ認められません。ですが、魔王様は既に自分の敵対者の大量虐殺を成しておりますので、一つは達成できていますね」


「…ああ、あれで、いいの」


宰相の言っている、私にとって不愉快な事象に思い当り、眉間に皺を寄せながら頷く。私が追手に追いまわされる原因となったあれのことを言っているのだろう。

要するに、自分の力の証明というのがここで成されるわけか。ただ、あくまでも強さの照明は最低基準を満たしただけに過ぎないのだろう。


「そして残りですが……魔族の実力者の支持を一定以上集めることもできていますね。実はここが結構難しいのですが、さすが魔王様は力の強さが段違いでしたから、すぐに支持が集まりましたね」


「…そう?」


昨日の魔族の面々との対面を思い返す。……どう考えても私に対して好意的だった者が存在しない。坊ちゃんと青年と赤鎧の魔族だけは腹に抱えるものは何もなかったようだが、それ以外の腹の中は真っ黒というものではなかった。さすがに私も、あれだけの腹黒い人物が一堂に会しているのを見たのは初めてだ。


しかし一応、頷いたという一点だけを考えれば、支持を集めたと言ってもいい、のか?


宰相は満足そうに頷いているから、きっといいのだろうが……うん、嘘を言っている様子はない。多少の言い方の違いはあるものの、心の中で考えていることと口に出していることの内容は合っている。


「そしてこれが最後ですが、魔族が魔王に成るための特別な儀式があります。…魔王が普通の魔族と違うということは分かっていらっしゃいますよね?もちろんその強さではなく、特性の部分の話、ですが」


「…なんとなくは」


だけどそれは、ただの憶測に過ぎない。瘴気があるから普通の魔族ではなく魔王なんだということくらいしか、私には分からない。そして、魔族ではない私は、本当にその魔王とやらに成れるのだろうか。…私を殺す策だという可能性の方が高いのは否めない。


「魔王の特性、それは瘴気を生み出すことです。瘴気は魔族に力を与えてくれます。人間にとって清い空気が一番住みやすいように、魔族にとっては瘴気が濃い場所が一番過ごしやすい場所なのです。つまり魔王とは、魔族にとって、とても重要な存在であるということです。魔王がいなければやがて瘴気は薄まり、居住可能範囲も縮小しますから」


「…それは、分かってる。宰相、早く話の核心を話してくれないかな?遠回しな説明にはもううんざりだ」


今重要なのは瘴気がどうだの魔王が魔族にとってどうだの、そういう話ではない。どうして私が魔王として選ばれたのか。私は魔王に成れるのか。私は魔王に成ったらどうなるのか。重要なのは、そういった話だ。


宰相は話の核を意図的にずらし、無駄な話ばかりしている。もちろん、今の話も私にとって必要な知識だろう。だが、そんなものは後でいい。


バチリ、バチリ、と雷撃を纏った魔力が室内に満ちて行く。裏切るか約束を果たすまでは私は宰相を殺したりはしない。が、痛めつけることまで、しないわけではない。半身が焦げれば、少しは宰相も考えを改めることだろう。


「相変わらず無茶苦茶な魔力なことで…。魔王様、どうかお気をお鎮めください。…確かに、私はわざと婉曲な話し方を致しました。申し訳ございません。ですが魔王様、これらは全てあなた様にとって必要な知識なのです。魔王に成る前に、魔族のことを少しでも知っていただきたかったのです。…罰は甘んじて受けさせていただきます。どうぞ、魔王様」


…宰相は、私に心を隠そうとしない。最初の方に、普通なら聞こえないような囁くような声で宰相が言った言葉は、もちろん私の耳に届いている。そして、心の声も。

言わなくてもいい嫌みをわざわざ口に出し、打って変わったような丁寧な謝罪をする。…普通なら、ふざけているのかというところだ、が。


「…もう、いい。…続きを」


私には肉声も心の声も全て聞こえる。…そんな私の前で取り繕っても仕方がない。だから全部声に出してしまおう。その方が、私に気に入られる可能性が高い。……思っていても、できることではない。心を読まれる嫌悪感は、散々聞いてきた。それでも、私の能力を知ってもなお、宰相は宰相なのだ。


…きっと雷撃を喰らわせたって変わらないだろう。無駄なことはしない主義なので、さっさと続きを促す。こうなったらせめて、早く話を終わらせよう。


「ありがとうございます、魔王様。それでは、魔王様が気になっておいでになる、魔王様が魔王になる方法について、ご説明させていただきます。正直に申し上げてしまえば…私どもにもよく分からないのです」


にっこりと笑って、宰相はとんでもない発言を落とした。思わず目を瞬かせ、首をかしげる。


…分からないって、どういうことだ。何で魔族の幹部が魔王になる肝心の方法について知らないのだ。これはもう、約束は不履行だと考えてもいいのだろうか。パチリ、とまた軽い電撃の音が部屋に響く。


「申し訳ございません、本当に私では分からないのです。先程言った前提条件を達成した魔族はある場所に行くのですが…そこには一人で行くことになっているのです。当然、魔王になれずに帰って来ない者もいます。当然、魔王になって帰って来る者もいます。しかし、歴代魔王はその場所であった出来事を決して話すことはなく…結果、誰にも分からなくなっているのです」


「…それで、根拠は?」


魔王に成る方法が曖昧なのは分かった。方法を知る術がないことも。だが、それでよく私を魔王にすると言えたものだ。魔王に成る方法が分からないのならば、人間の私が魔王に成れるかどうかなど、分からない。むしろ可能性は限りなく低いだろう。


だが、宰相は根拠のないことを自信有り気に主張してくるほど、馬鹿ではない。何かしらの根拠はあるのだろうと、問いかける。


「もちろん、あります。実は、あまり人間の間では知られていないことなのですが、歴代魔王の中には人間もいるのですよ。魔王様のような、強者の人間が」


「……」


なるほど。前例があるから大丈夫だと思ったのか。…宰相が薦めるにしては根拠が少し薄い気もするが…それだけ後継者選びが切羽詰まっていたということか?魔族の強者は粗方殺しつくしたしな。


「…じゃあ、私は、行くの?」


前提条件はもう既に達成できているようだし、人間が魔王になるのも特に問題はない。ならば、次は私がその魔王に成るための場所に行くのだろう。それならばさっさと終わらせてしまおうと腰を浮かしかけたが、宰相に止められた。


「いえいえ、魔王様。これには色々と準備というものがありまして。もちろん、魔王様の準備はできているとは思いますが、途中までは我々も同行しますので、我々の準備がありまして…そういう決まりなのでどうぞご了承ください」


…実を言えば、私もあまり準備万端というわけではない。これまでの逃亡生活の疲労は確実に体に蓄積している。装備も簡単な手入れをするのが精いっぱいで、万全とは言い難い。約束は早く達成させることに越したことはないといっても、未知の場所に行くには、もう少し体調を整えた方がいいだろう。


「…分かった。でも、早く」


「はい、我々も一日も早い魔王様のご即位を願っております」


…とりあえず今日は、外にでかけて物資の補給と行こうか。

宰相「準備は魔王様の体調を鑑みてなるべく遅く終わらせましょう。…本当に色々と準備はありますしね」

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