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無駄な会議2

リハビリ的に書きましたので短いです。


「じゃあ、行くから」


さすがにこれ以上は無駄なことはしたくない。暗殺の作戦の打合せならともかく、殺すか殺さないかの時点で話し合いたくない。そもそもどうして私しか動かないのに話し合いする必要があったのか。私より頭のいい宰相が言うことだから意味があるのかもと思ったが、やってみても意味があるとは思えなかった。


「はい、分かりました。正直私は今でも反対ですが…決まったことですからね。従いますよ、魔王様。それでは遠征の準備を致しますので魔王様は城でしばらくおくつろぎください」


「いらない」


「…すみません、魔王様。今とんでもなく非現実的なお言葉が聞こえたような気がするのですが、もちろん私の聞き間違いですよね。今や魔族以上に人類にとって最悪の敵となった元勇者であるあなたが、単独で、敵地に突っ込むと、そういった意味合いにもとれるお言葉が」


単刀直入に、ついに血迷ったかとか脳内お花畑かこの気狂い勇者とか言えばいいのに。私もそう思っているから今罵倒されても怒りはしない。

大体、一国の王が国庫を簒奪して、代わりは隣国から奪って来るわーとかどう考えてもおかしいだろう。適当に理由並べ立てたらいいかなと思って言ったら、意外と反発が少ないし。どれだけ実力主義なんだ、魔族。どんな理不尽でも相手の力が強かったら従うのか。


まあ、宰相は食料略奪以外にも、遠征による魔族口減らし的な意味もあるのだろうと思って、強くは出なかったみたいだが。今の私の発言で私が何にも考えていないのだと思って、怒り心頭である。加護がなくても心の声が聞こえてきそうな形相である。


だが聞き間違えではない。


「一人で、行く」


「……死にに行きたいのでもなければ、考え直してください」


もはや宰相は取り繕うことさえしない。思いっきり侮蔑の目で上から睨み付けられる。やっぱ元勇者なんて魔王にしようと思うんじゃなかったという自分への蔑みもありありだ。常に冷静な宰相を動揺させられて、私はすごく満足している。


それだけのために、こんなことを言ったりは、もちろんしない。

私は本気で一人で人間領に行くつもりだ。



「宰相。魔族の全盛期でさえも魔族の集団的な攻撃はあまりなかったけど、それはどうして?」


「…いずれ瘴気で人間は弱るでしょうし、こちらから打って出て魔族の数を減らすまでもないと思ったからですよ。それに魔族は人間とは違って集団行動は苦手なんです。せいぜい種族単位が限界ですが、攻撃手段が単一の場合、人間が対抗しやすくなります。いずれこちらから大攻勢を仕掛ける可能性もありましたが、もしあったとしても、統率などまるでとれていない烏合の衆でしかなかったでしょう」


「一人で行くか、寡兵で行くかしか選択肢がないと。それは、確かに瘴気というものがなければ人間に勝てるわけないよね。群れるのは得意だし、死んでも次がいる。そして私のような強者も時には生まれる。…でも今の私は弱体化してるから君らが総攻撃してみれば何とかなるかもよ。やってみる?」


「いえいえ、魔王様に反旗を翻すなど、そんなことは致しません」


今お前を殺してどうにかなるんならとっくにやっているという心の声が直接聞かなくともその渋面で十分に読み取れる。だが私が言いたいのはそういうことではない。


「軍勢を率いるならともかく、十人、二十人の数なんていてもいなくとも同じ。私一人なら、人間の国に忍び込んで見つからずに食料庫の食料を全て奪うことができる。勇者になった時に貰ったこの道具は本当に便利だよ」


そう言って、懐にしまってある道具袋を服の上から叩く。中に何か入っているような感触は感じない空の布袋に見えるが、その収納量には未だ限界は見えず、重さも感じない。勇者の力よりもこの道具のほうが反則なのではと思ったほどだ。


「それとも、誰か私の他に、私以上に隠密が得意で、万が一誰かに見つかっても帰ってこられる可能性があるような、そんな人物はいる?」


「…おりません」


当然だろう。私を暗殺してこようとした魔族は一人残らず駆逐した。私の得意分野で挑もうと思ったこと自体が間違いなのだ。あの時点で私を上回る者がいなかった以上、いまの魔属領に私よりも隠密が上手い者などいるわけがない。それも私と同じくらいの戦闘力を併せ持った者などいるはずもない。


「だから、私一人で行く」


後どれだけ残っているのかは知らないが、元々人間ほど数が多くない魔族をあれだけ殺して回ったのだから、その数は激減しているはずだ。容易に数が戻らない魔族をこれ以上消費するわけにはいかない。ましてや食料がなくて餓死なんて、間抜けすぎる。


宰相は歯を食いしばり、心の中で何でこいつを魔王にしようと思ったんだとか、いくら何でもここまで馬鹿だとは思わなかっただとか、私を罵倒したり、あの時の自分の思い付きを散々にけなしている。


だが、そんなことは初めから分かっていたはずだ。


「賭けだよ、宰相」


「…何が、でしょうか」


「私を魔王にしたのも、この略奪も、何もかも賭けだよ。賭けるものはもちろん命。私の命と、魔族の命運。こんな作戦に命賭けなきゃいけないくらいに、その価値は落ちて、そして追い詰められてる。そんなことは、分かっていたよね」


かつて人間が、どこの生まれとも分からない勇者と、瘴気に抗える強さを持った少数の人間に命運を託した時と同じくらいに、魔族は追い詰められている。魔族が今できることなどほとんどない。滅亡を早くするか少し遅くするかの違いしかない。


それは本当に、かつて瘴気を恐れ為す術なく死ぬことしかできなかった人間の姿のようで。あの時のことを思い出して、私は口角が上がるのを抑えられなかった。


「私が失敗して魔族も滅びるか。成功してほんの少しでも命数を伸ばすか。それしかないって分かってるよね」


「…ええ、本当に癪ですが」


珍しく宰相が嫌味を口にした。その心の内の罵倒の嵐には目をつむってあげよう。私は今すごく、気分がいい。


「行ってくる」


懐かしき人間領へ。

宰相(この元勇者より、あの脳筋魔王のほうがよかった…。まだましだった)

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