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無駄な会議

「魔族達の使い勝手が分からないから、今回は私一人で行く。宰相は転移魔法の準備でもしながら、留守番をしててくれ」


「え、いや、ま、ちょっと待ってください!」


混乱した宰相が、私の腰の辺りに勢いよくしがみ付いてくる。そんなに全力で掴まれてもこれっぽちも痛くはないが、一体宰相が何をしたいのか分からない。

とりあえず、話だけは聞いてやろうと、魔法の発動を止める。


私が何もせずに黙って立っているだけだと分かったのか宰相は体から力を抜き、そして今頃自分のしたことに気付いたのか、慌てて離れて立ち上がる。宰相の慌て顔とは、珍しい。透明な水晶の眼鏡の奥で動揺に瞳が揺れている。


「お、お待ちください。ああ、もうこの際きつく咎めるような真似はしませんから、少し、ほんのすこぅしだけ、ここでお待ちになっていただけませんか?待っていただけますよね?」


ここで断ると後々面倒臭いことになりそうだ。宰相は脅威ではないが、ねちっこいものを持っている。進んで追い払うものでもないが、かといって無視もできない。

仕方がないので、私は渋々頷きを返す。


「では、最速で招集をかけてきますので、少々お待ちくださいっ!」


退出の言葉もそこそこに、宰相が魔術で姿を消す。一体どこへ行ったのやら。

もちろん、今のうちに宰相の言葉を無視して強奪に行ってもいいが、宰相のせいで気が少し削がれた。強襲の方法を考えつつ、気を高ぶらせて待つのもいいだろう。





私が準備を整えつつ待っていると、その内に宰相が帰って来た。

話だけ聞かせてくれればいいのだが、何故だか宰相は場所は移したいようで、面倒臭く思いながらも、いざとなれば振り切ればいいだけの話だと考える。


半壊の魔王城の中でも比較的形が残っている廊下を歩き、真新しい木の匂いがする両開きの扉に辿り着く。両脇に突っ立っていた全身鎧の生きる鎧的な魔族が恭しく扉を開ける。



部屋の中はまだ内装が新しく、目に痛いほど色鮮やかで、非常に広々としている。遮蔽物がほとんどないのが気に障るが、別に盾くらいはそこら辺にあるもので代用できるだろう。


例えば中央に据えられた、横に無駄に長い机だとか。正面の上座のやけに背もたれの背が高い椅子だとか。後は他の椅子に座る面々とか。いや、だがどれもこれもあまり役には立たなそうだ。扱いずらい。



一昨日に対面したばかりの見覚えのある面々ばかりが、広間に集まっていた。



「魔王様、どうぞお座りください」


宰相にすすめられた通りに、一番偉そうな背の高い椅子に座る。本当は背面が見にくいので、こういった椅子には座りたくないのだが、自分で魔王になると言ってしまったからには、偉そうでも仕方がない。後で他の椅子共々斬り落として、背を短くしておこう。


だが今はそれどころではない。さっさとこのどうでもいい場を終わらせて、手早く問題を解決しなければ休息もままならない。私の右隣に座った宰相を目で急かす。


「えー…今回皆様にお集まりいただいたのは」


「あら、魔王様、またお会いできて嬉しいですわ。あの後、殿下にも逃げられてしまって…子供が元気なのは喜ばしいことですけれど、もう少し一緒にいてくれてもいいとは思いませんか?」


「…そうだな」


生贄という点では同感だ。あの二つの丘に挟まれては息もままならないに違いない。白い豊かな膨らみからそっと目線を外す。外した先に言葉をぶった切られて笑顔のまま固まっている宰相が目に入るが、どうでもいい。

それよりちょうどいい盾はいないのか?少年がいたらよかったのだが。

一つ椅子が空いているからそこが少年の席だとは思うのだが、まだ戻って来ていないのかもしれない。そもそも私はいつ少年と分かれたのだったか。少年の存在感が薄すぎてよく覚えていない。


「おうおう、挨拶なんてどうでもいいだろ。こちとらわざわざ、まーた魔王城まで足運んでんだ。なんかあんならさっさと済ませろよ」

「ですから今、ご説明しようと」


「うむ、そうであるな!我輩にも魔王城の警護という任があるのである!早く終わるにこしたことはないのである!」

「ですから」


「美しいこの僕を待たせるなんて、あなたも罪つくりだ…。僕の美しさほどではないけれどね」

「…ですから」


「っほっほっほ。若者は急くのが好きじゃのう」

「……」


赤髪、全身赤鎧、金髪野郎に白爺さんと話を邪魔されまくった宰相は、何も言わずに米神をひくつかせる。

魔族はそんな宰相の様子には気づいていないようで、各々好き勝手に別の話を始めている。

私は好みの女性の話など聞きに来たわけではないのだが、しかし私は胸は無い方が好みだ。でかいと邪魔だから削ぎ落さないといけない。顔は美人がいい。人ごみでも対象を捕捉しやすいから。


角や翼などにも色々と基準があるというどうでもいい情報を入手することはできたが、結局何でここにこいつらが集まって、そして何故私がここにいなければならないのかが分からない。宰相の方を窺うも下に俯いていて、何がしたいのかさっぱり分からない。


あまり腹黒そうな人物を覗きたくはないのだが、仕方がない。心を読み取る加護を発動させ、宰相の真意を聞き取る。


(全くこの馬鹿長達は!今が緊急事態だということが分かっていないのか!ああ、もうそもそも魔族とはどうしてこう―――)


恨みごとが立て板に水を流すように勢いよく大量にに流れて来たので、即座に加護の効果を切る。

…成程。問題が起きたから緊急招集会議というわけか。納得はしたが、果たして知力、知策の乏しい魔族の会議など意味があるのだろうか。今だって各々好き勝手に相手の話など聞かずに、自分の理想の女性を語り合っている。約一名だけ家族愛について語っているようだが、聞かなかったことにする。


「っはん、女なんてのは、女らしさがあったらどうだっていーだろ。後は落とせばいいだけだ」


「美しくない。全く以って美しくないよ君!運命の女性に対してそんな節操のない対応をするつもりかい!?」


「ああ?節操がないのは元からだが、それがなんか問題あんのか?」


「大有りだよ君ぃ!」


「…ところで皆様」


ぴたりと、まるで示し合わせたかのように一斉に会話が止む。こうやって内に溜めたものを表に一気に出してくるから腹黒は嫌いなのだと、溜息交じりに冷気の元である宰相の方を見る。

宰相の顔は今までに見たことがないくらいにこやかだったが、その内心の声は聞きたくもない。


「私が、どうでもいい案件で皆様をお呼びになるとお思いで?」


静かな威圧に高速で首を横に振る赤髪と金髪。確かに力は宰相よりも二人の方が強いかもしれないが、搦め手までつかってくるとなると二人は絶対に宰相には勝てないだろうから、萎縮するのも頷ける。他の面々は、赤鎧はさっぱり分からないが、白爺と色魔族はにっこりと笑っている。確信犯というやつだろうか。


「…多少は、分かっていただけたようで何よりです。先日、皆様からのご要望で食料などの支援物資を送るというお話がありましたが―――食料を魔王様が全て徴収されたため、できなくなりました」


「うん」


ようやく本題に入った。赤髪が何やら殺意に満ちた目で睨みつけてきているが、やってもいいのだろうか。


「おい、どういうことだよ、この野ろ…魔王様よぉ!人間より魔族は頑丈だけどよ、俺ら魔族だって餓死はするんだぜ!?」


「代わり、盗って来る」


さっさと代わりを用意しておけばこんな面倒な問答はしなくてもよかったものの。一体宰相はこんな無駄なことをして何が面白いのだろうか。私が知力に欠けていることは、旅の間に十二分に分かっているので、一応宰相の言うことには耳を傾けていたが、私にとって宰相の頭はあまり有用ではないのではないだろうか。利用し、利用されの関係でいいとは思っているが、ここまで負の面が多いと、少し考え直す必要がありそうだ。


「代わりぃ?んなもんどっから…」


「人間領」


魔素がないと段々と弱って行く魔族とは違って、私は人間だ。人間領でも普段通りに活動できる。そして小手先の隠密術なら専売特許だ。盗まれる瞬間までは見つからないと断言できる。盗んだすぐ後には当然、発見されるだろうが、逃亡技術なら魔属領にくる道中で十分に学んだので、問題はない。


だが私の作戦に、赤髪の魔族は眉をしかめる。


「いや、無理だろ。癪に障るが、今俺達魔族は、人間から目こぼししてもらってる状態だ。お前のおかげでな。勇者のおかげで人間の生息域は広がって、魔族の生息域も個体数も減った。魔族が弱っている内に追い打ちをかけないのは、準備を整えてるのと、お前っていう分かりやすい旗印がいなくなったからだろ。かなりの数を道連れにできる自信は当然あるがよ、どう考えてもそのうち押し負けるだろ。それなのに真正面から喧嘩を売れるか!もっと頭使って話せよ!」


赤髪から馬鹿呼ばわりされたが、頭がよくないのは本当のことなので何とも言えない。だがそれでも、それ以外に現状を打破する方法があるのか。私が食料を奪ったのが問題の中心であるかのように魔族達は語っているが、本当の問題は別にあるだろう。


問題の一つは、何故あの程度の食料を奪っただけで、国が困窮するような事態になるのかということだ。人間一人が消費する食料など、全体から見れば微々たるものだ。私の常識からしてみれば、一つの食料庫から全ての食料を徴収しただけで、他の所にも食料があるのだと考えていた。


それが、あの程度が斜陽の魔族を養う食料全てだというのか。確かに魔族は魔素からも栄養を補給しているから、人間のように毎日食事は必要ないだろう。だがそれは全く必要ないということではない。魔族も緩やかに飢えていくのだ。それなのに、あれが備蓄の全てだというのか。


…本当にそうならば、人間が直接手を出すまでもなく、放置するだけで魔族は滅ぶ。人間と全面戦争をする前に死ぬ。


私が魔王を倒すまでは普通に生活できていたというのならば、魔属領が狭まったことにより、耕作地が破棄せざるを得なかったと考えるのが自然だろう。未だに魔王になる方法もよく分からないし、魔属領が元に戻らないならば、他所から持ってくるしかないだろう。定期的な略奪だ。


「宰相、方法」


私の方法が駄目ならば、他に案はないのか。宰相がこんな簡単な問題に気付いてないはずもないだろう。それでも私を責めるのはただの苦言か、切実な懇願か。後者ならば、頭のいい宰相にも解決策はないということだ。


「…正直、今の魔属領の大きさではこの人数の魔族を養うのは、難しいとだけ言っておきましょう」


「そう」


どれだけ工夫をしても、根本から駄目な場合もあるということだ。私のような力づくな策でしか解決できないことに苛立っているのか、宰相は珍しく悔しそうである。ちらっと心を覗いて、予想通りの思考にしてやったという高揚感が生まれる。魔王を倒した時よりも嬉しいかもしれない。王都に着く前の凱旋ほどではないが。


「だけどよぉ…!」


「待ちなさい」


再び炎上しかける赤髪を制する色魔族。だがその制し方が胸を押し付けるというのはいかがなものか。確かに、息はできないし、押しても柔らかく掴みどころがないので押し退けにくいが。ばたばたと壊れた操り人形のように手を振り回す熱血魔族を見ながらそう思う。


「魔王様。私も可愛い子供達が飢えに苦しむ姿は見たくありませんわ。もちろん、先に私が飢え死にますが、残された子供達の苦労を思うと…この胸が張り裂けそうです!」


脳裏に思い描いた子供が苦しむ姿に、色魔族は自分を抱き締める腕に力を込める。まあ、色魔族の腕の間には哀れな魔族が一人いるので、自分の体を抱き締められはしないが。ごきっと何か固いものが綺麗に真っ二つになるような音がした。気が付けば、赤髪の魔族は、ようやく静かになったようだ。


「そもそも上策などないことは理解しておるんじゃがのぅ。だが一時凌ぎの食料確保のために、人間に攻め込む口実、大義をこれ以上与えるのはのぅ。どうせならば、できうる限り内輪で揉めていてほしいものじゃ」


「もう、やってる」


白爺魔族のいうことも分かる。同士討ちを狙えるのならば、それが一番いいに決まっている。だがしかし、個人対個人で力比べ程度しか同族内でもめない魔族とは違って、人間は年がら年中、それこそ何百人も死ぬようなもめ事を抱えているのが日常だ。


勇者として旅をしていた時も、理不尽な権力者など山ほど見てきたし―――大抵は苛ついて会った瞬間にやってしまったが―――逃げているときだってそうだ。いや、今が一番酷いかもしれない。何せ、元は魔族のものだった土地は、今は空白地域だ。数年は魔素が残っているであろうとはいえ、人間が入植できないほどでもない。この際、寿命が十年くらいは縮んでも構わないと思うのならば、土地を取りに来るだろう。

魔族が使わずに残しておいた資源がたっぷりと眠っている、お宝のような土地なのだから。


だが周辺諸国がその土地を巡って争いを起こさないはずもなく…今はまだ罵り合っているだけだが、隙を見せれば今度は人間同士の戦いが始まるだろう。弱って自分の土地に引っこんでいる魔族を警戒はするだろうが、いつでも殺せるのだから、まずは邪魔な敵から。そう思っても何も不思議はない。


だが私は、それを黙って見ているつもりなどない。

土地を掠め取ろうとする人間。それを想像するだけで、怒りで、頭が冷えていくのが分かる。


「私が魔王なら、この土地は私のもの。そうでしょう、宰相?」


「…魔族全体のもの、と言いたいところですが、あなたが管理し、治めるべき地という意味であれば、その通りです」


相変わらず回りくどい。だが、国は民のためのもので王は民のためにあるべき、とか言い出さないだけましだろう。最も、そんな王を求めていたのならば、最初から私に取り入ろうとはしないだろうが。


一体何が言いたいのかと、宰相が猜疑に眉をしかめる。


「今は魔素がないとはいえ、魔属領は魔属領。つまり、魔王である私のもの。…私は、自分の場所に軍隊が押し寄せてくるのを、ただ指をくわえて見ているような人間じゃない。どうせ、後で侵略するのは決まっていること。なら、まずは攻め込ませないこと。これ以上奪われないこと。そうでもしなきゃ、弱る一方。そんな馬鹿みたいな死に方、私はしたくない。飢える前に食いつくか、食らいつく力もなくして死ぬか。そうでもしなきゃ、ここから覆せないよ」


なにせ、私がそうなるように徹底的に追い込んで、出ている所は全て叩き潰したからな。私の仕事に抜かりはない。魔族は滅ぶ。私のような、元魔王のような抜きん出た強者がいなければ、確実に。今この場にいる面々が魔族の幹部だというのならば、絶対に。例え宰相がどんなに素晴らしく明晰であっても、もう勝負は決まっているのだ。


元勇者である私が魔族に加担でもしない限り、私が人間に敵対しない限り。

…いや、やはり宰相はすごいかもしれない。勝ち目のない盤上で、敵の駒を、自分の駒に仕立て上げたのだから。


だけれども、私だって万能じゃない。死ぬ時は死ぬ。一人で人間と敵対して、勝てる気は全くしない。この魔族の面々をどうにか上手く煽って、囮にしたところで横から崩すという策しか思いつかない。なるべくなら数少ない優秀な駒を失いたくはないが、これから戦争なので、死ぬのは仕方がない。


「これは前哨戦。ここから始める。足りないなら奪うだけ。奪われそうなら思い知らせてやるだけ。単純で分かりやすい暴力を体現するだけ。今更小細工は通用しない。待っても弱るだけで意味がない。…会議なんて無意味。どうせ、分かっていること」


少しだけ加護の力で心を覗くが、結局はみんな分かっていることだった。色々と上に塗り固めてはいたが、分かっていた。種族ごと絶滅する覚悟がなければ、本当に死ぬということが。

私を魔王として受け入れなければ、死んでしまうということが。


葛藤も恐怖も、軋轢も、何もかも私にはどうでもいいことだ。

ただ、この、この滾りさえあれば。


それを思うだけで自然と口角が上がるような。それを思うだけで動悸が激しくなるような。何かをしなければ居ても立っても居られない、この高ぶり。以前よりも薄いその思いが、それでも私を突き動かす。



「貴重な戦力を、ここで消費はしない。だから、私一人だけで行く。…私一人だけで十分」


「…はい。承知致しました、魔王様」


私にとって無駄な会議は、何の成果も生み出すことなく、終わった。



…強いて言えば、損害一名。

壊れたように動かない、赤い魔族を見て、そう思った。

若くて無謀で赤髪の熱血魔族(俺の、扱いが、酷過ぎる…)

色魔族「まあ、顔色が悪いわ。大丈夫、私が一から十まで面倒を見ますから安心してお眠りなさい」

若くて(略)(あ、これって永み、ぐふっ)

金髪魔族「はっはっは、麗しき女性の双腕の中でいけるとは羨ましくはないが、君も幸せ者だねぇ。僕はもちろん、麗しく去るのみさ!」

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