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ERROR CODE:1x005 旅立つモノ

本編5話目で大移動回。戻るつもりではありますが。

目の前の少女は、薄い服を寒そうに羽織って終始無言で俯いている。

「それじゃあ、一度本社まで来てくれるかな。そこで、君の今後について話を聞きたい。」

「本社、ですか?」

声を出す度に狼狽している様子が見て取れる。元は男だったから違和感が拭いきれないのだろう。申し訳ないことをしてしまった。

「群馬にあるんだが、そこで君の性能試験というか確を行いたいんだ。来てもらってもいいかな?」

一瞬の間があった。

「はい。」

「よし、そしたら車で送ろう。こっちに来てくれ。おい佐藤」

椅子でふてくされている佐藤を突っついて急かし、少女を連れて部屋を出る。


立つと、少し足がふらついた。そして、視界が低いことに気付く。

元の人生に未練などないが、それでも身体が変わった違和感には戸惑いが隠せない。髪の感触、胸の重み、声が、それぞれ自分の身体が変わったことを主張する。

なんとか歩いて武藤さんの後をついていく。佐藤さんが電気を消しながらカートを押してついてくる。


外は明るかった。素晴らしい天気だった。

駐車場に横付けされた青いレガシィは、綺麗に磨き上げられたボディに太陽を写して、静かに佇んでいた。促されるままにリアシートに乗り込むと、トランクにカートの中身が詰め込まれ、二人は前席に乗り込んだ。運転は佐藤さんだ。

しばらく車に揺られているうちに、俺はまた、眠りについた。


佐藤のレガシィは、平日朝の空いた高速道路を飛ばし、一路群馬へと向かった。



群馬は曇りだった。

「着いたよ。ここだ。」

武藤さんの声で目が覚める。道中ずっと寝ていたようだ。いつの間にか倒れていた体を倒し、シートベルトを外す。

車を降りると、3階建てのこぢんまりとした小さなビルが建っていた。

「ここがオオタロボティクスだ」

佐藤さんが呟いた。ここで一体何をするんだろう?

「えっと、正面から入ると多分いろいろ面倒だから、裏へ回ろうか。こっちだ。」

武藤さんの案内で裏口から入る。佐藤さんはいつの間にかカゴになっているカートをぶら下げている。

「先行開発事業部の会議室の鍵をとってくる。佐藤この子を頼む。」

「心得た。」

そう言うと武藤さんは走り出していった。

「こっちだ」

そう言うと佐藤さんが先に立って階段を上っていく。

「会議室は3階だ。」


会議室の前で小さな少女を眺める。武藤と俺の最高傑作だ。どこからどう見ても人間だろう。少女は俯いて、小さく震えている。そんな格好では寒いだろう。それにこんな所に突然連れてこられては不安で仕方ないのだろう。

どうしようか悩む。人間ではないにしろ、小さな少女であるにしろ、ふたりきりという状況は苦手だ。

何か話しかけるべきなのか?それなら何を?社内の部屋の鍵の管理は厳重で、定められた書式の申請書を提出しなければならない。その上で、事務課の審査を通過しなければならない。目の前の少女のような極秘研究がいくつもあるというのがその最たる理由だ。先行開発事業部の本部長たる武藤でさえ、全貌を知り得ないほどの管理体制を敷いている。

「さっき、生体部分がメンテナンスハッチ周辺以外で使われていると言ったよな。」

苦し紛れに口を開く。

少女の目がこっちを向く。大きな目だ。

「メンテナンスハッチではSSD/RAMの交換ができるほか、有線接続端子類が内蔵されている。ヘッドセットは接触が悪いから、急速充電や急を要する同期ではそっちを使うといい。」

「それは……どうやって……?」

少女が初めて口を開いた。俺は一番大事な事を伝え忘れていたことに気付く。

「メンテナンスハッチは電磁ロックと高耐久カーボンゴムパッキングで完全に密閉できるようになっている。開ける方法は、指先で縁をなぞってやればいい。場所は、腹だ。20センチ四方の正方形状になぞってやればいい。」

ピピッ、という音が廊下に響く。キュッというパッキンの擦れる音と共に、少女の病院着の腹部が不自然に盛りあがる。

「お、おい。今やるんじゃない。人来たらどうするんだ。俺がなんかやったと思われるだろう。」

いきなりやり始めたことに焦りを覚え、慌てて制止する。

俺がやったといえば確かにそうなのだが、別の意味で取られそうだから人に見られてはまずい。狙いすましたかのように足音が聞こえ始めるし、非常に危ない状況だ。

「とりあえず、ハッチをはめれば自動でロックされるから、戻してくれ。人が来る。」


「何してるんだ?」

後ろから声がかかり、俺は盛大にビクついた。いや、これは飛び上がったと言ってもいいかもしれない。

しかし、振り向いたそこにいたのは長年の付き合いの気のおけない相方、武藤だった。

「驚かすなよ。びっくりしただろう。」

急速にしぼんでいく緊張感に力なく笑いが漏れる。

「俺は普通に近づいただけだ。で、何してたんだ?腹パンか?」

「違う、メンテナンスハッチの開け方を教えてたんだよ。」

冗談混じりの質問にため息をつきながら答える。

「どうりで腹を押さえてるわけだな。さて、鍵持ってきたから会議室へ入ろうか。空調効くまでは暑いかもしれないけどね。」

佐藤さんのイメージは渋いおじさんです。武藤さんは溌剌とした男性のつもりです。

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