ERROR CODE:1x003 二度見失ったモノ
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ベッドに戻り、違和感しか覚えようにない自分の体と周囲の状況をもう一度確認する。着ている服は病院の入院患者が着るような水色の薄い服だ。服をめくって腹を見たり、背中に手を回してみたりしたが傷跡は残っていなかった。
部屋は広い。そしてすべてが白い。そんな空間に無機質な金属ラックに収められたサーバー用と思しき大型のコンピューターが数台、ディスプレイに接続された家庭用のコンピューターが一台ある。
自分のこの格好とは裏腹に医療機器のようなものはない。謎だらけの部屋だが、窓のない扉は大きく、これは病院の手術室のそれとよく似ている。手術室のように扉の上にランプとスピーカーがついているが文字はない。
この不可解な状況は一体何なんだろう?
不思議な白い部屋に女の身体、消えた傷。何をとっても訳がわからない。
いや、一番おかしいのは自分かもしれない。刺されたと思ったら変な部屋で女になっていて、どうしてこれほどまでに冷静でいられようか。
結局、今までの人生で何も感じてこなかったのだろう。無感情な人生だったと、自嘲する。
「地上の星」が流れだす。長いイントロを待ち、声が入ったところで応答ボタンを押す。個人的なコダワリだ。
「武藤か!?」
電話の声はうわずっていた。佐藤だ。
「どうした、まだ5:00だぞ…」
眠そうに返事する。その言葉とは裏腹に、今日は早く起きてしまい暇を持て余していた。
「ラボの実験体に霊魂が定着した反応があった」
「東京事業所に?それは本当か!」
その言葉はわずかに残る眠気を完全に吹き飛ばした。
待ちわびていた時が、遂に来たのだ。電話の向こうの声はさらに続ける。
「これから向かうが、一緒に来るか?」
答えはひとつ。
「もちろんだ!」
佐藤の青いレガシィで高速に乗ると、朝日が高くあがる頃には東京事業所-元は佐藤の研究施設だった-に到着した。
無機質な白い建物は、事業所としてはごく普通の外見のため、周囲の住宅街に対する違和感のような物は殆どない。
佐藤が玄関の鍵を開け、誰もいない廊下を進む。事業所と銘打ってはいるが、佐藤を会社に呼び込むときに施設ごと受け入れ、税金対策で会社としても少し使っているのだ。だから従業員はいない。
地下室の鉄扉の前に立つ。
実験は、きっと成功しているはずだ。
心の中で首をもたげる罪悪感を深呼吸で振り払い、扉の横の端末に認証カードを通す。
ピンポン。軽快な機械音とともに扉の上のランプが点灯する。
しかし、正治はそれに気付いた様子もなく、今までと同じように眠っている。状況を何とか理解しようといろいろと考えあぐねていたら、突然眠気におそわれたのでとりあえずベッドに戻って横になったのだった。
音もなく扉が開く。
「うむ、変化は無いようだが……」
落胆した様子を見せる武藤に佐藤はやや楽しげな声で答える。
「ヘッドセットが外れているじゃないか。」
「ということは、一度目覚めたということか。」
ディスプレイに近づくと、監視プログラムを開く。
「本当だ、4:28に接続が切れてるな。自分で外してたんだろう。」
「これは設計ミスかな。放電が早すぎる。」
「いや、充電時の接続状態が悪かったんだ。非接触式はこれだから駄目だと言ったんだ。」
佐藤がヘッドセットをはめ直すと、監視プログラムの折れ線グラフが動きだし、「新規デバイス接続、認識完了」のポップアップウィンドウが出現する。
「どこから来たんだろうな、この魂は」
ぽつりと、佐藤が漏らす。
「それも含めてこの子と後で話し合わなきゃいけないな。この身体もあるし」
「そうだけど、そうじゃない。魂ってのは基本複製不可能なんだ。そして、本来肉体は魂無しでは存在しえない。」
ここで一旦言葉を切り、眠っている少女を眺める。
「ここにこの魂が来たと言うことは、どこかでこの魂を持っていた肉体が死んだということになる。」
返す言葉など無かった。自分で望んでいたことではあったが、それを取り巻く現実が現実として突きつけられるといいようのない空虚感が襲いかかってくる。
自分は何をしていたのか。目指す先に何があったのか。
「死んだ魚のような目をするな。」
佐藤の声が現実に引き戻す。
「彼女からすればもっと大変なはずだ。そんな狼狽している様子を見せてどうするつもりだと言うんだ?今と未来を考えろ。少し先などいずれどうにかなる。」
二人で少女を抱え、研究施設だった頃応接室だった部屋の柔らかいソファに寝かせる。寝かせると、武藤はヘッドセットの取り外しにまた地下へと戻っていった。
状況説明ばかりだらだらと続いてしまいすいません。というか主人公適応しすぎ