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愛してはいけない

沖縄の陽射しは、既に真夏の強さがあった。

金城にとって、父が与えてくれたカメラがこの道に飛込むきっかけとなった。根っからの人間嫌いで、友達は一人もいない。写真を撮る以外には、浜辺でデッキチェアに座り絵を描くこともあった。誰にも自分の世界があるように、俺の世界には他人は要らなかった。



人に逢う事が苦手な金城でも 今回の個展は金城の父のホテルで行われるため、顔を見せないわけにはいかなかった。勿論 取材など持ってのほかだ。



初日だけ顔を出して、帰ってくるつもりだった・・・のに・・・・・




金城は 美村瑠璃と言った女性の名刺を見つめていた。


自分でも解らなかった。




何故 そんな行動をとっていたのか?



けれど、彼女以外には、有り得なかったのだ。





・・・何がだ?




ただ 本能が彼女を求めていた





*********************************************




瑠璃は その日からあの写真集を見つめながら眠りについた。常用していた睡眠薬は 必要なくなっていた。




「最近 美村は顔色が良いな?」

カメラマンの杉田にそう言われた。


あの日から瑠璃に深い眠りが戻ってきたからか?


食べ物も美味しいし、化粧ののりも良い。



「おい美村。今日は時間に遅れるなよ。折角の 大物なんだからな! 」


編集長が ニコニコ顔で送り出してくれた。タクシー券まで付けて!


(そりゃそうでしょ?)



数十社 取材を申し込んだ中で、許可が降りたのはうちだけなんだから・・・

ボーナス弾むからな!っと言っていた。



「美村! 化粧直して行けよ?」


「分かってますって!」

子供じゃないんだから!






 個展会場には既に大勢の人が溢れていた。その中には、マスコミ関係者も多数いた。

少しでも、コメントを取りたいとマイクとカメラを構えているが、彼らしき人物は現れていない。スタッフが大わらわで対応している。


受付で 名刺を渡すと待ちかねたように、女性スタッフが瑠璃とカメラマンの杉田を出迎えてくれた。


彼女の後ろに付いてエレベーターに乗り込んだ。




「お待ちしておりました。金城は部屋で取材を受けると申しております。」

そういって最上階のボタンを押した。




・・・ゲッ!


スィートだ!


背中を武者震いが走る。





部屋をノックすると、中から「どうぞ 」と声が聞こえた。




ドアを開けた時、やはり前に会ったときと同じ、体中の血液が逆流するような熱い感覚・・


(何なの?)




海と初めて会ったときと同じ匂い


「ようこそいらっしゃいました。忙しい時にありがとうございます。」

金城は右手を出して握手を求めた。


大きな骨ばった手だ。

海と同じように、指が長い。右手の甲に深い傷があった。




横から杉田がツツク。

「これから金城さんの取材をさせて頂きます美村瑠璃とカメラマンの杉田です。よろしくお願いいたします。


早速ですが、金城さんが写真を始めたキッカケを教えて頂きたいのですが?」

ソファに向かい合わせに座りテーブルの上にボイスレコーダーを置いた。杉田は少し離れた所からファインダーをのぞいている。


「勝手に撮ってくれて良いですよ。」

杉田に向かって穏やかそうな微笑みを返した。


どう撮れば機嫌を損ねないか、ベテランカメラマンの杉田でさえ金城に気を使っていたのだ。




(オイオイ、誰だよ?気難しい偏屈だって言ったのは? メチャクチャ気遣いをしてくれるじゃないかよ!)  杉田は驚きを隠して頭を下げていた。


「私が、写真をとるようになったのは父の影響です。 暫くアメリカに居て体調を崩し塞ぎこんでいた私に、父が自分の大切にしていたカメラをくれたんです。それで、地元の海を撮るようになっていきました。」



声も 似ている。



深い海底の様に響く声。





・・瑠璃・・瑠璃・・・愛してる・・・






海の腕に抱かれ、何度も聞いた声




・・美村さん?・・・


その声が、私の名字を呼ぶ



「おい美村!」


杉田が驚いて美村の頬をパチパチと叩いた。


「大丈夫か?」


??


「真っ青ですよ? 美村さん 気分が悪いんじゃないですか?」


金城が瑠璃の隣に座り顔を見つめていた。

瑠璃は一瞬、気を失ったらしい・・


「済みません!私どうしたのかしら? 」

金城に見つめられて、蒼かった顔色が、真っ赤になってしまった。

「まるで信号機だな。しっかりしてくれよ?」

杉田がホッとした顔で、カメラを持ち直した。




私 どうしたのかな?




こんなこと 今まで無かったのに?




それから金城のインタビューは順調に進んだ。 気難しいと言う噂は影を潜め、和気相合と冗談も交えながら取材は終わった。



「本当に ありがとうございました。 良い記事にしますから、発売を楽しみにしておいてくださいね。」

挨拶を交し、部屋を出ようとした二人に金城が声をかけた。


「あの? 今夜一緒に食事でもどうですか?」

言いにくそうに杉田の顔を見ていた。


ほー 二人でーと言うことね?


杉田には、金城の視線が恋だとわかっていた。何しろ酸いも辛いもしり分けたベテランカメラマンなんだから・・

「いいですよ。なあ美村?お前も今夜は何も予定ないだろう?」

「あっハイ。でも良いんですか?私達みたいなので?」


「あはは。もちろんですよ!では、今夜七時にここのロビーで待ってます。あまり良いお店知らないので・・」

照れたように頭をかく金城の仕草は、海の癖と同じだった。


「じゃあまた。その時間に」

杉田は美村に気付かれないように金城に了解の合図をした。


「杉田さん? 良いんでしょうか?ご馳走してくれるって事ですよね? こっちがしないといけなくないですか?」


「ははは。夜の食事はプライベートなんだから良いんじゃないか?それに編集長には、内緒にしろよ!」


「はい。分かりました。」

あの視線に気付いていないなんて マジで美村はお子ちゃまだ! と 杉田は思っていた。


社に帰りパソコンに打ち込んでいると、後ろから杉田が耳打ち込んでしてきた。

「折角 ご馳走してくれるって言うんだから お洒落して来いよ。俺も着替えて来るからさ!」

悪戯を企てている悪がきのように ニヤリと笑った。


えーどうしよう? 来て行く服なんて無いよ!




結局インナーを白いキャミソールに変えただけで 瑠璃は仕事用のパンツスーツでホテルに向かった。 杉田は違う仕事が入っているからと つい早急キャンセルのメールをしてきた。

もう 私 独りで逢わないといけないの?

嬉しさが半分と、何か解らない恐怖が半分。



ロビーには未だ人が少なくない。

その中に、彼がいた。

回りの誰も気付かない程に、気配を消している。けれど、瑠璃にはその人が彼であるとわかっていた。


「お待たせしました?」

瑠璃が小声で声をかけようと近付いた時、金城がスーッと立ち上がり瑠璃の手を握りエレベーターに乗ったのだ。



「済みません? マスコミ関係者が未だ残っていて、余りロビーで話したく無かったものですから・・・・」

ハッとして繋いだ手を離した。


確にロビーには瑠璃の知っている記者も何人かいた。 けれど、直ぐ隣に金城が座っていたではないか?


何故 彼らには解らないのだろう?

幾等 キチンとした写真が無いからと言え、彼から溢れでるオーラと言うか、雰囲気は常人のそれとは違っているのに・・・


「あの 杉田は違う仕事が入って今日は来れないんですが?」


「ええ 杉田さんからお電話頂きました。美村さんは付き合ってくれますよね?」

熱い瞳で、それでいて不安そうに 金城が問掛けた。


「本当に ご馳走になって良いんでしょうか?」

「もちろんです。 そうでなければ又 今夜も独りで食事をしないといけないんですから。」

恥ずかしそうに、金城が答えてくれた。

「では、お言葉に甘えて・・・」



料理は レストランの個室に用意されたフレンチのコースだった。

瑠璃の大好きな手長海老の前菜 沿道豆の冷生スープ 真鯛と鮑のポアレ 牛ヒレのステーキ等 瑠璃が余り食べたことのない料理だった。


金城との会話も、まるで以前から知り合いの様に楽しく瑠璃の心には、初めて海以外の男性の存在が刻まれようとしていた。

「ご馳走さまでした。凄く美味しかった。」


「美村さん? お願いがあるのですが? 明日も 一緒に食事してくれませんか?」



「エッ 良いんですか?」

思わず本音を嘴ってしまった。

「本当なら 明日には沖縄に戻ろうと思っていたんです。 でも、 美村さんが一緒に居てくれるので有れば、個展の間だけでも東京に居ようかと思って・・」金城の言葉に含まれている好意に気付かない程 瑠璃は鈍感では無い。

取材中の熱い視線にも 気付いていた。 けれど 敢えて気付かない振りをしていたのだ。


海と同じ顔 同じ声で『瑠璃』と呼ばれたなら、キットこの人を愛してしまう。

けれど、そんなことは出来ない。


海を胸の奥に住まわせたまま 他の人を愛することなど許されない。




ましてや、姿が似ている人を愛するなんてこと・・ 有り得ない・・

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