似ている人
瑠璃は、その日編集長にある写真集を渡された。
最近、海外の賞を獲った写真家だそうだ。
その賞を記念して、東京で個展を開くらしいのでインタビューを獲って来いというのだ。
何でも、極度の人間嫌いで今まで彼のインタビューを取った記者はいないんだそうだ。
「編集長、どうして私なんですか?そんな難しい人なら、もっとベテランの男性の方が良いんじゃないんですか?」
「へー美村。怖気づいているんだ?いつもは、取材させろって煩いぐらいなのに・・」
編集長が、ボールペンを指の間でくるくる回しながら惚けている。
「それは、そうですけど・・」
「駄目もとで行って来い。賞を取った写真は凄いぞ。そんな写真集よりもっと良いぞ。それを見るだけども儲けもんだ。彼は今日一日しか東京にいないから取材の申し込みは、今日しかないぞ。多分、他社ももうすでに乗り込んでいるはずだ。」
編集長に背中を押されて、瑠璃は取材ノートを持って社屋を出た。
日差しがキツクなってきた。 あー日傘を持ってくれば良かったな・・・
今日は、その写真家が個展を開く為の打ち合わせに沖縄から来ているのだ。
各雑誌社が、取材を頼む為に押し寄せていることだろう。
・・絶対無理! 私みたいな取材ビギナーに合ってくれる筈なんて無いのに・・・・・
げー やっぱり。個展会場となるホテルには、すでに数十人の記者が詰め掛けている。
押し合っている人ごみを避けて柱の横に立っている、関係者と思われる男性に声を掛けた。
「すみません。小涯社の美村です。取材のお願いに来たのですが・・」
・・・何なの?・・・海?・・・
・・ううん・・違う・海じゃない・・・でも・・・・・・・・・
瑠璃が声を掛けたのは、金城龍 その人だった。
俺はその人が硝子ドアを開けて入ってきたとき、自分の魂が抜け出してしまったんじゃないかとおもった。吸いつけられるように、彼女を見ていた。
東京へ来るのは、何故だか嫌な予感がしていたのだ。NYに行く時は、そんなことは無かったが東京で個展を開くと聞いた時は、どうして?と感じてしまった。親父の仕事の関係で、どうしても断れないからと渋々承諾してしまった為か、打ち合わせに来ることすら嫌だったのだ。
元々、人に合うのが苦手で、知らない人に取材を受けることなどもってのほかだった。
アメリカでも、取材はマネージャーに任せていたぐらいだ。今回も、全て断ろう。そう思っていた・・
それが・・・・・・・彼女から取材の申し込みを受けた時、思わず了承してしまった・・・・・
彼女は「小涯社の 美村瑠璃」といった。
・・・・・半身だ・・・・・・・・・・
喜び勇んで社に戻ると、編集長が両手を挙げて喜んでくれた。
「でかした!!うちだけらしいぞ。取材を受けてくれるのは。よくやった。さすがは美村だ」
「ありがとうございます。個展の初日に、時間をとってくれることになりました。カメラマンの手配お願いします。」
「判った。杉下をつけるからな。来月号の目玉になるぞ!!!」
その夜、瑠璃は編集長から貰った金城の写真集を見つめていた。
ココアを飲みながら、ソファーに座りその写真集に目を奪われていた。
そこには、五年前に行かなくなった海があった。
きらめく光が溢れている、海があった。
・・・海・・・・
・・・海・・・・
・・・そこにいたんだね・・・・
海がいた
どの写真の中にも、海が存在していた・・・・
いつのまにか溢れ出している涙で見えなくなっていたが、瑠璃は幸せそうに微笑んでいる
そして 五年前から手放せなくなっていた睡眠薬に頼らず、
瑠璃は深い眠りに落ちていった




