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五年後

  あの夜から 五年が過ぎた



 それぞれの心の中に しこりを残したまま 時間だけが過ぎていく


瑠璃たちは 大学を卒業し、それぞれが其々の道を歩いていた。


瑠璃は 出版社で編集のアシスタントをしている。美帆は 某大手銀行。 佳樹は商社へ入社していた。芹歌と浩之は某TV局のアナウンサーとして活躍している。


 あれ以降 誰も海へは行っていない・・・




 

  それは ある日の昼休みのことだった


 芹歌と浩之が珍しく、一緒に社員食堂でランチを取っている時。

壁に掛かっている大型液晶TVの画面から、ある写真家の映像が流れていた。

沖縄の海を撮っている新鋭の若手写真家だった。 


 流れる波の音が聞こえてきそうな・・吹き荒れる風の怒りが見えるような・・・写真だった・・・


そして、その写真家の姿を見たとき、芹歌と浩之は固まってしまった。


「おい。芹・・今の見たか?」

口に入っていた ハンバーグを無理やり飲み込むと、浩之は声を絞り出した。

「うん・・・・見た・・まさか?・・・ううん・・信じられない・・・」

いつも冷静な芹歌の口調ではない。



「俺、ちょっと映像室に行ってくる。」

浩之は、今の映像のビデオを借りてくるつもりなのだ。


・・・まさか・・・信じられない・・・

 けれど あまりにも似ていた・・・確かに雰囲気は全く違う

しかし・・芹歌の直感は 彼が・・・海だと感じていた・・・


もう、ランチのカルボナーラは冷めてしまっていた。



「おーい。芹ー。 判ったぞ!! あの人は沖縄の写真家だ。

 金城龍 二十五歳。最近、海外の何とか賞を獲った人らしい。

 ビデオは借りれなかったが 唯一一枚だけあった写真を貰ってきた。」

浩之が持ってきた一枚の写真には、金城の横顔が写っていた。

「どうして、こんなのしか無いのよ?」

・・これじゃ 判らない・・・


「なんだか、えらく気難しい人らしいんだ。 この写真も パーティーのスナップで、他の人も写っていたんだけど、彼だけをPCで取り出してもらった。 

 今度、その賞の写真集を出すらしいから、うちの局が協賛で個展を開くんだって話だ。」

さすが、顔の広い 浩之君だ。 こんな短い時間で的確な情報を得てくる。

 ・・・いったい 誰に聞いてきたんだろう?・・・


「私、もうすぐ本番だから行くけど・・どうする? 佳樹に話してみる?」

「そうだな? 佳樹と美帆にだけは話しておくか?」

「うん。 まだ、瑠璃には 言わないでね。」

「判ってる。 佳樹と美帆には俺が連絡しておくから。 芹は夜なら大丈夫か?」

「うん。 六時には 局を出れるよ。」

「よし。 俺も 今日は五時おきだからZで待ってる。」

「了解。」

右手を上げて、芹は スタジオに走っていった。


・・まだ、瑠璃には 話せない・・ 芹歌の言う通りだ・・・・


 瑠璃は 変わった。 あの事件から、瑠璃は変わってしまった・・・・・


あの頃の瑠璃は、独りで本を読んでいるのが好きな物静かな少女だった。 しっかりものの美帆とミスA大学の芹歌に囲まれ、目立つ事はなかった静かな美少女。



五年が過ぎた今、彼女は男性にひけをとらない、キャリアウーマンになっている。パンツスーツを着こなし、ショートカットの髪型と長く伸ばしたネイルは、今や瑠璃の代名詞となっている。

浩之から見れば、それらは瑠璃を覆っている鎧だ。 痛々しい程に強くなった。




「芹 こっち」

美帆が手を挙げて ドアを開けた人影に声を掛けた。


こんなに暗いのによく解るよな?


「今 浩に聞いたんだけど、本当なの?」

「うん。 私も浩之もびっくりしちゃって。 美帆も あれを見たら腰を抜かすと思うよ?」

佳樹には、にわかに信じがたい話だ。


「ただの他人のそら似なんじゃないのか?」

「だよね。 海のはずはないよ。有り得ない!」

「そうだよ。 もし海なら、俺達に連絡が無いなんておかしいし・・」


確に海の遺体は見付からなかった。今だ、行方不明のままだ。 けれど、もし、誰かに助けられていたとしても、もう五年がたっているんだよ。連絡が無いのは有り得ない!」


確に 海が生きていて俺達に連絡をしてこないはずは無い。皆があれほど探して 捜索が打ち切られた後も、何度もチラシやポスターで情報の提供を呼び掛けた。 けれど、何の確実な情報も無いまま今にいたっているのだ。

海には、両親はいなかったが、父親の弁護士が彼の後見人として、

金銭的な事などを一手に引き受けている。その弁護士からも何の連絡も無いのは おかしい。 やはり、彼は海じゃ無いんだ。




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