つまり、そいつは転校生。13ページ
「神鎌 猛、ねぇ」
奪い取った診断結果記入カードを眺めながら、伊坂はゆっくりと呟いた。
俺の背中を汗が伝う。さっき落とした二枚の紙のうち、伊坂が拾ったのは男の俺の時の結果が書かれたカードの様だ。
ゴクリ、と、無意識に口の中の唾液を飲み込んで、俺は伊坂の様子を伺った。
なんで男の時の診断カードが拾われてしまったのか、拾われたのが、俺が今手に持っている女のカードなら、まだ誤魔化しが効いたかもしれないのに。
周りがやけに静かに感じる。自分の息が荒く、音を立てて漏れている。もう一度、口の中の唾を飲み込んだ。
そんな事をしていると、伊坂が俺の方を見た。瞬間的に身を硬くする。こいつはこれから、何を言うつもりなのだろうか?
「…………やっぱり……かな?」
はい?
「……うん。やっぱり、君は神鎌 猛君だね。今は女の子の様だが」
え?何?何こいつ。
「……やっぱり?」
伊坂が言った事を理解出来ず、俺は思わず聞き返した。やっぱりって、どう言う事だ?
……そう言えば、燕達はもう寮に帰ってしまっているなぁ。二周目の検診も最初は面白がってついて来ていたのだけれど、途中から飽きたらしく、気が付いたらいなくなっていた。
じゃなくて、
「やっぱりって?『今は女の子の様だが』って?ど、どう言う事だ?」
どもりながら、俺は伊坂に一歩近づく。だって、やっぱりってことは、性転換の概念がすでにあるって事だろ?マンガやアニメの世界としてでは無く、現実に性転換があるってわかってるって事だろ?
それに、『今は』って言葉。今はってことは、男から女にの一方通行ではないってことを、こいつが知っているってことだ。
何で?普通有りえないもんだろ?もしかして、俺が知らないだけでこの世の中には俺と同じような体質の人が何人も居るのか?
伊坂は、一旦後ろを見て、「まだ何人か並んでいるな……」とつぶやいた。
そして、俺の方に向き直ると、穏やかな笑みを浮かべる。
こいつは、鋭いやつだ。こいつは、軽く引
くくらいの美少年だ。こいつは、俺の体質について何故か詳しい。こいつは、今、俺を見ている。こいつは、……
「そこまで不安がらなくてもいい。ただの話として聞いているだけさ。この街の病院に務めている父さんからね」
こいつは。こいつは……え?
え?
「『一人の患者の担当医になったのだが、今まで見たことも聞いたこともない症例でね』と、僕に愚痴ってきているのさ。ついでに、その症例がどんなものかも聞いている」
え?
ちょっと待った。なんだって?
「男になったり女になったりする人がいるだなんて、話を聞いただけじゃ信じられなかったよ」
伊坂が俺のことを知っている理由は、伊坂の父親から、性転換する人が居ると聞いていたから。
伊坂の父親は、この街の病院に務めている。それって……つまり……
「まぁ、こうして目の前に性転換する人が……」
「おおおおおおおおお前っ!伊坂先生の息子かっ!」
思わず、俺は大きな声で叫んでしまった。