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つまり  作者: 石本公也
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つまり、そいつは転校生。12ページ

振り返った人物は、最近良く目にする伊坂君だった。相変わらず、一歩後ろに下がりたくなる顔だ。

俺は再びふぅーっと溜息を吐いて、壁にもたれる。早く終わらないかなーこの検診。

ふと、伊坂の方を見てみると、彼はどうしてか目を丸くして俺を見ていた。

「……君、僕の名前を知っているのかい?」

少し戸惑った様子で、伊坂が聞いて来る。

「あっ」

そういえば、今は女の体なんだっけ。ついさっきまで男でいたから気が抜けていた。

「えっと、いやー、ほ、ほらさ……」

慌てて取り繕いながら、女の状態で伊坂と出会った記憶を探す。言葉の方はさっきからうーとあーしか言えていないが、気にする物じゃ無い。

「だ、大丈夫かい⁈」

自分では気にしなくとも他人から見れば挙動不審。伊坂が戸惑った様に聞いてくる。

「えーっと、ほら、転校生って名前広まるの早いからさ……」

「しかし、さっき君は『なんだ、伊坂か』と、明らかに名前を知っているだけでは無い反応をしていたし……」

「ええっとそれはですね~!」

それはお前とよく顔を合わせているからな。っと言うより、クラスメイトだから毎日か。

それに、燕達程では無いにしろ、よく話しているし。

そんな事を考えていると、何時の間にか伊坂は顎に手を当てて、思考を始めていた。

そう言えば、スカート男子と燕のうんぬんの時も、食堂で「性転換」と呟いた時も、こいつは顎に手を当てて考えていたな。

今度はどんな推察を言ってくれるのだろうか。

「……少し、いいか?」

ふと、伊坂が顔を上げた。

「な、なんですか?」

その端正な顔立ちと、真っ直ぐに向けられた瞳に、俺は思わず敬語になってしまった。

「君は、この学校の生徒だよね?」

「……まぁ、そうですけど」

だからこうして面倒な健康診断を受けているのだ。

「君は寮住まいかい?」

「え?……あ、確かに、そうですけど」

「そうか……」

伊坂は一体を聞いているのだろう?この学校の生徒で、寮住まいのやつなんて、珍しい物じゃないと思うのだが。

「…………ねぇ」

目の前にいる伊坂が、何故か改まった様子で言葉を発した。

「はい?」

思わず聞き返す。と

パァン

「ふわっ⁈」

いきなり伊坂が、俺の顔の目の前で両の掌を勢いよく合わせた。

猫だまし。相撲などで使われる、奇襲戦法の一つ。その猫だましをまんまと決められた俺は、驚きのあまり、手に持っていた二枚の診断結果記入カードを離してしまった。

「あっやば」

床に落ちる二枚の紙。慌てて二つとも拾い上げようとするが、片方は俺が回収する前に、伊坂の手に渡った。

伊坂は拾い上げた紙に目をやると、静かに、ゆっくりと呟いた。


神鎌(かみかま) (たける)、ねぇ。」

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