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つまり  作者: 石本公也
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つまり、そいつは転校生。7ページ

時は移って放課後。

桜が舞い、穏やかな春の初めの陽気の中、俺達は寮へと続く道を歩いている。

「ねぇ猛」

ふと、目の前で風に舞う花びらを掴み取ろうとしていた燕が、振り返って来た。

「どうした?」

今日配られた新二年の教科書が入って重たい鞄を両手一杯に抱えながら、俺は訊き返す。

「さっき伊坂君が言ってた話、朝猛が言ってたのと酷似してる気がするんだけど」

「!」

おもわず足が止まった、バランスが崩れた鞄が、ドサドサと音を立てて地面に落ちる。こいつ、忘れてなかったのか。

「あっ猛なに落としてるんだよ」

後ろから和樹の声が聞こえる。それと、修達の視線も感じる。

「猛?」

「……まぁ確かに、伊坂とは、昨日に顔を合わせたね」

地面に落ちた鞄を集めながら、俺はあまり大きくない声で呟いた。

そう。昨日は、顔を合わせただけだ。自己紹介なんかしてないし、話してすらいない。

「えっ?猛昨日伊坂とあってたのかよ」

修が驚いた顔をしている。四組ではない飾と和樹は、その顔の上にハテナマークが見えそうな表情をしている。

「あれ?だとしたら伊坂は猛と気付くはずだよな。どうしてた?」

優太は眼鏡に着いた桜の花びらを取っ払いながら聞いてくる。

「単純な話だ。昨日はかかり。それだけなんだよ」

桜の木に遮られた空を眺めながら呟く様に言う。花びらを散らして、でも葉がまだ出ていない桜の木は、不思議な色合いをしている。

……昨日はもう少し、綺麗だったかな。

「なるほど……確かに、かかりと猛じゃあ、面影無いもんな。気付く訳無いか」

「しかも、一言も交わさなかったからな。……そういや伊坂って、寮に入るのか?自宅通いなのか?」

伊坂が寮に入るのなら、会う確率が高くなるな。そう思い振り返って尋ねると、答えたのは目線の先の修達ではなく、頭の後ろの燕だった。

「そこまで知ってる訳無いでしょ。常識的に考えてよ。……まぁ、林ならもしかするかもしれないけど」

 まぁ、そうか。この学校に転校してきた生徒が寮住まいかそうじゃないかを知っているだなんて、よっぽどの情報通か伊坂のストーカーだけだもんな。それじゃぁ、確かめる方法は他に何があるだろうか。

 ……まぁ別に、伊坂が寮住まいかどうかなんて俺が知る必要は無いのだが、伊坂の話を聞いている時に光り始め、頭の片隅で今も光っている赤ランプが気になって、俺はどうでもいいことを調べようとしていた。

「なぁ燕」

 頭の中で、それなりな案が思いついた俺は、桜の花びらで花笛をしようとしてる燕に話しかけた。

「今日の夕飯、食堂にしないか?別にこれといった意図があるわけじゃないんだが……」

「伊坂君の事調べようとしてるくせに」

「っ!」

 思わず足が止まった。なんでかは分からない。でも、俺は突然虚を突かれた様にはたと立ち止まってしまった。燕はそんな俺の様子を見てふぅーっとため息をつくと、

「別にいいけどね。食堂でも。でもかかり・・・、彼、寮住まいでも食堂に来るかわからないよ?」

 また、去年みたいに背中に流れてきた髪を風に遊ばせて、僅かに口元を崩して、燕はそう言った。


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