つまり、そいつは転校生。6ページ
途端、クラスの連中から、「あぁ」と言う納得した様な、呆れた様な声が上がった。
修は伊坂に言う。
「あー、伊坂、色々と言いにくいんだが、説明してやろう。そのスカート集団な……」
「いや、彼女達は集団では無かったが」
「それはどうでもいい。そのスカートの人達なんだが、特例でもなんでもない清涼学園の男子生徒だ」
伊坂が固まった。
さっきと表情を全く変えず、声も上げず、伊坂が固まった。その目は虚空を見つめ、その口は僅かに開いていて、その頭は動かない。
「………………その話は……」
停止する事十秒間、その顔に信じられないと言う表情を乗せて、伊坂はゆっくりと言葉を発した。
「その話は、本当かい?」
その声色もまた、信じられないと言った感情が乗っている。
「ああ、本当だ」
でき得る限りの真顔(多分)で修は言った。
伊坂は、ゆっくりと手を動かし、燕を指差して、こう言った。
「彼も?」
「違うから!私は違うから!」
「いや、だかしかし……」
「証拠は見せられないし、見せる気もないけど、とにかく私はそう言った考えは持ってないから!」
熱くなっているのか、ドンドン伊坂に近づきながら燕は疑われている事ーーーー燕がスカート男子じゃないか?って思われている事を否定する。
「騙されるな伊坂。こいつはな……」
「優太!あんたは事情知ってるでしょ!何嘘おしえてんの⁉」
「ほう。山瀬は誤解を植え付けられるのに弱いのか?」
「林ぃ!あんたはカード作り直そうとしなくて良い!」
「伊坂が戸惑ってるぞ?燕」
「猛、あんたは明日かかりで来い。かかりで来なさい」
燕は眉間にしわを寄せて、こちらを睨む燕。俺は下手な口笛を吹く。しらねぇよんな事。
一方、色々と要らない情報を与えられた伊坂は、顎に手を当てて、真剣に悩んでしまっている。
暫くすると伊坂は、何かに行き着いたのだろうか。顔を上げてこう言った。
「では、この山瀬さんは特例として清涼学園に通う唯一の女子で、他の人物はスカート男子と言う事か?」
すっげえ。正解だよ。
「そう言えば」
ふと、伊坂が急に言葉を出した。
「ん?」
クラスの連中が、一斉に伊坂を見る。
「そう言えば、昨日も女子を見た」
あまり大きくない声で、しかしよく通るその声で、伊坂は空を見ながら言葉を出す。クラスの連中は黙り込み、静かに、さっきまでとは少し違う雰囲気の伊坂を見る。
「昨日、転校手続きで学校に来ていた。その時、そう、ここの校舎の近くの茂み。散歩気分でそこの茂みに向かった時だった」
「………………」
「突如、誰かの声が聞こえたと思ったら、目の前に少女が現れたのだ。どうやら寝そべっていたらしく、頭に葉っぱが付いていた」
伊坂はゆっくりと語っている。クラスメイト全員、その話に耳を傾けているのだが、全員、驚きの表情を浮かべている。
「本の一節を読んでる訳じゃないんだよな?」
驚きの理由は、これらしい。
伊坂は、そんな呟きは聞こえていないのか、話を続ける。
「起き上がったのは、深い黒色の髪をした少女だった。だが、ここは男子校で、女子がいるものの、特例として認められているのは一人だけ。その特例は、茶色い髪色で、昨日見た少女とは違う……一体、あの子は何者なのだろう」
…………昨日、俺はかかり状態で、伊坂に出会った。
脳の片隅で光り始めた赤ランプ。警告音が鳴るのも、すぐ後の事だろう。