つまり、そいつは転校生。5ページ
「なっ、なになに?どうしたのみんな?」
ものすごく慌てた様子で、燕は言葉を吐き出す。クラスの視線を一身に浴びて、軽いパニックを起こしている。その慌て様は見ていて面白いのだが……。
「山瀬はなぁ。しょうがないと言うか、もう慣れちまったよな」
そんな中、林はこんなことばを呟いた。燕の事を曖昧にしか話さず、伊坂の様子をチラチラと伺っている所を見ると、この転校生も観察しようとしてるみたいだ。
彼がその観察結果をどうしているのか、俺は一応知っている。
林は、人の性格や特技、弱点などを調べてオリジナルカードを作り、それを数人の仲間と共にカードゲームとして遊んでいるのだ。
以前、彼らが作った俺のカードを見せて貰った事があるが、確か特殊効果の所に『心理的揺さぶりが効かない』と書かれていた気がする。後、猛とかかりで別カード扱いされてた。
なんにせよ、林は、データベースと言える程の情報を持っているにもかかわらず、その使い方を間違えている。
「しょうがない?特例みたいなものがあるのか?……例えば、留学生みたいな」
伊坂は、少しだけ当惑した顔で周りを見渡す。確かに、生徒手帳などには、女子留学生を認めるとはかいてあるが、今では姉妹校の温華女学院に行く事になっている。それに燕は日本人。留学生にはなり得ない。
「んまぁ、特例だよな。山瀬の場合は」
伊坂の周りのやつらも、うんうんと頷きながらそう言った。
伊坂は続ける。
「では……その特例と言うものは、何人もいるのか?」
「は?」
「いや、今日ここにやってくる途中も、昨日も、女子生徒を何人も見かけたんだが……」
伊坂はそう口を動かしながら、顎に手を当てる。真実に近づきかけている探偵のように、やや冷たい空気をまといながら。
そんな伊坂に、さっきまで黙っていた修が、ネタばらしをしてしまう。
「あー伊坂……君」
「呼び捨てでいい」
「ありがとう。で、伊坂。『女子生徒』と判断した理由は、一体なんだ?」
あ、修が含み笑いしてる。口調は全く乱れてないけど、少し目尻が下がっている。
だが修と初対面である伊坂は多分その含み笑いに気づいていない。当たり前のようにこう言った。
「もちろん、制服だ。女子生徒はスカートを履いていた」
自信満々。至極当然。軽く引くほどの美少年は、堂々クラスで言いやった。




