つまり、男達の願い? 2ページ
そうだ……うっかりしていた…二月には、バレンタインデーという、イベントがあった…
俺はそれを、クラスの連中に土下座されるまで忘れていた。後ろにいた燕も忘れていたらしく、あちゃーという顔をしている。
「と…とりあえず、顔を上げて、立ちあがって、普通にして?」
俺は戸惑いながら、足元で頭を床に擦り付けている連中に向かって、声を掛けた。
クラスの連中は、ゆっくりと顔をあげると
「それじゃあ、バレンタインは…チョコをくれるんだな?」
と、まじめな顔で聞いてくる。
「いや、それは……ね……」
「たのむうぅ!」
あぁ、再び土下座しやがった…。しかもさっきより腰低い。
「いやね、あげるのは別に良いんだけど、一クラス分となるとさ…」
「たのむうぅぅ!」
頭を床に擦り付け、懇願する男子、これが悪ノリで一人がやってるんじゃなく、クラス全員が本気でやってるんだから嫌になってしまう。
「燕、どうする?」
このまま土下座する奴らを相手にしても埒が明かない。そう思って後ろに居る燕を見ると
「いっ、幾ら猛がおかしな体質だからって、くっくふっ…男子に向かってバレンタインのチョコせがむ男子達……くはっ、駄目だ……あははははっ!」
コンにゃロウ…笑っていやがった。
俺はハァ、と深く溜息を吐くと、笑っている燕の頬を、ギュウっと両手で引っ張った。
「いひゃい、いひゃい」
両手をバタつかせる燕。俺は頬を摘まんでいた手を離した。
「お前ほっぺた柔らかいね。どうしたらそんなふにふにするんだ?」
「なにいってんの?」
頬をさすりながら燕が睨んでくる。
「まぁそれはともかく……燕どうする?バレンタイン」
「どうする?って…あげれば良いんじゃない?普通に」
「一クラス分だよ。それに修達もほしがるだろうから…38コ必要だよ」
「あ……どうしようか…」
教室の入り口でチョコをどうするかを議論する俺と燕。その話の行方を、ただずっと正座して見守る男子達。
「で、どうするの?チョコ。あげるの?あげないの?」
議論が面倒になってきたのか、やや投げやりな口調で燕が聞いてきた。
話をじっと聞いていた男子達が、一気に身をこわばらせる。
「あーあげるしかないでしょ。面倒だけど、しょうがない」
俺がそう言った途端、教室中から歓喜の声が上がる。その後に、万歳三唱。
お菓子を作るかぁ。クリスマスにケーキ作ったけど、難しそうだなぁ。
なにをつくるかはあ後で決めるとして、とりあえず、一時間目の準備をしよう。